2016/07/20: 第13回滋賀CBT研修会&5回目CBTCaseCampを終えて ~西川

今年も事例検討合宿CBTCaseCampの時期がやってきた。今年は月曜の祝日を含む3連休ということで、基礎研修会をプラスして、研修+合宿の3日間のイベントとなった。

基礎研修は、そもそも「CBTについて知る人のいない滋賀に、良い先生方をお呼びして話してもらおう」というコンセプトで始めた「滋賀CBT研修会」の第13回目となる。まさか自分で話をすることになるとは思わなかった。

しかしまあ、研修というとあーだこーだ理屈を述べるものが多く、特に基礎となるとそういうのばっかりになってしまう。それも嫌なので、「説明したことはその場でやって見せる」をモットーに、模擬面接をたくさんすることにしてみた。
何というか、「能書きはたくさん垂れるけど、お前実際はできねえだろ」という講師はいっぱいいる。

5時間の研修でスライドを24枚に限定して、参加者の中から模擬患者役を募る。果たしてこの試みは成功するのだろうか?心配になって、1週間前ぐらいに「模擬患者を心に描いてきてね」と参加者に安全確保のメールを送る。
ちなみに多職種の方が参加される研修会なので、まあだいたい10分ぐらいを目安に模擬面接の中で一つの解決に導いていこうと思っていた。10分ならどんな職種であれ、なんとか時間を捻出できるのではないかなー。

ふたを開けてみれば、参加者はかなり熱心で、研修中模擬患者役が切れることなく続出して、結局7回も模擬面接をすることができた。まあだいたい10分ぐらいでできたのではないかと思うんだけれど、だれも時間を測っていなかったので、正確には分からない。何度頼んでも誰も測ってなかった。なんやねん。腹時計では6分から13分ぐらいの間に収まったのではなかろうか?
一応、認知行動療法の原則である、本人の主訴に基づく共同経験主義、データを重視すること、見立てを提示すること、認知や行動を扱うこと、課題を出すことと、だいたいどの面接にでも盛り込めたと思う。
アンケートの感想をいくつかピックアップすると
・具体的なやり取りが見れて面白かったです
・ケースを一つ一つ解説して頂けて良かったです
・各種コラムを実行しながら、それらが同時にフォーミュレーションにつながる動きになっているところが良く判りました
・気軽に明日から試すことができる点が良かった
など書いてあった。

本当は5つ目のコツを「ケースフォーミュレーション」にしようかどうしようか悩んだんだけど、あんまり気軽じゃないし、辞めたのもよかったと思う。
結局のところCBTのケースフォーミュレーションって、CBTサイドにあるフォーミュレーションの暗記や、病理モデルの暗記や、これまでのケースの知見・経験がセラピストサイドのスキームとして存在し、それを目の前のクライアントさんにオンデマンドに当てはめていく作業だと思うので、一口にお伝えすることは難しく、むしろCBTを試してみようと思う人の気持ちを大いに削ぐ。「とにかくは、やってってみようぜ」の精神を大事にするために、ケースフォーミュレーションにはあんまり触れないようにした。

まあ、それにしても模擬はしょせん模擬なので、本当の臨床とは違う、言うなればちょっとした芸のようなものだと思うが、それなりにウケてよかった。

参加者を募って、美味しいカレー屋に行く。相変わらずうまいカレーだ。三口目ぐらいから各種スパイスが口の中で爆発し始める遅効性にメロメロ。

一夜明けて、合宿初日。
トップバッターは九州の坂田さんの「多彩な訴えを認知と行動としてどう整理するか」という映像を用いた話術の発表。ほぼ初めての発表らしい。地元の良さを10分ほどかけてPRしたのち、発表に入られる。Aで詰まるとBに、Bで詰まるとCに、Cで詰まるとAに戻るという堂々巡りの話題展開。しかし、AもBもCも機能的に同じなので、多彩な訴えに見えず、むしろ同じ話に見える。
でもまあ、ビデオを撮って、逐語を起こして、そんなにうまくいったと言えない映像を提供するというのは、なかなか勇気のいることだ。動画があるとまさしく話術についての話が弾み、良いディスカッションになったと思う。
坂田さん本人には、うつ病の思考制止で迂遠になっている状態に見えるので、現在の未治療状態はいただけないし、早く治療を開始するよう主治医と相談することをお勧めしておく。
まあ誰にでも言えることではあるがケースの見立てがあってのち介入があるのであって、どんな人のどんな困りごとかについてある程度判っている状態から、さらに理解が深まる質問をアセスメントと定義し、本人にチャレンジ的な認知や行動を湧き上がらせる質問をするのが介入であると定義すれば、坂田さんのはどちらでもない雑な談である。したがってどこにも進んでいかない。

二人目の発表者は北海道の福原さんが「解離症状を呈するASDの女性に対するCBT」という発表をされた。福原さんも初めてに近い発表で、なかなか果敢だ。今後何十例もまとめては発表していけば、いずれ俯瞰してケースが見られるようになると思うのだが、良くなった部分がなぜ良くなったかについても上手く把握できていないので、いささか惜しい発表となった。ケースは病院臨床時代と開業臨床時代の2期に分かれていて、主に病院臨床時代のことについてお話をされていたが、メインとして使用していた解離モニタリングのデータが示されておらず、データの推移から何が起こっていたのかを推察することができなかった。福原さん自身は「Nsが下手に関わっていたのが上手く関わるようになったから良くなった」というざっくり見立てで済ましており、機能分析について全く知らない様子で残念。行動療法についてどこかで学ぶ機会を持たれると良いかと思う。幾らかのディスカッションののち、演台で固まったところを見計らって、太田所長にキラーパス。和んだが、和んだだけに終わり、所長としての見解が語られないところを見ると、事前に打ち合わせがされていないのかもしれない。ついでに言えば、きょうびベンゾを5種類入れるとか、症状か副作用かも判断つかないほど主治医はアホと思う。診断もでたらめの一言に尽きるので、精神科医がなんと診断していようが、それとは別に自分自身でも診断について考えてみるということは必須だろうと思う。

ロールプレイ&模擬面接のセッションでは、フロアで三人一組になってロールプレイを行っている。私はちょくちょく話を聞くも、基本的にヒマと言えばヒマな時間。ノンバーバルなサインを見ながら、あそこはうまくいってるなとか、あそこはもう詰まってるなとか、勝手に想像する。しかしまあ、難しいケースであれ、なんとかかんとか話を展開しているのは、やはりシニアな人々の強みかもしれない。こういうのを外連味というのだろう。
模擬面接では、岡山の久保田さんが、模擬セラピストをやったが、なんというか、粘り強い。模擬面接は話が堂々巡りになったらチェンジだが、堂々巡りになりそうでありながら、じわじわと匍匐前進しているような、何とも言えない進行で、チェンジするのもアリだけど、最後まで見届けるのもアリだなと思わせる感じ。まあでも、一応の落としどころまで行けたので、めでたいことだ。決して上手いと思わせる面接ではないが、投げ出さない強さを感じた。
私なんかもそうだけど、患者さんとの間で上手くいかない話題になるとすぐに話題を変えちゃう場合って多い。そこからすると、基本的なところを抑えて離さない姿勢は、骨の太い面接で見習うことが多かったのではないだろうか。

三人目の発表はOCDサポートの有園さんが「縁起強迫への認知行動療法」ということで発表された。有園さんという方はその出自からしても、OCDのことを良く判っている人だ。これはメリットでもあり、デメリットでもある。通常治療者として、OCDの治療を通じて、上手くいったり行かなかったりしながら、OCDの理解が深まっていく。しかし有園さんは最初から治療と関係なしにOCDのことを良く知っている。だから何というか、まあ力技でもなんとかなるというか、むしろ情熱で何とかしてるというか、そんな感じ。多分セラピストは時として「分からず屋」になる必要があるのだろうが、いい感じにお兄さん/先輩的になってしまうのだろう。そんなわけでアセスメントも介入も、結局雑になる。
本人にお伝えしたのは、fadingつまり、フェードインとフェードアウトについてもう少しきちんと意識して関わることで、よりフェードアウトを積極的に目標とすれば総回数も減るし、再発も減るということ。OCDの治療は最初1/4がフェードインで、最後1/2がフェードアウトと言ってもいい。元が頭いい人なので、上手いこと取り入れてくれることを願う。

その後は夕飯を食べ、懇親会。美味しいお酒とおつまみと、臨床の話を肴に、いつまでも、どこまでも盛り上がる。懇親会もそうだけど、会場設営から何から、気のいい人々がたくさん手伝ってくれて成立している。ありがたいことです。我々にできることはせいぜい駆け回って美味しいものを集めるぐらい。

さて、二日目。
四人目の発表は「『病は気から』と考える演技強迫の男性に対する認知行動療法」という料崎さんの発表。料崎さんは今回初めて発表ということであったが、スライドなども分かりやすくまとまっており、タイムリミテッドでありながらも難しい観念優格症状に介入もしっかりされていて、受け答えもきっちりしており、この発表はなかなかフロアの初学者達をいい意味で触発したのではなかろうかと思った。発表後、料崎さんのカッコよさは5割ほど増した気がする。
本人にお伝えしたのは、「病は気から」というフレーズを強迫観念として捉えているが、むしろ自発的に繰り返し唱えていることから、強迫行為として捉えなおした方が良いということだ。
料崎さんはどこかのSVに出ており、そこで「真に回避しているところを扱わないとモグラ叩きになる」というアドバイスを受けている。この『真に回避』という言葉がグループディスカッションの幅を狭めるミスリードとなってしまっているのが残念だった。それがどんな偉い人が言った言葉であろうが、言葉にとらわれてはいけない。ただ見たこと、感じたこと、あるデータから判断するというか、真実を知っているのは目の前のクライアントさんだけだ。
結局のところ、真の回避とやらを扱わずして、短期間で十分良くなってるしね。

2演目は「職場での同僚とのやり取りがシンドイという成人男性とのCBTライクなやりとり」ということで梶原さんの発表。梶原さんは意外と今回初めて発表ということらしいが、あまりそうは見えない。スライドのデザインもイカしてる。
話法の発表ということで、セッション録音音声を使用されたこともあり、なかなか発表時間もタイトにならざるを得ないので、それも含めて準備がハードだったと思う。梶原さんはもともと家族療法/システムズアプローチの人だが、今回CBTライクにやってみたということらしい。CBT初学者が必ず出す疑問「これってCBTになっていますか?」ということがディスカッションテーマにあがっている。まあ、よりCBTっぽくするとすれば、と本人にお伝えしたのは、
・発表で焦点を当てたかったセッションより前のセッションで得られた知見をもとにケースフォーミュレーションを作る
・そのフォーミュレートはクライアントさんと共有される形で提示されている。
・今回の面談場面はそのフォーミュレーションに沿ってより蓋然性を高める、ないしはケースフォーミュレーションを修正するというプロセスであればよかった。
てなことでした。
ディスカッションではブリーフがブリーフで、CBTがCBTである条件とは何だ?みたいな話になる。
さきの箇条書きからすると、結局のところ問題を拾ってフォーミュレートに当てはめるということになりがちなのがCBTだと言える。梶原さんの発表された話術の部分は、後に課題を作成するために必要な例外・すでにある解決を多く拾い上げている風に見えるところで、ソリューションフォーカスっぽい。
しかし、提示された話術の部分は、まさしく問題が起こる条件/起こらない条件を腑分けするために言葉が目的をもって使用されており、その後どちらを使うかはさておき、何が起こっている/いないをハッキリさせるアセスメントとして、真っ当に機能している言語使用であった。

さて、二日目のロールプレイ・模擬面接のセッション。
みんながロールプレイしているので、基本壇上にいる私自身は暇なんだけれど、暇だなーねむいなーと思っていたら司会の岡村から「熟練者の模擬面接が見たいよねー、拍手ー」的なキラーパスが飛んできて、じゃああとは西川に任せますという丸投げにより、お仕事をしなければならなくなった。
熟達者の面接・・・・。まあここは白木さんに振るしかないな。ということで、白木さんの模擬面接。模擬患者はアルコール依存症の方で、「もう元気になったから断酒までは必要ない」と常々述べている方。10分ほどソリューショントークを維持し続けて、するっと頑なな気持ちをほどき、接酒のモチベーションを挙げて終了される。
まだ10分ほど余っているらしいので、この前の梶原さんの発表にあったCBTをCBTたらしめるのは何ぞや?という疑問にこたえるべく、続けて私が模擬面接する。
しかし「ここまで上手くいっている話に、何か付け足すことあるんだろうか?いや、ないな」って感じで、模擬患者さんに「最初からしますか?続きにしますか?」と尋ねると、「続きで」と言われてしまう。いや、もうすること、ほとんどないし。
まあ、延長線上で「お酒の量が減っているけどそんなに悪くない未来」を描くような付け足しをして終わる。模擬患者さんに二人のセラピーを比べてもらうと「西川さんの方が、若干言わされてる感があるかも」ということにあり、それがソリューションとディレクションの分水嶺だと、ぴったりくる。

さて、トリは太田さんの発表。「高校生へのこころのスキルアッププログラムで『エクスポージャー』をテーマにやってみた」という、スクールカウンセリングでやった研修の話。普段から高校生相手に楽しい講義をされていることが伺える発表。ある意味、疲れた頭にのんびりと入ってくる的な、あるいみ言葉のセレクトをどうするか話法的な、患者さんに心理教育する時に、セラピストはどれぐらい慎重に言葉を検討するかということが伝わったのではないだろうか。
みんなお疲れ気味でもあったので、最後緩めのキャラが緩めに発表というのも良い塩梅だった。

さて、これら六演題がそれなりに形となって発表と相成ったのは、その実事務局のスライドチェック係との事前の入念なやり取りによる。私はそれに全く携わっていないが、かなりの分量のやり取りが事前になされていたことについて聞き及んでいる。つまり発表者は、自分でまとめ、事前のディスカッションし、当日ディスカッションし、と数回にわたって自分の臨床を見直す機会があったわけだ。

合宿の目標の一つはActivate&Power Levelingにある。合宿が成功したかどうかは、まさしく合宿の後の参加者の臨床技術に対する興味関心の向上による、それぞれの臨床行動のBrush Upが起こるかどうかにかかっている。
後日Facebookを見てみると、ちらほらと合宿で得られた知見を試してみている人々もいるようだ。

もう一つ言えば、多分私は人に教えるのとか向いていない。陪席とかしてもらこともあるけど、何やってるのか正直かなりわかりにくいと思う。だからまあ、孟母三遷じゃないけれど、CaseCampのような場を提供することで、それぞれの人々がそれぞれの立場でセルフヘルプ的かつ体験的に学んでいってくれれば、私が間違った方向に導くという愚を犯さずに済むと安堵している。良いセラピーとか良いセラピストとか、あんまり定義したくないもんね。

まあなんだ、どんな人でも機会を得て、自らの殻を破り続けていけば、きっと良いセラピストに慣れると思う。それは別に私のようでなくとも良いというか、むしろ別に私のようでない方が良いとさえ思う。
殻が壊れるまで外からこぶしで殴り続けるような教え方はどうかしている。かつて?の私の教え方ですが。結局そうすることで、自らが殻を破っていく方法を編み出せないまま終わるというか、いつまでたっても独り立ちできないわけです。

まあでも、今年もいい合宿でした。およそほとんど全て皆さんのおかげです。
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投稿者: 西川公平
2016-07-20 18:33

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