2008/04/13: 病気と健康

どこまでが病気で、どこからが健康か

カウンセリングを受けている方から割とよく、「こんな風に考えてしまうのって、変ですよね」と尋ねられる。
残念な事にどの考えが変で、変でないかは、わからないのが、実際のところだ。
唯一わかるのは、その人自身のその考えに対する処理がうまくいっているかどうかで、つまるところその人にとって不便かどうかだけだ。
そしてその不便かどうかが、病気かどうかの分水嶺になると言って過言ではない。

たとえば仮にだけど、毎朝起きた時に「あー、今日もピンクのゾウが降ってきたなぁ」と考える人がいるとする。何だったらそういう幻覚が見えてもいい。
しかしその考えやイメージが変かどうかは、私の預かり知るところではない。

処理というのは、そのピンクのゾウについて一瞬考えた後、ごく普通に服を着替えて、顔を洗い、朝食を食べ、一日中ピンクのゾウの事は思いも出さず、寝る前に「きっと明日の朝も起きた時にピンクのゾウの事考えるかな・・・。ま、いっか」と眠りについているのであれば、それは不便でない。したがってなんら病的ではない。
一般的に、精神科疾患でない人の中にも、強迫観念や、妄想、幻聴、ありとあらゆる精神疾患風の症状は一般人口のかなりの割合の人に見られる。しかしそのような人は病気ではない。なぜなら処理がつつがなく行われて不便が無いからだ。

次に、客観的にみて当たり前な考えは、やはり変ではない。
たとえば仮に、親しい友人を亡くして、「ああ、もっとあの時に色々話しておけばよかった。会う機会も増やしていればよかった。」などと考え、何日かそのことを考え続けるのは、当たり前だ。
試験の前に緊張するのも、嫌な事を言われて腹を立てるのも、当然過ぎて仕方がない。それは不便だけれども、世の中が楽園でない分、色々ストレスがかかって嫌な気分になる事を考えてしまうのは、ごく普通なのでなんら病的なところはない。

じゃあ、どうなんだ?認知療法が言うところの「認知の歪み」って何なんだよ!となってしまうところもある。

その辺りは、出来事から来る思考の「滞留度合い」によるのではないかと思う。
滞留度合いが多いな、少ないなと判断するのは、そこが専門家の主観だ。つまり、経験だ。
セルフヘルプでやる時に、少し難しいのはこの辺のところもあるのだろう。

例えば、ジョギングをしていて、橋を渡る時に「ひょっとして、足を滑らせてこの橋から転落してしまったらどうしよう」などと、ふと頭の中に考えがよぎる事はある。その考えでなくとも、ひょいっとなんかの考えが何かの拍子に頭をもたげることはあるだろう。

しかし、健康な方は、その考えが頭の中に滞留せず、そのまましばらくしたらスーッと消えていく。

病気の方というのは、その考えに少し真剣に相対してしまう。
すなわち、
・その橋は渡らないよう回避したり、そんなことありえない!!と強く拒否したり、
・橋げたの丈夫さをゆすって確認してみたり、もう一度橋に戻ってみたり、
・そしてそんな考えを抱くことが異常なのではないかと強く恐れてみたりする。
残念な事に、そのような回避や対処行動は、その考えが自然にスーッと消えゆくことを妨害する。
考えまい、あり得ないと打ち消すことが、ますますそのことを考えさせてしまうのだ。

認知行動療法のコツとは、「もう決して変な事を考えないようにする」のではなく、「時に変な事を考えたとしても、流してそれを留めない」という所にあると思う。それは認知再構成法でも、暴露反応妨害法でも、同じことだ。

なんらか思考が混んで(STUCKして)しまっている時、そのもつれがほぐれていくのが回復ということだと思う。カウンセリングというものがそのようなもつれをほぐすお手伝いになるのか、かえってもつれさせていくことになるのかは、技量や相性によるところだろう。

したがって、カウンセリングをしていて「もう大体良くなってきたなー、そろそろ終了だなー」と思う人は、風変わりな考えや、嫌な気分を抱かなくなった人ではなく、それに頓着しなくなった人だ。STUCKせずに、そのまま処理するようになっていたら、そろそろ終了だと伝えるようにしている。
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投稿者: 西川公平
2008-04-13 08:59
カテゴリー: 雑談

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