ウェルビーイング療法は、Clさんが日々の生活でポジティブな体験を十分に味わえるようになることを狙いとした心理療法です。これは竹林先生がウェルビーイング療法を説明する際に用いた言葉ですが、これを聞いたとき私は、「まさに自分が求めていたのはこれだ!」と思いました。
 余談ですが、学生時代には不快な気分を持続させてしまう人がいるのはなぜか?というテーマに興味を持ち研究をしていました。調べていくと、うつや不安の人はdampening(ダンペニング)というポジティブな気分を自ら減じてしまうような認知方略を用いていることがわかりました。そこで、dampeningの維持要因を研究していたのですが、大学教授から『じゃあ、それをどうやって止めるの?』と聞かれたとき、「え…。あっ…」と何も答えられず、お茶を濁す返答をするのが精一杯でした。
 ウェルビーイング療法では、まさにCLがポジティブな気分を自ら減じてしまうような認知に介入を行います。ウェルビーイング療法で行われるポジティブな体験を妨げてしまう思考を記録する例を、著書『ウェルビーイング療法 治療マニュアルと事例に合わせた使い方』より引用します。例で挙げられているのは、薬物療法や認知行動療法を受けたが改善しなかった強迫性障害のCLの記録例になります。
   
状況 ウェルビーイングの感覚 妨げになる思考/行動
朝 、家での勉強 1時間しっかり勉強できた この朝を台無しにする何かが起こるかもしれない→強迫観念
          
 この後の展開は割愛しますが、薬物療法や認知行動療法で改善しなかったCLが見る見る改善していくプロセスが記載されています。ほかにも、抑うつ、気分変調、全般不安症、パニックと広場恐怖、心的外傷後ストレス障害のCLに実施し、改善を示している例が載っています。
 ウェルビーイング療法を学ぶことで、ケースで行き詰った際の一つの手札が増えるのではないかと思います。国内での完全版の研修は今回初とのことです。次回開催されるかわからないですので、ぜひこの機会に一緒に新たな技法を身につけましょう!
申し込み:https://cbtcenter.jp/event/

引用・参考文献
・Fava, G. A. (2016). Well-being therapy: Treatment manual and clinical applications. Karger Medical and Scientific Publishers.(ファヴァ, A. 堀越 勝(監修)杉浦 義典・竹林 由武(監訳)駒沢あさみ・竹林 唯・土井 理美・鳥羽 健司(訳)(2018). ウェルビーイング療法 治療マニュアルと事例に合わせた使い方 星和書店)
・Feldman, G. C., Joormann, J., & Johnson, S. L. (2008). Responses to positive affect: A self-report measure of rumination and dampening. Cognitive therapy and research, 32(4), 507.
・太田哲政, 田中圭介, & 杉浦義典. (2020). 不適応なメタ認知が dampening 及び抑うつ的反すうを媒介し, 抑うつ症状に及ぼす影響の検討. 認知療法研究= Japanese journal of cognitive therapy, 13(1), 70-78.