2014/01/27: 性犯罪加害者に対する認知行動療法

「性犯罪を犯してしまった」という方が時々CBTセンターでカウンセリングを希望されます。
よくよく聞いてみると、弁護士さんに「行っておいたほうがいいよ」などと勧められてきていたり、親に勧められてきていたりします。
性犯罪者の再犯防止プログラムに認知行動療法を用いるようになって数年が経ち、司法業界にも「性犯罪には認知行動療法」という知識が広がってしまっているのかもしれません。

そこで、参考までに性犯罪に対する認知行動療法について書いてみます。

認知行動療法ですから、性犯罪という行動やそれにまつわる認知に対して何らかのアプローチを掛けるわけですが、その前によくある間違ったアプローチについて書いてみます。

最初の間違ったアプローチは厳罰化です。
「厳罰化すれば、一層性犯罪や再犯が無くなるか」という社会実験が米国で行われましたが、刑期の延長などは再犯予防に対して効果がなかったと言われています。

次に間違ったアプローチは、反省です。
「絶対絶対絶対絶対もう二度としないと心に誓います」というのは、たいていの場合それらが起こってくるメカニズムから目をそらすための回避です。
何ならメカニズムからというより、性犯罪を犯してしまう自分自身から目をそらしているのかもしれないですね。

そういう意味ではDVの人も「もう二度と殴らない」と回避し、アルコール依存の人も「もう二度と飲まない」と回避するので、衝動制御困難系の人が全般的にやってしまうマズイ行為としての「反省逃げ」ってのは有るのかもしれない。
「絶対もうしない(から、それについてちゃんと考えるのは避けたい)」みたいな。

さて、そのような罰することや反省することから距離を置いて、認知行動療法では性犯罪加害についてどのようなアプローチをするのでしょう?

まず最初は「認知や行動の連鎖を明らかにしていくこと」がスタートです。

性犯罪といっても、おしり触ったり、パンティー盗んだりしたその瞬間が犯罪なのではなくて、そのような犯罪が犯されるべくして犯されているそれなりの筋道や理由があるわけです。
それらを事細かに聞きながら、(実際の所マスターベーションのおかずまで聞きながら、)「そうしてその人は性犯罪に至ったのだ」ということが納得できるよう、メカニズムを明らかにしていきます。
これがつまり、いわゆるケースフォーミュレーションです。

ちなみにこのような聴取が、聴取のみならず、曝露であったり、ノーマライズであったり、様々な作用機序を持っていることもままあります。
この時セラピストに偏見があったりすると、間違い正し反射が出たり、出なくともクライアントに察せられて、正直にありのままを語ってもらえなくなるので、まあ何が正しいかは司法と警察に任せて、中立中庸を保つことが肝要ですかね。

ケースフォーミュレーションができたら、あとは、スキルトレーニングなどが行われることが多いです。
直接的に性にまつわるトレーニングもあれば、間接的にストレスの何もかもを性的に発散させてしまうような貧しいコーピングを、もうちょっとバラエティー豊かなものにしていくようなものもあります。
要するに、普通の認知行動療法です。


もし非犯罪者の認知行動療法と違うところがあるとすれば、そこには「法と犯罪」というラインが引かれていることであって、一般的な精神疾患では認知の歪みとか何とか言っても、それは要するに本人不便に過ぎませんが、性犯罪加害者の認知の中には時に「犯罪を招きかねない認知」という本人不便を超えたものがあります。

まあしかし、結局そーゆー類の認知であっても、やることはその認知をじわじわと動かしていくお手伝いなので、普段とぜんぜん違うことをしているわけではないのですが。
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投稿者: 西川公平
2014-01-27 15:10
カテゴリー: 様々な困りごと

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