2013/01/29: 「被害と加害を防ぐ 家庭と少年の サポートシステムの構築」セミナー参加記

“非行や触法経験のある発達障害児者を、地域でどうサポート/支援していくか”、に焦点があてられたセミナーが、福井大学で開催されました。
浜松医科大学 子どものこころの発達研究センターの主催でした。参加した所感を書いてみます。

子どものこころの発達研究センターとは、全国5つの大学(浜松医科大、阪大、金沢大、千葉大、福井大)が合体して作られているんですね。その流れで、福井にも来ていただけたのでしょうか。平日の夜に、ありがたや。

さて、セミナーの趣旨は、
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非行・触法行為を行った少年、特に、発達障害傾向の児童青年が、少年院や児童福祉施設を退所後も、地域に適応していくには(再び非行や触法行為を繰り返さないためには)、従来の受容的な個別心理療法だけでは効果がないと分かっている。
彼らが、退所後も地域で出会う困難をかわし/乗り越えていくには、人とうまくやっていくスキルを身につけることが有効だと分かっている。その対人スキルを身につけるトレーニング方法は、これまでいろいろ開発されてきた。
しかし、児童福祉施設などの現場では、ニーズが高いわりに、取り入れられていない。なので、改めて、現場でも使いやすい集団のトレーニングプログラムを開発しました。というお話。

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トレーニングプログラムは、主に、上手な頼み方/断り方を身につけるための行動リハーサル(SST)と、感情をコントロールするための認知療法から構成されていました。認知行動療法(以下、CBT)が少し入ってくるのかな〜とは思っていましたが。そのものでした。

ゲーム的な面白さ・ユーモアを用いる事で、モチベーションを上げる工夫がされていました。また、ワークシート、感情切り替えリモコン、自分の中にあるいろんな感情を観察するための壷など、見える化(視覚化)を丁寧に取り入れることで、特性に対する配慮がされていました。「フレッシュバックを防止するためにも、個々の触法行為を最初から扱わない」という配慮には、なるほど〜でした。

開発者曰く、“学校の先生やスクールカウンセラーが、学校の子どもたちにも活用できるように”という狙いもあるとのこと。そのためか、取り上げられているネタは、「バイトの面接に一緒に行ってもらえるようにお願いする編」、「勉強を教えてとお願いする編」、「トランプゲームの誘いを断る編」など、一般的な対人場面が多かったです。
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しかし、目的と介入が少しズレていて、このプログラムが上滑りしてしまいそうな予感。。

このトレーニングプログラムは、『児童福祉施設など現場職員が、非行や触法経験のある発達障害児者のサポートにむけて、使いやすいものを提供する』ことを目的に、開発されたそう。

ならば、文字数をもっと減らさないと使いにくい。福祉現場は人手が少なくて忙しいし、非常勤職員さんも多いから連携が簡単ではない。知らない事を1から取り入れるには、エッセンスを残したシンプルなものであるべき。

もし、モチベーションが高いスタッフさんが1人いて、運良く導入できたとしても、周囲のスタッフからはなんや難しいわ〜と倦厭され、続けて実施して行くことが難しくなる。そればかりか、スタッフ間に溝を作ってしまうこともある。

それに、『非行や触法経験のある発達障害児者』をターゲットとしているなら、尚のこと、分かりやすくお願いしたい。○○大学附属中学生などエリートをターゲットにしているなら、もちろんこのままでOKですが。不要な部分を削ぎ落とす作業は、専門家だからできることだと思います。


あと、日常生活につながるような工夫が大事ならば…
◇「タバコを誘われたけど断る編」とか、「コンビニで雑誌を盗もうと誘われたけど断る編」くらい載せておいたら、現場スタッフも彼らも助かるんじゃないですかね。

◇施設退所後には、自宅で親とタバコの誘いを断る練習をする。保護司さんと一緒に近所のコンビニに行って、雑誌棚でリアル練習をする。もし昔の仲間から誘われたら、断ってみるという実践が積める。地域において、コミュニティの1役割を担って行くであろうコンビニ側も、雑誌が盗まれず損失が少なくなるというメリット&身近なトレーニング場を提供するという社会的責任を提供できる。ダメですか?

◇そして、家事を手伝うことでお小遣いをもらい、そのお金を握りしめてコンビニへ。
◇その後は、コンビニでバイトとして雇ってもらう。コンビニは、なんといってもマニュアルがしっかりしているので、悪いチョイスではない。チャレンジ期間などと名付けた試用期間を設け、ジョブコーチをつけて。コンビニのおばちゃんおじちゃんに見守られながら少しずつ。
◇1シーズン1回、フォローアップミーティングとして、集まる。うまくいっていることいっていないことを、愚痴る会。

自分の手で金を稼げる/自分で動かないと金が入らない、こんな自分でも誰かの役に立てる。でも、全てがうまくいくわけやないわ〜と受容する。こういったシステムや体験は、なによりも大事なんじゃないですかね。



あと現場で取り組みやすいのは…
◇個人が既に持っている気晴らし行為(適応的な対処行動)を、ヨーイドン!で書き出させて、「おれはこんな気晴らししてる〜」とシェアしてもらう。“それ真似してみよかな〜”、なんて思ってもらえたらすごい。
→グループの凝集性が深まる。1人じゃないという体験は大事ですね。

◇以降、1日の終わりに「今日のよかった気晴らし作戦は〜」とプチミーティング。
◇好評な気晴らし作戦は、大きな模造紙に書いて、みんなが歩く廊下に張り出す。
『大人の階段登る〜♪』とタイトル打って、でかい階段&その先に自分たちの宝物を描く。
→他者からの注目、登るイメージや宝物が、彼らの強化子になれば。
大人の階段登るって歌、今の若い子は知らんかvv


1日24時間×365日、ずっと何か盗んでいた/ずっと喧嘩していた。そんなわけはない。
なるべく手垢つけない、個人が既に持っている治療やリソースを活かした介入を、心掛けていきたいです。


セミナー終了後に、開発された先生と少し意見交換させて頂きましたが。
このトレーニングプログラムは、まだ開発段階にあって、どの対象者に効果があるか無いかは、これから調査していかれるそうです。対象者や領域別に、応用編が出てくるのかもしれません。


申込み先&共催にあったアスペエルデの会さん。この会の存在は、スタッフさんや、購入したワークブックなどで存じておりました。研修用のサイトは今回始めて開きましたが、スマートな作りですね。http://www.as-japan.jp/seminar/

子どものこころの発達研究センターも、アスペエルデの会さんも、これからますますご発展なさることと思います。これを機に、いろいろ勉強させていただきたいです。
はるばる雪国までお越し頂き、有り難うございました。
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投稿者: 別司ちさと
2013-01-29 23:37

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