2011/11/30: 行動療法学会参加記 〜2日目 西川

二日目は、私の発表番は昼からだったので、ケーススタディーをいくつか見ました。

嶺南病院の岡本先生となごやメンタルクリニックの岡嶋先生のご発表でした。両先生ともザ・臨床家という方で、扱っているケースもなかなか大変な感じで、迫力があり、見ごたえがありました。
研究者にとって臨床とは本来の評価に外れた随伴性であるように、臨床家にとって発表とは、残業と寝不足の温床だと思います。
お二人には関係ないでしょうが、若いセラピストだと経営者側の人に「何の儲けにもならない事に時間を使うな」と怒られそうです。

Scientist & Practionerモデルとは、要するに“無いものねだり”の事で、研究者が「私は月に**人クライアントを診ています」と臨床について述べるのと同じく、臨床家にとって臨床を記述し発表するのは難しいことなんだろうなあと思います。
二人の発表を見て特に思ったのは、「臨床はテニスと同じで、ボールに反応しているのであって、考えて球を打ち返しているのではない」という事です。
いや、本当は考えているのでしょうが、その判断の瞬時さ、自動化によって、もはやそれを自らが思考と見なせない域に達していると言った方が良いでしょうか。

ちょっと前に「臨床家が現場で何を判断しているか」について、模擬面接をビデオに撮って、振り返って観ながらの一言一句を全てを説明するという面白企画に参加しました。
そこで思ったのは、「私って面接中に色々な刺激を受けて、考え、判断し、反応してるんだなあ」という事です。自分で思っていたよりも莫大な量の判断が働いている事が1時間の面接ビデオからも判ります。実際の所、面接時間よりも、面接解説時間の方が倍ほど時間を喰いました。

精神分析なんかでは面接の後で十分に時間を取ってケースについて綿密に仔細に眺めて、その時のクライアントセラピストの心の動きのダイナミズムを徹底して記述するトレーニングなんかがあるようですが、それはそれでとても面白い体験だと思います。
認知行動療法でもそのような熱烈なトレーニングを時に取り入れるべきなのか、あるいは簡単簡便に施術可能になれるウリを損ねることになるのか判りませんが、面白い事と侵襲性のある事だけは確かだと思います。
私のSVはセラピーの軽さと打って変わって粘着質で、皆さんにご迷惑をかけていますが、面接というものは日ごろ注目を浴びないものですから、たまにはいいんじゃないでしょうか?と自分に言い訳しています。

少し時間が開いたので、他人のSVをちょこっとしつつ、口演(不安)を見に行きました。どのフロアも立ち見が出るぐらいいっぱいで、最初は「ちょっと会場が狭いんじゃないか?」と思ったりもしたのですが、ちょうどちょっとだけ立ち見が出るぐらいのキャパというのは、逆に盛り上がってる感を演出できて、良かったなとも思いました。
市井先生の隣がちょうど空いてたので座りながら、市井ゼミ生なのに長時間曝露の発表だったので、なんでEMDRちゃうの?などとしゃべったりしてました。
嶺南病院の南出先生は作業療法士で昔滋賀のCBTを学ぶ会によく来てくれていたこともあり、それも一つの楽しみでした。病的賭博という難しい人に対して丁寧なフィッティングをしていて見事な物でした。以前アルコール依存症の発表されていたときも思ったのですが、アディクティッドな難しい人によくうまいことするなあと感心するとともに、それらの人をいったん頼らせ受け止める”人たらし”というか、度量のある先生なんだろうなあとも思いました。
続いて園田順一先生というレジェンドが抜毛症について発表されていて、ちょっと面白かったというか、演者述べる「”強力な”オペラント強化」というのがなんだろうなんだろうと引っ張っておいて、結局500円のお小遣いだったときにはクスッとしました。確立操作について質問してもはぐらかされてしまい、いやはや・・・といった感じだった。

さて、本番の私のケース報告ですが、13:55スタートを14:00スタートと5分勘違いしていてギリギリ遅れそうになってしまって申し訳なかったです。
普段からスピーチになると緊張しやすい私ですが、もうそのことでかなりいっぱいいっぱいになっていて、冒頭取り戻すのに時間がかかりました。
55分スタート40分終わりの45分間も、結局発表中にどこかに飛んでいて、またしても「00分スタートの45分終わり」と勘違いして、5分オーバーしてしまいました(自分としてはぴったり45分で終わったつもりでした・・・)。
まあ、言い訳ですが55分から45分間話すというのは、若干混乱しますよね...。

発表に対するコメントをたいへんゴージャスな人々に頂くことが出来て、すごく嬉しく思っています。
鈴木伸一先生、清水栄一先生、園田順一先生、書いてて末尾に”一”が付く先生ばかりだと気が付きました。ぷち布置ですね。
もちろん一が付かない先生からもコメント貰いました。
発表における成功をコメントがもらえることだと定義するならば、まさに大成功で、即時強化を痛感しました。

実は同じケース報告を精神分析系の多い所で出したことがあるのですが、全くコメントにならない状態でした。
座長はかなり父子関係にこだわってごちゃごちゃ言い続けて、私は私で完全に聞く耳持たなかったので跳ね返し、フロアが凍りついたようにしーんとしていた質疑応答経験がありました。
そういう意味でもこの行動療法学会は一つのホームグラウンドという感じで、私にとって建設的と思える意見ももらえるし、大変ホッとする気持ちでした。
しかし、書いていて思うのですが、「私にとって建設的だと思える意見だけを受け入れる」というのは、何ら自分自身をより良くしてくれません。
それゆえにもう少し行動療法学会の外で、冷たい風に吹かれながらもそこそこ歩み寄っていくという姿勢を身に着けなければならないなと思いました。久野先生を偲びつつ。
あとは、座長の小野先生は実は滋賀県とも縁の深い先生だったので、前々から少しお話したことがあったのですが、症例を通じていろいろお話しできてよかったです。学会事務局のご苦労なんかもお話聞かせてもらって、鬼のような処理能力が必要なんだなと思いました。

さて、懇親会ではケーススタディーについていじってもらえるかなと思って、ラッキーでした。
記憶は風化しやすいので、懇親会前ぐらいに発表をしておくと、飲みながらぶっちゃけコメントを貰えてお得なのです。
しかし鈴木先生、清水先生にコメントいただけたぐらいで、むしろもっと多彩な話題にさらされることとなり、懇親会が政治の場として機能している感を思い、「ああ、年取ってしまったなあ・・・」と思いました。

二次会では学会長の杉山雅彦先生と、さきの岡嶋先生と、アレックスと4人でコーヒーを飲みつつ2時間ぐだぐだ喋るという、摩訶不思議空間に迷い込みました。
杉山先生とは長時間話したことが無かったので、面白かったです。
特に学会の理事リエンス(理事になる折れない心)については抱腹絶倒でした。
お店のホタルノヒカリが流れなかったとしたらかなりやばかった位に妙な引力のある盛り上がり方で、出てきたときに出くわした神村先生にやや呆れられました。
二次会が不思議空間だとしたら、三次会は危うげな魔界でしたが、それはそれで大変楽しい夜でした。
そしてホテルに帰って、翌日のシンポジウムの準備に明け暮れたのも、毎度のことでした。
このエントリーをはてなブックマークに追加
投稿者: 西川公平
2011-11-30 10:33

Comments

コメントはまだありません。

Add Comment

TrackBack

トラックバック

トラックバッックはありません。