2008/06/24: 残滓強迫

残滓(ざんし)に関する強迫です。
そーゆー変な事を言うと、「新しい強迫を作るなと」だれかに怒られそうですが・・・。

「残滓に関する強迫」というのがあって、これはあんまり強迫の本に載っていないような気がする。
強迫の本に載っているのは、たいてい「確認強迫」とか「不潔(洗浄)強迫」とかで、ちょっと詳しいのになると「加害強迫」、「位置(対象性)強迫」、「数字(数唱)強迫」、「縁起強迫」なんかが載っている。

しかし、残滓に関する強迫観念などは、あまり載っていない。せいぜい「落し物をしたのではないかと気になって引き返す」という症状単位での記述があるぐらいだ。むしろそれらの症状は「確認強迫」の一種だと扱われている。
ま、確認強迫の一種なのかもしれないですけどね。

で、残滓に関する強迫というのはどういうものを指すかというと、「自分の何か大切なものを落とした、あるいはその場に留まっているのではないか」という観念と、「それが落ちていない、残っていないことを確認する」という行為から成り立っている。
例えば財布を使った時に、キャッシュカードを落としたのではないかと思って、落ちていないかレジの周囲を確認するという事になる。
ほらー、やっぱり確認強迫の一種じゃん。

ところが、この発展形というか亜種っぽくなってくると、「大切な”何か”を落としたような気がする」の“何か”の部分が本当のところ何なのか判らないものになってくるのだ。いわば残滓のようなものを落とした気がしてしまう。
例えば、何一つ持たずに、ある一定時間どこかにとどまり続けた後、その場を後にする時に”何か”がそこに落ちている気がしてしまう。それが何かと尋ねたら、たとえば髪の毛とか、残り香とか、気配とか、分身とか、それぞれみんな色々な事を言うんだけど、結局のところそれは残滓なのですよ。

例えば「駅のホームで座っていて、電車に乗る時に何かをホームに落としてきた気がして電車に乗れなかったり」とか、「コンビニで立ち読みして本を戻す時に、戻した本に自分の何かがくっついているような気がして、結局買っちゃったり」とか、「トイレの個室に入るとそこに何かを落としてる気がして、なかなか個室から出られなかったり」とか・・・、まあそんな感じ。
たぶん、自分の名前の書いたものが捨てられなかったり(というかものが捨てられなかったり)、個人的な内容の書かれた文章が拡散したりすることが怖い人なんかもそれっぽいのかも。

この残滓が残ると何がまずいかと尋ねると、それは自己情報の漏洩みたいな感じになって、『誰か知らない悪人に利用されたりするんじゃないか』とか出てくるんだけど、まあそうかもしれないけどそこの部分はリアルでも無ければ深みも無くて、なんとなく後付け的な感じがする。むしろリアルに感じている感覚は「何かが落ちたり、残ってしまっているという感覚」だ。だから、漏洩の部分を押していってもなかなかうまくいかない。

自己情報の漏えいを恐れるとなれば、統合失調症を疑うところではあるんだろうけど、ここはあくまで強迫性障害なんじゃないかと思う。まあ、病名とかは心理士にはあずかり知らぬところだけど。

でもこの”何か”判らないけど・・・というのは、別に洗浄の強迫の人にもあって、ある患者さんはそれを”幻の汚れ”と呼んでいた。WCなどの実際の汚れよりも幻の汚れの方が手強いらしい。

話がそれたけど、結局この残滓をどうしていくかというと、方法は二種類ぐらいあると思う。
一つはエクスポージャー。つまり本人が大事だと思って落とさないように注意している自己情報なんかをわざとどこかオープンな場所に置いたり落とすというもの。例えば住民票を取ってきて、町の公園のテーブルに置いてみたり、財布とケータイの入ったバックを自転車のかごに入れたままでお店に入ったりする。ちゃんと「大事な現物」を残してしまったという観念の人には使いやすい。気配とか、においとか、分身とかの人には使いにくい。
もう一つは儀式妨害。つまり、自分の残滓をどんどん残しつつ、どんどん先に進む。トイレの個室を5つ連続で入ったり、財布を開け閉めしながら、決して確認せずにどんどん行くというやり方。ペーシングだっけか?
これは原井先生のところでやってたけど、タクトを出す人がいなくてもセルフでできるもんなのだろうか?
ここでなんで一回の「確認せず」ではあかんのかというと、うーん、説明が難しいけど、それぞれの儀式がちょびっとずつで治療に足りないんだと思う。

本当の事を言うと、「キャッシュカードを落として、一週間ぐらい放置する」とかがいいんだろうけど、それはなかなか許可が下りない。

なんにせよこーゆー強迫はあんまり理解されないというか、微妙過ぎながら日常生活を邪魔しているデイリーハッスルだと思う。
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投稿者: 西川公平
2008-06-24 00:36
カテゴリー: 強迫性障害

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