2011/08/21: 認知療法尺度(CTS-R)を利用してみて

三蔵法師よろしくイギリスから持ち帰られて訳された認知療法尺度(CTS-R)をスーパーバイズに使用してみました。その時の感想など。

認知療法尺度改訂版 Cognitive Therapy Scale Revised (CTS-R)とは“認知療法が成り立っているか“の尺度で12項目9件法。イギリスではこの尺度などを用いて認知行動療法の質を他人が評価できるとされている。
行動療法学会や認知療法学会が配っている「サルコフスキス教授来日シンポジウムの記録」に日本語訳がある。

各項目は
1,アジェンダの設定と順守
2,フィードバック
3,協同関係
4,ペース配分と時間の効果的利用
5,対人的効果(受容・共感)
6,適切な感情表現を引き出す
7,鍵となる認知を引き出す
8,行動を引き出し計画する
9,誘導による発見
10,概念的統合(ケースフォーミュレーション)
11,変化の技法と適用
12,宿題の設定

千葉の小堀さんによると「治療の質は、ケースの数と、症状の改善率と、この尺度で測る」とバッテリーになっているそうです。

まずは面接評価を数量的に試みたという事は素晴らしいと思う。
本来面接はもっと称賛されたりダメだしされたりするべきものだと思うが、どうしてもショートレポートを元に面接に言及されがちで、しかも経験則からのコメントに陥りがちで、そうするとしたり顔でもっともらしい事を言う下手っぴがのさばることになる。

今回は陪席しながら4症例を観つつCTS-Rをつけ、面接後にフィードバックするという、ちょっと忙しいものだったが、その際この尺度について思ったことをあれこれ書いてみたい。

まず、良い所を挙げると、
・言われてみると認知行動療法とは確かにこういう事をしていると言える。なるほどと思えるところも多く、まとまっている。
・スーパーバイズが初めてという人間も、これを頼りにやってみることができるかもしれない
・なんなら、セルフフィードバックもできるかもしれない…無理か。
・尺度得点に従ってフィードバックすると、なんだかカッコいいかも。もーちょっとココをこうすると、5ではなく6になった、なんつって・・・


次に、疑問点を挙げると、
・1,アジェンダの設定と順守と4,ペース配分と時間の効果的利用は、要するに同義なので被っている。
・8,行動を引き出し計画すると12,宿題の設定は、要するに同義なので被っている。というより、ここは「鍵となる行動(環境とのインタラクション)を引き出す」になるはず。
・医療機関との連携など、ケースワーク的な視点がない。
・「心理教育」について、評価がない
・概念のレベルが違うものが併記されていて、戸惑う。点数がつけづらい(これは私がなれればよいだけの事かもしれないが・・・)
・5,対人的効果(受容・共感)が、なぜ受容と共感に限定されているのか意味不明。やはり認知療法なら「共同経験主義」を持ってきてほしい
・<あえてかもしれないが>治療的な成果が問われることが無い
・<あえてかもしれないが>患者さんの理解や納得が問われることが無い
・おそらくこの尺度を受け付ける面接の形態が限られているが、そのリミットが明記されていない
・6,適切な感情表現を引き出す7,鍵となる認知を引き出すとあるが、9,誘導による発見と同義
・1,アジェンダの設定と順守の規模が判らない。このセッションにおけるアジェンダもあれば、全セッションにおけるこのセッションのアジェンダもある。
・10,概念的統合(ケースフォーミュレーション)の規模が判らない。ミクロの(ある場面におけるある症状の)それと、マクロの(ケース全体の)それがどちらも重要ながら、どちらを指すかわからない。
・11,変化の技法と適用12,宿題の設定も類義
・それぞれの項目に対してどのようなスキルトレーニングが可能か、不明瞭

という感じだ。


しかしこれはおそらく、プロトタイプのようなもので、どんどん改良に改良を重ねて素晴らしいものになっていく予感がある。
それもこれも、ケースを観たり見せたりするという事が進んでいくにつれ、より妥当で信頼できる尺度へと変わっていくだろう。

あと「私のやっているのは認知行動療法です」とびっくりするぐらい勘違いして堂々と言う人が沢山いて、今後ますます増えるだろうから、そういう人たちを牽制するためには貴重だと思う。
認知行動療法の敵は、アンチ認知行動療法の人達ではなく、認知行動療法をやってると称する人達だ。


**追伸**
[[認知療法尺度(CTS-R)に関する募集] ]

西川が認知療法尺度(CTS-R)をつける練習のため、陪席してもいいよ、セッションビデオを提供してもいいよという方を募集します。
できれば近畿圏内で、先着5名様程度。

交渉が成り立った方の元に西川がお邪魔して、陪席許可および尺度記入の許可が得られたクライエントさんの場合のみ、陪席します。
ついでにスーパーバイズもサービスします。

応募者はホームページよりメールを送ってください。
(なお、応募に先立って、所属施設の許可を取っておいてください)
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投稿者: 西川公平
2011-08-21 03:17
カテゴリー: テクニック

Comments

こぼり on 2011/08/21 2011-08-21 20:50

をーさっそく使ってますね。大学院生にセッションに陪席してもらって、その後、CTSRを評定してもらっています。

もうちょっとこの項目を意識して・・という感じで(自己)トレーニングに使ったり、認知行動療法をやってると称する人達を牽制したり、いろいろ使い道はありますよね。

各項目が何を測っているのか、構成概念についても、院生たちと議論しています。学会でお会いしたときに、このネタで話しましょう。

gestaltgeseltz on 2011/08/23 2011-08-23 13:05

>こぼりさん
スケールなんて取りながら感触を探らないと、役に立つかの判断もつかないし、使えるようにもならないですからね・・・。

ただ、Y-BOCSが強迫性障害についてある程度知っていないと使えないのと同じで、CTS-Rもある程度CBTについて知っていないと使えない印象です。院生さんにつけられるのかな・・・?

また今度CTS-Rについてのシンポジウムしましょう

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