2013/12/12: ストレスと、トラウマと、精神科疾患について

最近テレビでトラウマ特集的なものをやってます。
観たものもあれば、観ていないのもあるけど、少なくとも一般の方々にはそれらの概念の誤解が多かろうという事で、整理するために書いてみました。
治療の話はあまり書いていません。区別の話です。



1、ストレスの話
まず、ストレスとは、セリエ博士が1950年ぐらいに言い出した概念で、もとは工学の用語です。

生体に対する外界からの刺激をストレス因(ストレッサー)、対する生体側の反応をストレス反応と分けて捉えてます。

基本的にストレスとは変化の事で、良い変化であっても、悪い変化であってもストレスです。
例えば結婚もストレスなら、離婚もストレスです。

人生に大きな変化を与えるようなストレスを“ストレスイベント”と呼び、これは数が少ないです。逆に日常色々あるストレスは“デイリーハッスル”と呼び、これは数が多いです。

デイリーハッスルは無限にあるので、あらゆることを「ストレス」と呼ぶことが出来るようになりました。



2、トラウマの話。
トラウマは元来的には、「死に関するエトセトラ」が引き金となって起こるとされていました。例えば地震で家ごと押しつぶされたり、強盗に包丁押しつけられたり、自殺未遂に出くわしたりです。

まあ九死に一生を得る的な事柄がトリガーとなり、脳でカルシウムイオンなんかがめっちゃ出て、そのシチュエーションをめっちゃ覚えてしまう。
通常の記憶であれば減衰するはずの、知覚、感覚などの記憶までありあり覚えちゃう・・・みたいな感じでした。

しかし、トラウマもすそ野を広げ、一回一回は死ぬほどではないものの、嫌な体験が継続した場合、例えばDVやネグレクト、いじめやパワーハラスメントなど、もトラウマって言えるんちゃう?となってきました。

詳しい事は知らないけど、死に関するでっかいトラウマの方をTrumaと表記し、小っちゃい方をtrumaと表記するかって話もあるらしいです。



3、精神科疾患の話
基本的にトラウマが原因で起こる精神科疾患は、急性ストレス障害(ASD)と心的外傷後ストレス障害(PTSD)だけです。一方でASDやPTSDはさらに別の精神科疾患を併存的に招くこともあります。もちろん招かない事もあります。

別の疾患でAIDSを考えてみると、AIDSはHIVウイルス感染を原因とする独立した感染症ですが、罹患していると免疫力の低下を招き、結核を発症することがあります。この結核の直接の原因は結核菌ですが、AIDSによる免疫低下が呼び水となっているとも言えます。

要するに「トラウマ(原因)→ASD(結果)かつ(呼び水)→うつ(誘発)」という流れはあるのではなかろうかと思います。


それとは別に、ストレスが原因で起こるとされている病気もあって、それは適応障害という病名です。
1や2のデイリーハッスルやスモールトラウマもこちらと関係します。

とはいえ、適応障害は、適応障害以外の精神科疾患である場合には付けない病名です。

例えばうつ病(気分障害)や不安障害や統合失調症があるなら、適応障害ではありません。
死別反応も適応障害ではありません。
第三者的にハッキリと確認できるストレス因子がない時も適応障害ではありません。
つまりそれをストレスだと言っている人が本人や家族や恋人など親しい人に限られているのであれば、適応障害ではありません。

何が言いたいかというと、適応障害という病気は実質ほとんどありません。
精神科疾患はすべて客観的測定不能なファントムみたいなものですが、その中でもずば抜けてファントムです。
ファントブオブファントムズ。
まあ、いわゆる自律神経失調症という、これはファントムではなくて嘘病名ですが、それに近い感じです。

さて、アレコレ説明してきましたが、私の思う所を書くとします。

見てきたように「長引くうつ病の“原因”がトラウマにある」ということはほぼあり得ません。

あり得るとすれば、多い順に
1,うつ病でもなければ、PTSDでもない。そもそも違う病気であり、単に診断と治療に失敗している。
2,単なる気分障害で、単に治療に失敗している。
3,PTSDと併存する「うつ病の治療に失敗」しており、同時にPTSDの治療にも失敗している。
4,そもそも最初からPTSDだったが、うつ病と誤診していた。当然PTSDの治療にはなってない。
5,PTSDと併存する「うつ病の治療には成功」しているが、PTSDを見逃していてその症状を「うつ病の部分寛解による残遺症状」と考えている。
だろうと感じます。

1:2:3:4:5のような事態がこの世の中で発生する比率は1000:1000:100:10:1ぐらいに感じます。

心理士の私が言うのもなんですが、トラウマに対する精神療法が、PEであれ、EMDRであれ、TF-CBTであれ、著効するのは4,5のパターンです。

1,2はトラウマが関係ないのでトラウマ治療は効果がありません。
3の併存をまず精神療法からそれ一本でやるのは手間暇時間がかかりすぎる。
うつと思ってるんだけど中々治らず長引いている人の内で、11/2111=0.5%ぐらいの方はトラウマを扱うことも良いのではないかと思います。

さて、もうちょっと突っ込んで書くと、トラウマ治療を専門としている人たちの全てが1~5のどれかということで区別をして、必要に応じて自らの治療をしているかというと、んー、・・・・ないな・・・という印象です。

それは、喩えて言えば発達障害馬鹿みたいな医者や心理士が、何でもかんでも発達障害的とか、傾向とか言っちゃうのにも似ています。
ストレスやトラウマ馬鹿みたいな医者や心理士は、なんでもストレスやトラウマのせいにしますし、トラウマ治療をしてしまいます。
そうすることは実に容易いです。
病気や困りごとの要因をトラウマと見なして扱う事が、シたくてたまらない人々って、クライアントさんの中にもセラピストの中にもたくさんいます。
いっそトラウマを精神科疾患における究極で唯一無二の原因であるとあがめた新興宗教のようです。



そしてまた一方で、心的外傷に対するアンチテーゼというか、毛嫌いというか、「ストレス/トラウマと聞けば眉に唾をつけろ」という風潮もあります。
つまり、「”トラウマ”という言葉にトラウマ反応を示す専門家」がいます。

実際にストレス関連の困り事やトラウマ関連の困りごとは、気分障害に比べて圧倒的に数少ないとはいえ、実在します。

しかし、悪貨が良貨を駆逐するように、何でもかんでもストレス/トラウマと結びつけた時代があり、人がいたことで、精神科から概念として信頼を失ってしまったのです。
・・・まあ、精神科も世間や他科から信頼されている科とは言い難く、いわんや心理士をやですが・・・。

それにしても、トラウマ概念は時代の流れとともに、時に流行り、時に廃れ、また流行り、また廃れ、と流行り廃りがあります。
トラウマという言葉を最初に流行らしたのはかのフロイトで、フロイトの中で流行った後に廃れました。
次に流行ったのは戦争や虐待で、次に流行ったのは天災や大規模事件です。
今後も虐待や事件や天災は起こり、そのたびにトラウマ概念は流行り直すことでしょう。

何が言いたいのか判らなくなってきましたが、CBTセンターではトラウマをお持ちの方にセラピーはしています。
していますが、トラウマ処理が必要とみなされない限りしませんし、そうみなされることはあまり無いということです。

医療機関にかかっていない方で普通に多いのは、
「トラウマとおっしゃってますが、気分障害の可能性があります。ここでは診断はできませんし、お近くの病院を紹介しますので、受診して判断を仰いでみて下さい」
と述べることです。

医療機関にかかっていない方でそれなりに多いのは
「あなたはトラウマとおっしゃってますが、主治医は気分障害とおっしゃっているんですね。どちらももちろん並行してあり得ることです。ただ主治医がもし気分障害だと思っているのであれば、受けている『抗不安薬だけ飲みつづけて2年』という治療はすこぶるユニークで、一般的ではない可能性があります。うつ病治療のガイドラインを主治医の所に持っていって『どうして違うのか』説明を求めるか、セカンドオピニオンを受けてみてはいかがでしょう?」
と述べることもあります。
そう述べた時に、大抵の場合は・・・略

ごくまれに、「あー、こりゃたしかにトラウマだなあ・・・」と思った時は、
「うつ病の治療は主治医とのもとで妥当に為されており、それに+アルファとしてCBTを導入したいのですね。ではまず、日常生活の安定から始めるために、生活の記録をつけてみましょう」
となって進んでいきます。
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投稿者: 西川公平
2013-12-12 04:49
カテゴリー: 様々な困りごと

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