2012/03/11: 行動療法コロキウムin 多摩湖に参加して

宮崎、犬山、プサンと参加して、今年で四回目のコロキウムに参加してきました。2泊3日で認知行動療法についてひたすら事例検討をして、その夜はひたすら飲み続けるというこの会は他にない楽しさがあります。
たまたまその時に買って読んでいた「偉大なるしゅららぼん」はちょうど滋賀を中心とした湖の民のお話しだったので、多摩湖畔にも居るのかなあなどと思いながらの参加でした。

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さて、私の発表は一番最初でした。まあ、なんというか、つつがなく終わりました。私がディスカッションしたかったのは「体験とは何で、体験の回避とはなんだ。誰が何をもって判断するのか」、「治療者の介入の意図と、介入と、患者さんの意図と、患者さんがやった事の4つは独立なのか。ACTは治療者の介入の意図をクローズアップしすぎではないか」という2点でしたが、特にそんな話にもならずに終わりました。
今回の発表は向精神薬が一つにキーワードになっていたように、どちらかと言えば医者ウケしたようで、発表後もいろんなドクターからアドバイスをもらえました。

2番手の岡嶋先生の発表は申し訳ないのですが実は全然聞かずに、3番手の高橋先生のコメントスライドをひたすら作っていました。60分一本勝負!とか思うと集中して作業がはかどるなあと思いました。

で、3番手の高橋先生の発表にコメンテーターとしてコメントしたわけですが、なかなかコメンテーターというのも難しいなと思いました。
大体行動療法のコメントで“わかった風な事を言う”のはとても簡単です。コメンテーターのみなさんが好んで使うのは「カウンセリングが好子となって症状を出させている」と、「Scienceとしては記述が足りない」です。これに付け加えて「症状維持要因が統制されたわけではないので、真に良くなったとは言えない」ぐらいを3点セットとして言えばそれなりに恰好がつくというものです。こういう言説が多くなるのは行動療法学会全体から技術集団(プラクティショナー)としての実力が失われつつある証拠であって、嘆かわしい事だと思います。
何とかそうならないように、・・・とがんばってコメントしたつもりですが、後々考えてみると「患者さんの出している症状(コミュニケーションパターン)と、あなたのやっているコミュニケーションパターンは同じだ」という第4の良くある当てこすりをやってしまったと反省しています。そういう観念論は省いて、やり方が判らない人にやり方を教える的な親切さでもって今後は望みたいと思います。


それが終わって「うつ病治療のコツ」というテーマでラウンドテーブルディスカッションがありました。医療に身を置くものとしても、産業カウンセリングやスクールカウンセリングのようなアウトリーチをする立場としても、うつ病治療のコツというのはおおよそ正しい診断と正しい投薬に集約されるので、あえて空気を読まずにそのように述べてみました。それにあえて付け加えるとすれば心理社会教育ぐらいなものです。ただ何となく、医療と無関係の先生方のとらえる「うつ病」というのが、かつてのいわゆる「抑うつ神経症」や今の「適応障害」などの、大うつ病そのものではない事柄についてのコメントのように思えました。

某神村先生が「うつ病は行動療法で治らん」みたいなことをおっしゃっていて、まあそれはそうなんだろうなと思います。我々は認知行動療法をもって発達障害の患者さんの二次的な困りごとを緩和することはできますが、発達障害そのものは治すことが出来ません。同様に、うつ病から来た二次的な困りごとを緩和することはできますが、“うつ病そのものを治すことが出来ない”のだという事を理解した上でアプローチするといいと思います。

とはいっても、おおよそうつ病の人で病気が活性化して困っている期間はそれほど長くなく、病としては消褪した後の二次障害にて慢性的に苦しんでおられる方々がほとんどなので、そういったうつ病の方々に認知行動療法は効果的だという事も言えます。
まあこの辺の誤解がどうして起こるのかと言うと、うつがまさしく活性化している大うつ病性障害の患者さんは、そもそも心理士の所にリファーされることが無いからです。これは統合失調症の患者さんがなかなか回ってこないのと同じで、お医者さんがかけているフィルターなのだと思います。

CBTセンターは開業カウンセリングルームですが、統合失調症の患者さんがけっこうたくさん来ます。しかし患者さんに「来るんだったら紹介状を書いてもらってきてね」とお願いすると、主治医の方が「え?なんで統合失調症なのにカウンセリングなの?おかしくない?」みたいな反応をされます。まあ、そういうのと同じ類です。

まとめて言えば認知行動療法は病気そのものを治せるかどうかは微妙なところがあるけれど、病気から来るさまざまな生活不便であればいかようにも工夫ができるので、統合失調症だろうが、うつ病だろうが、慢性疼痛だろうが、過敏性腸症候群だろうが、虐待だろうが性犯罪だろうが、特にそれらに左右される事は無いのです。
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投稿者: 西川公平
2012-03-11 17:18

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