2014/07/23: 2014 日本家族研究・家族療法学会参加記 西川

2014/7/19,20,21と神戸で開催された日本家族研究・家族療法学会に参加してきました。

開催頂き、呼んでも頂いた大会事務局には熱く御礼申し上げます。

しかし、ちょっと学会の名前が長い・・・合併とかしたのかな?と思って学会ホームページの沿革と歴史を見ると、当初からこのネーミングらしい。失礼しました。
しかも1984年第一回はS. Minuchin博士を招聘しているということが分かった。すごい。
しかし、沿革と歴史は2007年で止まっていることが分かった。


ちょうど全く同日開催で京都で、日本家族心理学会が開催されているとフェイスブックで流れてきた。
うーん、素人には区別つかないので調べてみました。
奇しくもこの学会も1984年が創設とある。
ええと・・・・、私の行った日本家族研究・家族療法学会は、日本における家族支援、家族療法に関する精神医学的、心理学的、社会福祉学的、社会学的な研究、応用、普及を目的として、1984 年に設立された。
行かなかった日本家族心理学会は、1984年4月に家族心理学領域の研究を推進し、その進歩及び普及に貢献することを目指して創設された。
な、なるほど。

ここに謎が解けたと思ったのは、私は今を去ること10年ぐらい前に家族療法なるものを学ぼうと研修に行ったことがあり、その時の先生方が、今回の学会に来られてるかなーと思いきや、全くおられなかった。
何故だろう?と思ったら、私が当時受けた研修は日本家族心理学会系の家族療法の研修だったのだ。ややこしい。

まあでも、こんな同日じゃなければどちらにも参加するという先生はおられたのかもしれませんが・・・と思ってみていたら、吉川悟先生は両方行ってる気配。さすが。

両学会のホームページは相互リンクにはないようですが、片方にもう片方のお知らせが載っていて、ホッとしました。



そんな個人的な感想を思いながら、三日間の学会生活を書き記してみたいと思います。

全体を通してとにかく感じるのは、見知った人がほとんどいない学会は気楽であることです。
一参加者として好き勝手なことを言えるし、言わなくてもいいし、自由という感じです。
まあ、知った学会でも好き勝手言ってますけど。
でも今回は、先のブリーフサイコセラピー学会の事務局がそのままスライドしているので、そういう意味では知り合いもいたという感じですかね。
ブリーフは年々知り合いが増えてきて怖いです。

あとは、CBTの学会では中々考えられなかったことですが、発表を見た限り特にデータが取られていませんでした。
ゆえに、良くなったとか効果があるとか有効だとか、そーゆー単なる言葉だけが大安売りで、「結局家族療法で良くなる証拠は一つもない」というのが印象でした。
それはシンポジウムで吉川先生がそれっぽいことを言及されていたことですが、反精神医学まで行かないものの、必要以上に価値の相対化をし過ぎたために、社会のコモン・ナラティブに返って乗れないところがあるのかもしれません。

ちなみにエビデンスを紐解けば、
Family-Based Treatment for Anorexia Nervosa >CBT
Family-Based Treatment for Bulimia Nervosa <CBT
Family Focused Therapy for Bipolar Disorder
for Mania (FFT)<CT , for Depression FFT>CT
Family Psycho education for Schizophrenia FP=CBT
みたいな感じで、CBTに負けず劣らずの証拠があるパッケージもそれなりにあるようなのですが、演題としては一つあっただけで注目されているふうではありませんでした。

まず家族療法のスーパービジョンという企画シンポがあったので、最近SVとか回ってきつつある私もちょっと聞いてみました。
家族療法はモニターとか、バックルームとか、インターホンとかが有って、治療もそうだけど教育に厚い印象があったのですが、どうやらそれは過去の話であって、今は使っていない。
むしろかつての教育方法は現在リフレクティングに発展しているとの事でした。


ちなみにリフレクティングプロセスとは、家族療法家のトム・アンデルセンが開発した手法で、セラピーの中に、セラピーを聞いてそれについて雑談するチームを入れることで、そのチームの会話から、セラピストとクライアントが面談を発展させる方法です。
よく判らないけど、喫茶店で隣のテーブルでウナギの話してるのを聞いたら、自分のテーブルでもウナギの話をするみたいな感じでしょうか?

しかし、それをして従来の方法の発展というのか言わないのかは、結局のところデータがいるわけで、それがない限りよもやま話がそれ以上に発展することはないんだなあとぼんやり考えていました。


植村大会長の「30年後の家族療法」は基調講演という「自分の思っていることを喋る」場でありながら、むしろ自分が勉強し、日本の将来、家族療法の将来を危惧してきたことを語るその真面目で誠実なお人柄がにじみ出まくって、大変良かったです。

そのあとは有名ドコロの斎藤環先生のご講演があって、オープンダイアログについて言及されてました。
オープンダイアログは家族療法を救いえるか?とか変な副題を思いながら聞いてました。

そんな雰囲気を受けてか、続いて「家族療法が化石になる日」というインパクトの大きいタイトルのシンポジウムがメインシンポジウムでした。
初参加の学会で、いきなり化石になられても・・・と思いましたが、まあ私も10年ぶりぐらいなので化石っちゃ化石かもしれません。

ほんとうに驚いたのは、その中でシンポジストの広島の岡田隆介先生という方のお話が、25分間メインホールを大爆笑させっぱなしだったことです。
もはや完全に芸の域でした。
私は初めて岡田先生の話を伺いましたが、何度か聞いたことのある人によると「岡田先生の話は中毒性がある」そうですね。
さもありなん。しかし人は話術であんな事ができるんですね。

あと、高木俊介先生という京都でACT-Kという精神科医療のアウトリーチをされている先生がお話をされていて、まずプレゼンテーションにパワーポイントを使わないようにしたという姿勢に感心し、そのお話も素晴らしく、そしてもちろんACT-Kの活動にも情熱があり、実に良かったです。

他のシンポジストの児島達美先生は、化石ネタを上手に引っ張っておられてたのと、まあでもそれよりは児島先生とはタバコ部屋であーだこーだ喋ったのが楽しかったです。
仲人システムの代わりに家族療法家が運営する結婚式場を作って、アフターフォローするというのは面白いですね。ただ離婚率が下がるかどうかは、家族療法家が離婚しないかどうかと同じで、紺屋の白袴かも知れません。

シンポジストの吉川先生は相変わらずのマトリョーシカっぷりで、指定討論が東先生という普通逆な組み合わせも、まあ結局のところいつもの夫婦漫才に落ち着き、新喜劇バリの安定感がありました。

そんなわけで一日目が終わり、懇親会へ。

知らない人が多い懇親会というのは放置してもらえて楽だなあと思いつつ、神戸ポートピアホテル30階の素晴らしい夜景を見ながら、「神戸って言うと、どうしても『ポートピア連続殺人事件』のことを考えちゃうよな・・・」とかぼんやり考えていました。



二日目は安達圭一郎先生の対人関係療法のミニワークショップに出ました。対人関係療法は日本で特に流行っているわけではないですが、CBTに匹敵するエビデンスを幾つか持つ、今風の治療パッケージです。
丁寧に解説される姿を見ながら、自分のミニワークショップは詰め込みすぎだな・・・と反省していました。

その後ポストソリューションからオープンダイアログという白木先生の自主シンポジウムに出ました。
オープンダイアログの雰囲気の紹介とそこに至った経緯というか、位置づけというか、そんなものが紹介されていました。
何か学会を上げてオープンダイアログ追い風が吹いていたこともあり、おそらく想定外なぐらい人数が詰めかけて、ともすれば体験的なシンポにしようと思っていたのかもしれませんが、数的に無理な感じでした。


次の次が私のミニワークショップなので、次のコマはちょっと時間的にタイトだったのですが、中村伸一先生の企画されたカップル・セックスセラピーの自主シンポに参加してみました。講師のダリウツ・スコブロンスキー先生はポーランド出身の方で、異常にテンションが高くて、その印象が強かったです。内容は極平凡な話で、取り立てて新しい知見ではなかったです。

そして、私のミニワークショップ。
家族療法学会という対人関係やシステムを扱うことを是とする学会で、逆に個人療法についてワークショップをするのは奇妙な感じでもありましたが、それはそれで目新しいというか、貪欲に知識を吸収したいという意欲の現れなんだろうと思います。

参加者の内訳は、医療機関16、大学11、教育関係5、司法4、児相4、施設/NPO2といった感じで、教育/司法/児相が3割強を占める所がいかにも家族療法学会っぽいと思いました。ちなみにそ〜やって数えるところはCBTっぽいです。

まあ、詰め込みすぎとは思いつつ、つつがなく終了。
ワークショップというより、ほぼ講義になってしまったと反省。

テキトウな店で、テキトウに飯を飲み食いし、夜の神戸を異邦人よろしくフラフラ歩いていると、ふと指圧の店が目に入ったので、入ってみました。昭和初期からやってそうな按摩処です。
私も私設カウンセリングルームで施術する身としては、視察に入らなくてはならない気がして、入ってみた結果としては首と肩と腰と目が大変に凝っているということで、グイグイとほぐしてもらいました。自分へのご褒美終了。



さて、三日目はワークショップで中村伸一先生と東豊先生の「DVDによるセラピーくらべっこ」に参加しました。
それぞれ臨床技術で著名なお二人のセラピーが拝見できるというのも、それについてディスカッションできるというのも、ロールプレイできるというのも大変に興味をそそられる内容でした。

私の見たところ中村先生のセラピーは実に外連味のない感じで、丁寧に関係性を扱いつつ、優雅にパンクチュエーション入れて、・・・と展開されていました。
小生意気にもディスカッションに参加してみたら、西川さんは家族療法家だねえと揶揄されたので、おっとっとという感じでした。

一方で東先生のセラピーはなんというか東カラーというか、セラピーも会場も一色に染め上げていく感じの勢いでした。
囲碁のように、地の辛いところは避け、良さげな所にリアクションをされているんだなという風に一見思えるんですが、どうも為されていることからするとその解釈はブレている。
何なら1秒先の家族の反応に今潜時なくリアクションしているような、ちょっと変な感じでした。

まあしかし、この場に吉川先生がいたら、いつもの「東さん、あんた嘘付いているよ」と言いそうな勢いで、東先生は自分のセラピーをテキトウに喋ったので、さっきの意趣返しであくまで門外漢なんだけど・・・CBTとしては・・・とインチキ説明にケチを付けておきました。

その後のロールプレイは工夫されていて、夫婦クライアント役に対して、3人のセラピスト役が10分ずつセラピー役を引き継いでいくという面白い感じでした。

私は門外漢ながらその最初の10分をさせて頂く栄誉を貰って、as if家族療法家というか、和歌山風介在というか、へなちょこ家族療法を展開してみました。妙な感じでしたが、なかなか面白かったです。

ま、こんなもんで一応最初の10分の役割は果たせたかなーというところぐらいで2番目の方にバトンタッチしてとなると、私の取った飛車が、私以外の人によってどう運用されていくのかなーというワクワク感があります。
2人目の人は、それは私も思ったのですが、詰めていくには駒不足と思ったのか、また違う駒を取りにいくアプローチをされていました。
私は内心「その駒は香車ぐらいなもので、悪いってほどではないけど、ちょっとイマイチだなあ」とかも思いながら、でもどんな展開になるんだろうとワクワクしていました。
なんかでも、ちょっとどっちに進むのか雲行きが怪しくなってきて、家族が面接に不満を出し始めた所で、3人目の人とつながっていきました。

3人目の方は1人目2人目のセラピストおよびクライアントの話も文脈も一切ないことにして、0ベースで話を進めだし、0のまま終わるという事で、講師にだいぶ突っ込まれてました。

ちなみに夫婦役をされていた事務局のお二人も、達者に演じられていて、流石だと思いました。


ビデオに撮っていたそれらの面接を振り返りながらのディスカッションで、東先生は面接開始10秒の所でビデオを停めさせ「今何が起こっているか、気が付いた?」みたいなムチャぶりをしてきて、それは結局クライアント妻の言い間違いが意味する所云々だったのですが、果たしてその後の面接の展開は私が言葉で確認した所、結局ご指摘のとおりでした。

なんというか、結局言葉を拾って意味をつぐむようなまだるっこしいことは、無視するわけでもないもののさして重視されずに、神速で仮説を立てては、神速で放棄していかれているんだなということがクリアに判るツッコミでした。むしろゲシュタルトセラピーから来てるのか?とも思いました。

「飛車をとったら即飛車を打ち、金をとったら即金を打て。そして盤面を作れ」という勢いのあるサジェスチョンが出て、「即打ち(笑)」とか思って面白かったです。


そんなこんなの三日間で、中々に刺激を受けて面白かったです。
最後に改めまして、事務局の皆さん、お疲れ様でした。ありがとうございました。
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投稿者: 西川公平
2014-07-23 06:30

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