2012/12/25: うつ病に対する認知療法研修 in 福井

福井県北部の認知行動療法(以下、CBT)を学ぶ会は、事例検討会と研修会を合わせ、29、30回目を終えました。
今回は、小堀先生(千葉大学)に講師をお願いし、「うつ病に対する認知療法研修」と題して、福井県内の2会場で開催しました。
参加者の内訳と、所感を、以下にまとめてみます。

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参加者は、福井県南部の会場は、小堀先生をたずねて三千里、他県から参加された方がほとんどでした。北部の会場は、大変失礼ながら…小堀先生のお名前を知る者はほぼいない、福井県人が多かったです。

職種の内訳は、心理士44%、看護師20%、医師11%、教師9%、作業療法士6%、医学・心理学系院生6%、精神保健福祉士4%と、バラエティー豊かでした。地域や職場における各職種の人員数&役割からいけば、看護師さんの参加がもう少し増えても良いかもしれません。広報の問題です。

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5時間半に渡った研修内容は、以下の4つでした。

①「うつ病の心理教育:うつ病になると、何がどのように苦しいのか。休養とは何か。自分のうつに合った休み方を探すには、どうしたらいいか」

ここまで、「休み方」を詳しく教えていただいた研修は、他に無かったです。自身の介入がいかに雑であったか振り返ることができました。自分の中のウツと喧嘩少なくお付き合いするために、自分にあった効果的な休み方を試したいですね。

少し話しが脱線しますが、
ウツ病になったら、医師から『しっかり休んで』と言われます。こう言われただけでは、効果的に休むことは、なかなか難しい。きっと、もっと時間があれば、いろいろ教えて頂けるはずなんです。需要と供給が崩れている日本の現状では、精神科医が1人の患者さんにかけられる時間は、限られていて。全ての患者さんに20〜30分ずつかけては、診療がその日のうちに終わらない。民間の医療機関なら潰れてしまう(他国の精神科は、どんな診療報酬で、何分くらい確保できるんでしょうかね)。

ですから、医師よりも時間が確保しやすい他の者(コメディカル、養護教諭、スクールカウンセラー、地域や社内で保健衛生に携わる者)は、主治医の意向を尋ね汲んで、利用者さんに対して適切に効果的な方法を伝えないと。それが、義務かと。


②「MP法:1日の活動で、できたこと(M)、楽しめたこと(P)を、お気に入りのノートや携帯に記入していく。うつの悪循環から抜け出すために「できることからやってみる」ためのテクニックと、周囲が援助する方法」

ウツになると自他を否定的にとらえる見方が活性化します。MP法は、それと反対の(拮抗する)、病気を持っているが日常既にある肯定的な事実に目を向けてみようというもの。

これは、ポジティブデータログやソリューションフォーカスにおける「黒字ノート」を、達成感と満足感に的絞った感じに思えました。
私は普段、利用者さんに対して、上司がアレンジした「黒字ノート」を使っていました。「今日の良かった出来事はなんですか?」、「その強さは1-100のうちどれくらい?」、「それはどうしてあなたにとって良かったんですか?」と帰属も扱って、個人が持っている信念や世界観(スキーマ)にアクセスさせるもの。

最近は、これに、「その良かったというあなたの気持ちは、嬉しさ、喜び、満足感、面白さ、快感、達成感、充足感、すっきり感のどれか当てはまりますか?当てはまるものに○を付けて。各気持ちの強さは1-100のどれくらい?」を加えてみたものを、個人的によく使います。

小堀先生のMP法は、よりシンプルですから、症状が重度な方も取り組みやすい。また、個人面談の時間が限られている医師や看護師さんでも取り入れ易い方法ですね。実は、他職種でも取り入れ易い「コラム法以外の方法」を教えて下さいと事前にお願いしてあったわけですが。この方法なら、診察室や病棟のベットサイドという環境でも、2分もあれば患者さんに関わることができます。

あと、小堀先生は、「お気に入りのノート、携帯に記入してもらう」、「見せたい家族や他者がいれば、記録を見せる」と言われていました。本人の「記録付け行動」や「快行動」の発生頻度が、維持・増加しやすくなるように、行動の随伴性を扱う。ここがミソなんでしょうね。

本人は、自分がどんな体験をすると気分体調が楽になるのか、上手くいっていることは何か気づける。関わる家族や援助者は、本人の日常生活のどこに関わる(強化する)と、本人の気分体調が楽になるのか分かる。この2つを、シンプルに無駄無くまとめた介入でした。


③「問題解決法:ピンチから脱出する方法。“何かが起こったらどうしよう”という不安が小さくなったり、じわりじわりとうつを追い込むストレスが少なくなる」

事例といろんなエクササイズで、思考の柔軟体操がたくさんできましたね。


④「事例シュミレーション:気分変調症の事例をとりあげ、セッションの局面で「援助者のあなたならどうする?」を反射的に考え、ゲームを交えて鍛える。いじめられ体験の扱い方と醜形恐怖についても学ぶ」


③をベースに、楽しくも厳しく鍛えられました。③と④、小堀先生が言われていた「認知の加工」のあたりは、皆さん苦戦していましたね。ゲームを採点する側の私も、問題に苦戦しました。
小堀先生が求めておられたのは、困り事の緩和/解決に向け、本人の会話/困り事/ものの捉え方を「どこを取り出し、どのように引き出す」か。そして、その後の介入が進み易くなるように、それらに「どんな加工をしてから、本人に返すか」、この2点だと理解しました。

それは、困り事のアセスメント(本人が表現する言葉の中や、言葉の後ろには、どんな困り事があるのか。本人は、どのように、どのような順番で、どのような繋がりで考えているのか)と、本人が希望する道はどこで、そこに向かうには、各困り事のどこから、どのような順番で、どのように扱うと、進みやすくなるかを念頭に置きながら、介入の素地を作っていく作業です。

幼い子どもが「カレーを作りたい」と言う時に、子どもの目線に立って、冷蔵庫を一緒に見渡す。そして、材料を選んで取り出して行く。子の好みに合わせながら、カレーは牛肉か鶏肉か、どんな野菜が旬か。賞味期限切れの調味料が見つかっても、とりあえずそのままスルーして。
材料が出そろったら、各素材の良さ欠点を見極め、それらに合った加工を施し、子どもに渡してあげる。
加工とは、カレー完成までの時間配分を考えながら、手や皿や包丁で、より分け、取り除き、切って、スパイスを振るなど。子ども好みのカレーに近づけるため、そして子どもにカレー作りの1番美味しいところを持っていかせるために、それまでの下処理をしてあげるプロセス。

1対1面談における、話しの引き出しと加工は、こんな流れと似ているような。妄想が先行しすぎて、ズレていますかねvv

確かに難しいワークでした。普段、個別面談の時間を持たない方には、特に難しかったはず。しかし、部下との面談で、診察場面で、ベッドサイドで、職種や立場は違えど、既にやっておられるだろうと思います。

介入の素地を作るのが、ステップその1。ここができないと、技法をのせていくステップ2、3はいずれも上手くいかない。この辺りの研修を、是非また受けたいです。


最後に、
お忙しいところ、はるばる日本の反対側へ来てくださった小堀先生、1週間前には石垣先生と。福井は、大きなクリスマスプレゼントをいただきました。また、会場の設営にご協力いただいた参加者の皆様も、有難うございました。
心から、御礼申し上げます。
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投稿者: 別司ちさと
2012-12-25 12:31

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