2009/12/03: 性犯罪と認知行動療法

先日とある保護観察所に呼ばれて性犯罪と認知行動療法の話をしてくれと言われた。
どうやら先の学会でドメスティックバイオレンスについて発表したのに感銘を受けたらしい。

少し話はそれるが日本で認知行動療法を積極的に用いなさいとされている困りごとは今のところ二つしかない。

その一つはリワーク、つまりうつ病の復職支援だ。「うつ病で休職している人の復職支援に対しては、認知行動療法を用いなさい」と明文化されている。
実際何度か認知行動療法の研修などを行っているが、障害者職業センターのリワーク担当者の方がお見えになる事がしばしばある。

そしてもう一つは性犯罪者のトリートメントだ。性犯罪者の矯正プログラムに認知行動療法を用いることが義務付けられている。
これはおそらく性犯罪者に認知行動療法を用いた矯正プログラムを行うと、再犯率が下がるという、アメリカのデータに基づくものだ。
逮捕された性犯罪者が再犯をしない確率は約83%で、逆に言えば約17%は再犯する。そこに認知行動療法を用いた矯正プログラムを行うと、再犯率は約10%にまで減る。つまり7%ぐらいが認知行動療法の効果と見積もられている。

主戦場である心療内科や精神科、学校などでは認知行動療法を用いるようになっていないのがちょっと皮肉ですが、・・・まあ色々あるのでしょう。

前者のリワーク関係ではここ数年お呼びがかかってきているが、後者の性犯罪に関してはオファーが来るのは今回初めてだ。

しかし、私が性犯罪についてとても明るいというわけではないので、どのように研修を組み立てるか迷いに迷った。

認知行動療法が対象者である性犯罪を犯す人々に用いられる時、どのようなポイントを押さえればいいかについて良くわからない。
判らない事は聞こうという事で、性のスペシャリストたる横浜心理相談書の千田先生に電話して聞いた。

ふむふむ、なるほど・・・。さすがは専門家。

時間があれば梅花の角谷先生にもご意見伺いたいところだが、若干時間が無いので残念だった。今度お会いした時には是非聞いてみよう。

さて、元々話そうと思っていたのは、普通の認知・行動モデルの話に加えて、これまでの矯正プログラムの効果についてと、バイオロジカルな面でみた性犯罪の話と、衝動制御の話と、行動分析の話と、嗜癖の話と、ウツの話と、解離の話と、発達障害の話だ。
盛りだくさんなのは的が絞れていないからだとご批判頂きそうだが、実際のところ的が絞れていないから仕方が無い。

おそらくそれらの話は精神科で働く者にとっては耳なじみのあるキーワードであっても、保護観察官の面々には新規な事柄だったので、平易な言葉で説明するように腐心した。

苦労したのは犯罪を犯した方への矯正プログラムという側面は、心の問題を抱えた人々への心理相談という側面とはまた違った趣があるだろうから、その辺もどこが落とし所の違いなのかについて難しいなと思った。
その辺は、前述の千田先生のアドバイスがとても納得いったので、それなりに私の中では結論がついていたが、それは机上の空論でもあるのであくまで私個人の意見であると付け加えた。

その辺の難しさについては、次回述べたいと思う。

【行動嗜癖に対する諸介入について】
http://cbtcenter.jp/blog/?itemid=2138


【ゲーム依存について】
http://cbtcenter.jp/blog/?itemid=2178
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投稿者: 西川公平
2009-12-03 17:44
カテゴリー: 様々な困りごと

Comments

こぼり on 2009/12/04 2009-12-04 06:29

もう4年前のことになりますが、武蔵病院(現・国立神経センター病院)の研究会に、「どなたか認知行動療法をやりにきてくれませんか?」と障害者職業センターの方がリクルートに来ていたんです。

原田先生の薦めでレンタル移籍、じゃなくて、週1で職業センターに通ってリワークのCBTをやってたんですよ。

この記事を読んで、いまやリワークで積極的にCBTが用いられるようになったんだなと、うれしくなったのでした。まあそんな感じで、前半の重要ではないところへの絡みでした。

gestaltgeseltz on 2009/12/11 2009-12-11 01:24

>こぼりさん

その後林先生に引き継がれたやつですよね、たしか。お噂はかねがね

障害者職業センターの方々は他府県からもけっこう熱心に研修会に参加されたりしています。
実際障害者職業センターでリワークCBTをやっている心理士も最近周りに多いです。

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