2014/09/17: 第14回日本認知療法学会・第18回日本摂食障害学会学術集会 合同学会 参加記 その3 西川

第14回日本認知療法学会・第18回日本摂食障害学会学術集会 合同学会 参加記その3です。

その1はこちら、
その2はこちらです

三日目は毒を食らわば皿までということで、摂食障害学会のケーススタディーをみました。
発表ではCBT-Eをプロトコルに従って行っているというものであり、それならムカつきも少ないだろうと当たりをつけてました。
発表的には「トラウマ処理をしたのが良かった」、「プロトコルに従うと尺が短い」みたいなことをおっしゃっていたのですが、本当かなあ?と思ってプロセスレコードについて質問してみました。
そこはプロトコルに従っているだけあって、きちんとプロセスレコードが採られていて、それを見ると発表者のセッション20の介入が上手くいったという主張は間違いで、治療者が注目していないセッション17で何か起こって良くなったということがハッキリわかったので、そのように述べてみました。
CBTの肩を持つわけではないですが、間違っているということがハッキリわかるという事こそが、治療として最も重要な事かと思います。そうでないと永久に上手くならないですし。
それが判るのはきちんとした構造に則ってデータを集めているからだし、むしろ上手く行っていた部分が予想と違っていたとしても、逆に予想外に上手くいっていたことってどこなんだろう・・・?とあれこれ考える余地が産まれてきます。そんなわけで、良い発表だったなと思いました。
あと、尺がながければ治せたというのは、どうなんでしょう?尺がどれだけ長くても変わらないかもしれないのを、上手く短期で終われたということかもしれないですね。

発表者の先生や座長の先生とは別に、小原先生という指定討論?の先生がいらっしゃって、コメントが完全に真っ当でした。別にCBTの人ではないと思うのですが、どこにでも真っ当な人はいるもんだなあと感心しました。


さて、一つのメインイベントである、「摂食障害の認知行動療法」シンポジウムとなりました。今回どんな大人の事情か摂食障害の認知行動療法ワークショップがないので、大会の用意した両者の架け橋となる実地の発表として負担が大きいものとなっています。部屋もこの日一番でかい部屋です。
中村このゆ先生オーガナイズの元、杉山崇先生、私、中村菜々子先生の発表順で、前者二人が事例を出し、菜々子先生がまとめるといったレシーブ/トス/アタック的手筈でシンポジウムは進みました。
一番バッターの杉山先生は私の想定よりずっとCBT(やそれに至るまでの関係性・状態性)の理論についてお話されていましたが、最後それを症例で上手く纏めておられてました。
私はあまり上手くいったとは言えない、ちょっと冗長な面接になった症例を発表しました。杉山先生が最後の菜々子先生に振りまくるので、私も冗談で悪乗りして振っておいたら、後で叱られました。
菜々子先生は20分というギリギリ短い時間の中で、もうそれ以上はないというぐらいしゃきっとまとめた提示をされていて、流石と思いました。

さて、質疑応答です。想定通り、摂食障害学会員からの質問がたくさん来ます。記憶の限りに書くとこんな感じでした
Q1「摂食障害の中心的な問題であるテーマ、例えば『痩せ願望』を扱わなかったのはなぜか?」
A1「そもそも痩せ願望が中心だとする根拠がない。もちろん必要とあらば扱うが、今回扱う必要がなかった」
今読み返してもあんまりパッとしない答えですね。ここはできれば「痩せ願望のような認知の中身をあれこれするよりは、そういったもろもろの認知の扱い方が上手になるようにお手伝いすることが認知行動療法です」ぐらいのことを言うべきだったかと思う。

Q2「上手くいかない症例などもあるのか?」
A2「上手くいかないことはあるが、摂食障害だから難しいというような印象を持ったことはない」
これもまたパッとしない受け答えで、むしろ「この発表も大してうまくいってない症例を出したつもり」ぐらいに答えておけばよかった。

Q3「CBT-Eの治療成績は**位と言っているが、それについて意見はあるか?」
これは、つまり成績が良いということを聞いているのか、悪いということを聞いているのか判らないな?と思っていたら、菜々子先生が同じことを聞いて受け答えしていた。

Q4「行動制限に基づく認知行動療法についてなぜ勉強しないのか?我々は色々工夫をしている」
A4「入院中に良くなって、退院して悪くなるようなものを治療とは呼ばないから」
これもまた、もう少し行動制限に基づく認知行動療法のフォローをしても良かった。
行動制限に基づく認知行動療法をやらないでノーエビデンスな関わりに終始するのは全くの論外だが、エビデンス的に見て推奨されない。そもそも退院後アンコントロールな随伴性を治療の中心に据えるのは中長期的にみて失敗することが目に見えている。

Q5「プロトコルに従うCBT-Eの良さについてもうちょっと伝えてほしい」
A5「プロトコルに従う、オンデマンドにやる、プロトコルに従って外れたものにオンデマンドにやるの3つのうち、治療成績がいいのは一番最後。」
これも、また、「プロトコルに従ってやれば、こんなに面接が長引くことはなかった。それが私の下手くその所以」とフォローを入れておけばよかった。

でもまあ、要するに「治療が上手くいかないのは臨床が下手くそだからであって、それ以上の説明はいらない」という話をしようとして、下手くそ下手くそとたくさん言ったので、大会長がかなり憮然とした顔になってた。まあでもそうしないと進歩がないというか、下手が直らないというか、障害特有の難しさは治療者の下手さを覆い隠すためにあるんじゃないわけですから。

さて、勉強のためにBMJに基づくAnorexia nervosaに対するClinical Evidenceを載せてみよう
*Likely to be beneficial(良さそう)*
Refeeding*(再栄養)
*Unknown effectiveness(効果不明)*
Inpatient versus outpatient treatment setting(入院)
Psychotherapy(心理療法)
Cyproheptadine(シプロヘプタジン塩酸塩)
SSRIs(種々のSSRI)
Benzodiazepines(抗不安薬)
Atypical antipsychotic drugs(非定形抗精神病薬)
*Likely to be ineffective or harmful(効果なさそうもしくは害)*
Older-generation antipsychotic drugs(旧世代の抗精神病薬)
Tricyclic antidepressants(三環系抗うつ薬)

入院治療や、心理療法や、抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬は軒並み効果不明か害をもたらす。
つまり、それらに頼る精神科は軒並み全滅なわけです。


それはちょっと悲しいので、政治とか入って甘め採点(個人的感想です)のAPAに基づくAnorexia nervosaに対するPsychological Treatments の Evidenceを見てみることにする。
・Family-Based Treatment (有効である強い証拠)
・Cognitive Behavioral Therapy (ある程度/議論の余地のある証拠)
とあります。要するにCBTなんてせずに、Family-Based Treatmentをしろってことですね。

同じEating DisorderでもBulimiaだと、
・Cognitive Behavioral Therapy (有効である強い証拠)
・Interpersonal Psychotherapy (有効である強い証拠)
・Family-Based Treatment (ある程度の証拠)
・Healthy-Weight Program (議論の余地のある証拠)
となっているので、まだもうちょっとCBTもイケるというか、CBTとIPTとが双璧で、次点FBTて感じでしょうか。
健康体重について述べる必要はなさそうです。私もたしかにそんなことを言ったことはない。

ちなみに、摂食障害学会の演題は、このようなエビデンスとは全く無関係です。
今回の発表の中にはFBTに関して2題だけ演題がありました。2題どころか、ほとんど全部の演題がそれでもいいのにね。
ついでに言えばIPTの発表はなかった。CBTは今回合同だから多いけど、去年のプログラムをネットで見てみると、・・・1題ぐらいかな。

結論としては、摂食障害学会はエビデンスとほとんどなんの関係もない学会です。


さて、大幅に話がそれましたが、昼はランチョンセミナーで金吉晴先生のPEのお話。金先生話のリズムが独特なんだけど、色々なデータが矢継ぎ早に述べられていて面白い。ここでもトラウマ記憶を消すための薬の話。最近持ちきりだなあ。


最後に残った睡眠のワークショップは、CBT-iについて3時間話すというなかなかの苦行でした。
今回大会企画シンポ1、ランチョンセミナー2ワークショップ1とかって、なんでこんなに学会が睡眠押しなんだろう?

事前に聴衆がどんな人達か教えてくださいと事務局に言ってみたら、全く音沙汰がなかったので、資料作成ついでに再度尋ねてみたら、「名前はお知らせできませんが、所属なら・・・」と事前登録の20数人について送ってきた。
しかし、当日参加で計50人ぐらいなので、当日参加の分も判りませんか?と尋ねると、ちょっと待って下さい、ちょっと待って下さい、のオンパレードで、名前だけならわかりますが・・・等と言われて、じゃあそれでもいいですからよろしくと伝えたら、結局ぎりぎりになって20数人の事前参加の分だけがプリントされて渡された。そんなわけで、事前に聴衆のことを知ろうとする努力は残念ながら実らなかった感じでした。


ワークショップで挙手をお願いすると、認知療法学会員の人が半分ぐらい、摂食障害学会員が2名ぐらい、非会員が半分ぐらいという、非会員というのは何だ??という感じの聴衆で、ますます話をどのへんに持っていけばいいのか良く分かりませんでした。
ただ想像していたのは、聴衆の大部分は睡眠障害の人たちをメインでやっているわけではないのだろうなということです。おそらく様々なクライアントさんの様々な寝られなさについての訴えを受けてここに来ているという感じではないでしょうか?
とりあえずSASとかは面談で全然わからないから、そこはキチンと身体の病気として検査しましょうね、的なことを伝えておく。

講義ではなくワークショップってことでしたので、講義は2時間半ぐらいで終わり、30分の質疑応答を通じて、ある意味ロールプレイ的に実地のやりとりを見て頂くという臨機応変な手抜きでやってみましたが、それなりに良い質問がたくさん出て、皆さん質問者さんによって共に学べたという感じでしょうか。
私は講義には必ずアンケートを取ってセルフフィードバックをかけるのですが、主だった感想としては、
・どんな患者さんの訴えがあり、どんな風に応じているかがが具体的に判ってよかった
・メタファーが参考になった×6
・事例が参考になった
・質疑応答のやりとりが実際的でよかった
・患者さんへの語り言葉が参考になった
みたいな感じでした。

全てを終えて、疲れきってしまいました。多数のクオカードを頂きましたが、今回の学会は忙しすぎて色々な人の話を聞けるという感じではなかったです。
スタッフと中野島の川沿いのカフェで打ち上げ風にお茶していると、関西認知行動療法研究会の人々もいて、和気あいあいしていました。私の参加できなかった他のプログラムなどの様子を聞き及ぶに、スタッフ皆無事に発表した様子であること、自助グループの発表がイカしてたらしいことなどでした。

川の流れを見ながら、はてさて学会というのはなんだろうなと思っていましたが、ゆく河の流れは絶えずしてまた元の水で無いように、学会も様々な事情で移ろい逝くものかと思います。田中さんや井上さんが微妙に感じる雰囲気の名称変更の、ビミョウさの部分には両者の学会への愛情が感じられるわけです。
逆に心理臨床学会に参加してみると、知人の参加者の多くが「この学会は宣伝とかに使うだけで、利用すればいい」的な態度を取るわけです。
ツイッターなどを覗いてみると、大方の反応は「うざい」「ややこしい」「いっそ合併しろ」ぐらいでした。まあ、一般的にユーザーとしてはそうですよね。

多分こーゆーのは、私の嫌いな「愛着」の話でしょうね。
認知療法学会を単に利用するだけのものと考えている人であれば、そんな名称変更にもやっとした身体感覚をさして抱かず、スっとOKなことなんでしょう。

今後の私にとって、学会は何かしら利用できるものが有るんでしょうかねえ・・・。
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投稿者: 西川公平
2014-09-17 01:42

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