2017/03/04: 2016認知・行動療法コロキウムin小浜参加記 〜前編 西川

福井県は小浜市で開催された認知・行動療法コロキウムin小浜に参加してきました。参加してきたというか、今回は学会行事に珍しく、スタッフサイドでの参加でした。
 主催の嶺南こころの病院の岡本夫妻以下スタッフの皆さんとは元々それなりに親しいし、きびきびとよく働く人々なので、組んで仕事をしていて楽しかったです。

 
 さて、私は当初広報役としてホームページを作ったり、そういう仕事を担当することになっていたのですが、なんだかんだあって、結局のところ事例検討者とコメンテーターのマッチングなどの仕事も手伝うことになりました。
 事例検討者が好きなコメンテーターを選ぶっていう回も以前ありましたが、それは各人がどんなことに詳しいとかが十全に分かられているという前提で成立する話でして、そういう旧行動療法学会マニアにしか優しくない設定は今回採択しませんでした。
 で、コメンテーターのマッチングするんだけど、これは旧行動療法学会の専門行動療法士を中心に話を持ち掛けていくんだけど、やれ何だかんだ、したくないとか、結構な数断られました。
そもそも断るっていう選択肢があるんだなって感心するやら呆れるやら思いましたが、まあ、なんというか、専門行動療法士(笑)だから、しかたないですね。断った人は自分が頼む時も断られるってことを織り込み済みなのか、もしくはそういったイベントを引き受けることそのものを断るのか、どちらかなんでしょう。
まあでも、その分コメンテーターを引き受けてくれた先生方には感謝もひとしおです。

さて、大抵のコロキウムがしょーもない理由の一つは、コメンテーターと事例報告者が事前にあいさつする程度で、資料も当日だか前日だかに見せてもらえるかもといった体たらくで、結果的に糞みたいな発表と糞みたいなコメントのオンパレードで、誰得仕様になっているという点にあると思っています。
というか私的には、そんな糞発表をロートル達が発表者やコメンテーターの個人攻撃に使用するのが信じられないというか、そんなのは主催者のマネジメント不足に過ぎないと思うので、「コメント最低二往復保証」と銘打って、事例報告者がきちんと事前に臨床の場で起こっていることそのものを把握できるよう、コメンテーターがきっちり指導する風に律儀にリマインダーを打っていました。
発表スライドのひな型も送り、発表におけるデザインについてもアドバイスし、最低フォントサイズも指定し、スライド枚数も目安を伝えました。
もちろん発表慣れしている先生方にとってはそんな情報は蛇足に過ぎませんが、発表に慣れない人たちにとっては、そもそも発表の仕方の知識がありません。行動療法ABCのAが明らかに不足しているというか、それを伝える努力を怠っているように見えます。
私的には事例報告する人々こそが、最も利益を享受できる形にならないと、事例検討会なんかは廃れていくと思うので、まあ自己満足でやっていた感じです。

ついでにもう一つ旧行動療法コロキウムがつまらない理由として、若い人たちに発言させない工夫というか確立操作が随所にちりばめられているところにもあると思ってます。要するに、ロートルたちがいい気になりたいだけの会なんですよね。
その辺りを何とかするために、グループディスカッションが多く取り入れられ、参加者それぞれが発言しやすいような形式になっていたのは、体験型の学習としてよかったのではないかと思います。それを決めたのは嶺南こころの病院のスタッフ達なので、私は預かり知らない所ですが、そこに模擬面接なんかも入ってきて、さらに懇親会でローストビーフ作ったり、バームクーヘン買ったり、美味しい水を汲んだりとかも含めて、今回のコロキウムは従来と違って、ほぼほぼCBTケースキャンプ仕様になってしまってました。

もう一つ画策していたのは、最強(最凶?)心理士であるところの福知山市民病院の宮裕昭先生を何とかコロキウムにねじ込もうという作戦で、これは色々と無理押しというか、ごり押しというか、何とかなって良かった。

まあ、そんな裏話はさておき、コロキウム当日。私は雑事に追われて1ケース目の川野さんの発表内容はほとんど聞けずに、コメンテーターのコメントから聞き始めた。まあ滋賀の勉強会でも出してもらっているし、SVもしているし、大体内容が分かってるってのもあるんですが。
コメンテーターの岡島義先生のコメントは、どこかしら迷走しているというか、義先生自体がどっちに向かっていきたいのか、ちょっと分からなくなっている感じがしました。相方の岡島純子先生の「SADってわかってなかったかもしれないけど、そのゴールデンスタンダードのビデオフィードバックができていて、それがクライアントさんにもそうこうしていると感じられていて、臨床の場で起こっていることをちゃんとキャッチしてお返しできているというのは、それでよかったと思う」という発言が良かった。

続いて清水先生の教育講演は、私の好きな高橋留美子の「人魚の森」の八百比丘尼伝説に触れられたところが、大変好印象というか、テンションが上がった。
その後の夕食でも清水先生と一緒で漫画話に花が咲いて、楽しかった。講演の中身はイメージリハーサルを治療パッケージの一部に用いるのも一つの手ですよ、というお話。従来は不安障害系に用いられることが多かった技法だけれども、気分障害系にも使えるんじゃないかなというご提案だった。なんかチャンスがあったら使ってみようと思う。まあでも、一方で丁寧に認知再構成のコラムを作っている時は、それなりにイメージリハーサルと近いことが起こっている気もする。

その後は、パネルディスカッション「事例検討への道」。色々な準備に追われて、最後まで中身について決まらなかったので、間際になって参加者にアンケートを取ってパネルにしたという事でした。
しかし、岡島純子さん、田中恒彦さん、岡嶋美代さんのお三方とまとめの原井先生はギリギリのオファーにもかかわらず、十分にこたえて下さってよかった。
あんまり口出すのも嫌だったけど、当初決まっていた田中先生と岡島先生だけだと、なんかお説教感が半端ないから嫌と私が駄々をこねて、岡島純子先生が入ってくださったのだと思うけど、皆で大正解だったねと言ってた。
会場の若い人々も「事例発表してみよう」という気持ちになったと口々に言っていたから、パネルディスカッションとしては大成功と言える。

岡島夫妻は今回のコロキウムで託児を利用して頂いた唯一のご家庭になる。逆に言えば託児が無ければ子育て世代の良い人たちは参加できない。それはもったいない事でもあるし、少子化の時代に託児がないとか考えられない。
むしろ一歩進んで、託児を利用した参加者は参加費が半額になるぐらいの勢いでサービスを展開させてもよかったと思う。

そんなこんなで夜も更けて、本番の懇親会。作っていったローストビーフが好評で良かった。ちょっと自分では時間がなさ過ぎてあまりぱっとしないで気で残念だったけど、まあ喜んでもらえたならそれはそれで。
あと、ポスターリバイバルでは私の昔作った陪席のポスターがそれなりに観られていて良かった。
何とかコロキウムは開始され、なんとか回っていると安心。

さて、翌日の二日目は朝から4ケースの事例検討三昧。
第二ケース目の立教大学の小林先生のケースは、認知再構成法にクライアントもセラピストも回避していて、というケースのご発表。認知再構成に限らないけど認知再構成によくあるパターンで、これさえやっておけば大丈夫的なぬるま湯がそこにはある。認知再構成は、認知再構成によってそれが効いているかどうか判らない仕様になっているので、認知再構成によっておこった日常生活上の変化が何なのかをアウトカムとしなくてはならない。

第三ケース目の早稲田の上村先生のケースは、スライドがおしゃれだったのが好印象。なんか福井県の北の方の人らしい。「小浜に来てみて、都会だな(負けた)って思いました」というジョークは特に突っ込まれることもなくする―されていたが、私は心の中で「どんな!?」と突っ込んではいた。
しかし、フツーにうつ病にみえるケースだが、うつ病とは思ってもみない様子だった。早稲田は医学部がないためか、指導者も含めて精神疾患の知識が皆無だから、仕方がない。
まあ、子供のうつ病にはCBTがファーストチョイスなので、対応としてCBTを用いるのは大筋間違っているわけではない。
コメンテーターの北海道医療大学の金澤先生のコメントはちょっと自身のADHD研究に引っ張り過ぎなきらいはあるものの、中々に素晴らしくキチンとしており、コメンテーターのMVPと言える。

さて、模擬面接のコーナー。ここは嶺南のスタッフの休憩とリフレッシュを兼ねて、私らCBTセンターのスタッフが仕切っている。
しかし、思いの外、事前に想定していた人数と違って、多い。昼までで帰る筈の人が遅くまでいたり、夕方に来るはずの人が早く来たり。グループ分けの人数調整に手間取ってしまった。
事前の立候補で12名の模擬患者役の方がいたが、全然足りない。あれこれと指示をして、結局15グループぐらいになったが、なんとかグループ分けを完成。時間を食ってしまって申し訳ないが、事前のくじ引きづくりの失敗と言える。

15グループだと会場が狭くて声が被って聞こえにくくしまうため、急遽隣の昼食会場も使って広がることにする。ロールプレイの順番はじゃんけんで決める。臨床歴の若い順にしてもよかったんだけど、「歴の深い人がインテークしてくれたから、なんとかセラピーを終えることができた」というようなバックワードチェイニングが偶然起こってくれるのを期待して、ランダムにしてみた。

あちこちで楽しそうにしているのに、タイムを告げるだけのお仕事。あちこち回っても大体の所声は聞こえないのだけれど、セラピストとクライアントの所作でその面接がうまくいっているのか、停滞しているのかはわかる。「あー、あそこは話が流れてるなー」とか、「あのクライアント名演技過ぎ。セラピストが手も足も出ない」とか、岡目八目で見て回る。

3人のセラピストがロールプレイ面談を終え、シェアしたのちに、皆さんお待ちかねの模擬面接。前でクライアント役をやってもらえる人に立候補してもらう。対するはくじで選ばれたセラピスト達。セラピストは、あらかじめ独断と偏見で、ブロンズ聖闘士クラス、シルバー聖闘士クラス、ゴールド聖闘士クラスに分けてくじが作られている。

行動療法士で言えば、認定はシルバーにだいたい入ってて、専門はゴールドにだいたい入っている。でも行動療法士が無くても私の独断と偏見で、大体のレベルで弄ってる。

さて、最初の模擬クライアントは、話が展開しそうになると、すぐに不安で蒸し返す強迫傾向の方。並みいるブロンズ聖闘士たちが粉みじんにされる。
シルバー聖闘士は、おっと金澤先生。おお、流石にいささか展開させている。ブロンズとシルバーの違いは、ブロンズが話を聞くだけなのに対して、シルバーは話を展開させられると言ったところだろうか。
しかし、クライアントさんの同じ蒸し返し作戦に三回も引っかかってる。そこは反応してはいかん所に、バキバキ強化しちゃうとは、うーん残念だが、臨床家ではないので仕方ない。

それにしても、クライアント役の人が名演技だ。私の持論では、クライアント役が上手な人は、セラピストとしても一定上手い。それは行動観察の緻密さの所以だとおもう。

ちょっと時間が余ったし、もう一事例いってみようという事で、立候補を募ると、いつもの佐藤さん。
「職場で部下に対して怒鳴り散らしてしまう」という、まあ産業カウンセリング系の困りごとのクライアントさん役だった。

さて皆さんお楽しみのくじを引く。みんなの視線が痛いぐらいに刺さる。
嶺南病院のスタッフも当たっちゃったりして、「まさか?!」という顔をしている。偶然って恐ろしいな。

やはり、ブロンズは話を聞くが、シルバーは展開できる感じ。ゴールド聖闘士は誰が出るかな?と思ったら、何と宮先生!偶然って恐ろしいな。
宮先生は私調べでは日本最強の行動療法家なのだけれども、認知症とかハードな事例を展開させていることしか知らないので、こーゆーソフトなケースをどうさばくのかは見ものだな。
「宮先生を簡単に説明すると、この会場で一番上手な人です」と無駄にハードルを上げてからスタートする。

前の二人のセラピストが引っ張れば、引っ張り返されるというにっちもさっちも行ってないところを、まず「責任感」という用語を用いて数秒で粉砕。
Th「あなたには、凄く責任感があると思うんです」
Cl「責任感?!」
Th「そうです!」
この「そうです」の間合いが絶妙すぎて、それまでのClの「いやー、悪い事とは思ってるんだよ?でも、私の言い分にも正しい所があるよね。ていうか、私の方が正しいよね」モードから、「いや、私にもいろいろ至らないところがありまして・・・」という反省モードにくるりと切り替わる。
しかし反省モードにも入り込ませないようにしながらも『やり方の工夫』についてのディスカッションに展開する。それらの展開のつなぎ目はほとんどないシームレス仕様。
あくまで強化随伴性の枠組みの中で、どの行動の後ろにどの行動を持っていくか具体的な指示を一方でしつつ、もう一方で言語非言語を活用しつつ強力に動機づけをしていく。

ブリーフセラピーでも、催眠でも単に変化を起こすことだけなら簡単にできるけど、起こった変化を維持するための仕掛けを、本人の日常生活に沿って配置するのは、行動療法が得意とすることだと思う。

「言葉も思考も行動だ」と行動療法の人は良く述べるけれど、こう体現されるのを目の当たりにすることもなかなかない。なんせClの言語や思考に反応してThが言語をぶっこむタイミングが申し分ない。
しかし、これらを宮先生自体が分かって意識してやってて言葉で説明できるのかと言われると、それはビミョウな気がする。幾千幾万の臨床場面において、結局役に立った行動が残り、役に立たない行動が消えましたという、随伴性の結果というか、集大成ではあっても。
そんなことを考えていると、日常生活の中でナチュラルな随伴性が相互に形成されるような仕掛けが完成して終わった。約五分の模擬だけど、なかなかいいものを見せられたし、偶然とはいえ紹介になって良かった。

後編に続く

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投稿者: 西川公平
2017-03-04 09:28

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