陪席と勉強会への参加の感想
行動療法学会に先立って、
原田メンタルクリニック・東京認知行動療法研究所に勉強に行ってきた。
目的のひとつは原田先生の陪席にあった。
原田先生は臨床をしている人間ならだれしも認める認知行動療法の第一人者で、学会発表・質疑のどれをとってもその卓越した臨床技術が垣間見える人だ。
私の見た限り、先生は精神科医療的に二つのかなり挑戦的な試みをされている。ひとつは侵入思考というタームの元に統合失調症に対して認知行動療法を適応させようとしているところで、もう一つは認知行動療法を診療の柱の一本に据えているところだ。中には薬物療法を他に任せて、CBTだけ施術しているなどという、あり得ない紹介もある。
普通、病院において認知行動療法は「趣味」であり、もっと言えばCBTを施術する心理士は「客寄せパンダ」のような存在だ。病院は医者が認知行動療法をするなり心理士を雇ってさせるなり、すればするほど赤字になるので看板には「認知行動療法をします」と掲げるものの、実際は医者がごく趣味的に選んだ、ほんの一部の人間にのみ施術している。
ところが原田先生は、ほぼ全員にCBTを入れるという噂を聞く。
医師の短い診療でそんなことが本当に可能なのか、可能だとすればいったいどうやって施術するのかを感じるために陪席をお願いしてみた。
陪席の内容はもちろん伝えられないが、一人10分で、全員にCBTを施術されていたのには、本当に驚いた。
精神科医は、もっと言えば精神科医療は、この現実をどう受け止めるのだろう?
すなわち時間が短いから満足な診療ができないとか、統合失調症だからエンクローズの内側に留めておくしかないとか、それらは単に個々人の施術者の技術不足に還元されてしまう可能性がありはしないだろうか?
限られた短い時間でも完全にCBTとして成り立っていて、原田先生を前に患者さんは認知を再構成し続ける。原田先生は時折うなずいたりフォローをいれたりする。それでますます再構成が進む。まるでマジックだ。
私自身は認知療法学会のシンポジウムで井上先生に問われた問いがショックだったこともあり、また原田先生の臨床を見たことで、おぼろげながら認知療法というものが少し見えてきたような気がする。
正直なところ今まで認知療法は行動療法の一種かと思っていたところがあるが、今では行動療法が認知行動療法の一種なのだと思う。