2020/02/25: 【思春期の心の回復支援を学ぶFBTアドバンス講座Japan2020】

1日目はこちら。
2日目はこちら。

今日は会場に早く着いたので、朝から大学前の喫茶店で、ノートルダム女子大(カトリック)と、京都女子大(本願寺)と、同志社女子大(プロテスタント)の違いについてレクチャーをうける。一番古くからあるのが京女、一番新しいのがノートルダムで戦後作られたらしい。英語教育でならしている私学なので、ある意味富裕層の子女が通うというか、京都市内の大学から「マネージャーになりまんせんか?」みたいなサークルの勧誘なんかが来ても、京都大学のサークルぐらいでないと相手してくれなくって、「ふん」という感じで、冷たい感じだったらしい。
まあ、三日間通っても、テスト休みだそうで、一切女学生とは出会ってないですけれどね。

聞きつつ打ってると、それに専念してしまって、自分なりの考えが自生する隙間がなくなっちゃうなと思った。
まあでも、こうして誤字チェックしながら読み返すと、ああ、そういう事かと思ったり、ここなんだか判らねえなと思ったり。

3日間で48000字という事は、400字詰め原稿用紙で120枚やな・・・
手の甲が痛いわ。

久しぶりにミーハー写真も撮りました。
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左がLinsey Atkins(CP)で、右がMaria Ganci(PSW)

さて三日目会場に入ると福井大の鈴木太先生がいた。鈴木先生によると、この会場にいるメンバーが、ほぼ日本のFBTのフルメンバーらしい。「なんで日本ではそんなにFBTが流行ってないの?」と尋ねると、「ある意味FBTする人達が皆いい人すぎて、儲けてやろうとか、第一人者になってやるとか、権力志向持ってる人がいないから」と言われた。まあ、それはイイ事だよな、とは思う。

CBTケースキャンプ2020はどうやら福井チームと共同?開催らしいので、もにょもにょと打ち合わせをしたりする。

そういえば研修会全体を通しての感想だが、質問に対する応答が丁寧だなと思った。チャプターごとに質疑応答の時間が設けてあるのはもちろんのこと、恥ずかしがり屋さんのために、用意された大きめの付箋紙に質問を書いて前に貼っておくと、合間に取り上げて読んでくれたりもする。

さて、三日目はその付箋紙にかかれたQ&Aからスタート
Q.標準体重ってだれがどうやって決定するの?
A.BMIの中央値を使っているが、基本的には小児科医が本人の年齢身長などから決めたものが標準体重だ

という受け答えの後、講義がスタートした。
昨日まではFBT、特に再栄養について話した。多くの場合再栄養が上手くいっているように見えている時でも、むしろ上手くいっている時ほど、親は「栄養と体重はさておき、わが子の心のケアはどうなってるの?我々親にしたような心理教育を子供にはしないの?」となってくる。
実際の所、子供の心の回復に関するケアは、ベーシックなFBTのプロトコルの中には入ってない。だから、FBTでは心のケアはしない。FBTで治療をすれば体重回復するが、そうなっても、認知的諸問題が残っていることは珍しくな1-2日目でも言ったようにFBT後にサイコロジカルケアを受けるために別の所に行く子は多い。でも、今回そういった子供へのサイコロジカルケアを付け加えるための本を書いた。なぜならANはこころの病気から、身体の病気を引き起こすものだから。身体がある程度良くなってきたら、次はこころを扱ってくのは妥当と言える。
現状では、まず病院で身体的側面を回復させて、その後に病院以外で、こころの部分をアウトソーシングしている。身体の部分を取り扱ってる最中からも、心の部分を取り扱えば、治療が進みやすくなるかもしれない。
FBTをしていく上でも、患者さん自身が参加して、両親とともに治療をしていくのは大事なことだ。患者さんに治療に積極的に入ってもらえれば、治療抵抗も少なくなる。
少なくとも、患者さん自身に「今何が自分に起こっているのか」について知ってもらう事があると思うが、本来のFBTの中ではほとんどそのような説明はない。一方で、患者さんと個別の時間を取ることで、停滞していたFBTが展開し、事態が進むこともある。
ケースでは、反抗挑戦的な拒食が出現した時に、それを拒食で表すのではなく、母親にきちんと言葉で示すこと、怒りや見捨てられ不安を言葉で表現できるようなサポートしたことで、治療が展開した。
だから、思春期の患者さんの語るストーリーを聴くことは大事。しかし、あまり低体重過ぎると、個人的ワークは有効でないのは確かなことだ。実際、脳が飢餓状態になると、心理的ワークは無理だ。1日の摂取カロリーが大幅に制限されていると脳は正常に機能できない。そういう状態では食べることが1stで、FBTが1stになる。
その一方で、再栄養の過程で一定カロリーが取れ始める、体が戻ってくると,脳に回す栄養の余裕が出てきて、脳が機能し始める。そうなれば心のワークも可能になってくる。
心理教育が回復を促進してくれるという事はある。本の一章目にはそういった情報を載せている。今自分に何が起こっているかを理解してもらう。身の上に起こっていることを理解してもらったうえで、患者さん本人が病気に立ち向かえるサポートをする。
両親は食べ物のマネージメントで患者さんを手助けしてるわけだけど、本人からも病気に立ち向かう協力を得られれば力強い。心理教育が本人に入ることで、両親からも「食べさせるのが楽になった」という意見も聞かれる。
さて、現在の治療は非常に直線的で、「これらの事をやれば、これらのアウトカムが得られる」みたいな。まあそういうこともあるだろうが、人間というものは複雑で、臨床現場では、そこまで直線的には行かない。
ANの脇にある困りごととして、【不安特性、OCD、強い損害回避傾向、ASD、完璧主義、敏感性の高さ、トラウマ】がある。それらを加味すれば、直線的には考えづらいことは沢山ある。これら脇の要因を考えることなく、全部除外して行われるのがRCTで、そこでは確かに直線的な考え方でも間に合う。でも、実臨床では除外されていないわけだから、それらの脇にある困りごとを扱う方法について述べる。
ジャネットは、個人のニーズにどのように治療をマッチさせていくかについて述べている。抗生物質が出た時は、何にでも抗生物質出してたけど、いまでは個別性を考慮して出されている。つまり、完璧主義が強ければ、そのワークが必要だし、、、というオンデマンドな細分化が必要になっている。
治療者は思春期患者の事を一定理解しなければならない。FBTで最初の10分喋るだけでも、色々なことを聴けるが、さらに特性に基づいた、カスタマイズされた治療がなされることが望ましい。例えば、下記の事を理解する。
・ANと本人の関係性
・ANのきっかけや維持要因。機能
・性格特性、思考様式、コーピングスタイル
・発達軌道への影響
・防衛としてのAN機能の代わりに会得ししなればならないこと
上記を行いながらも、再栄養は完全に行われて行くという事は、大事な前提だ。思春期の人のANを考えるうえで、病気の発達(悪化)のサイクルを考えることは重要。

【AN発達(悪化)のサイクル】
「ANはあなたにとって、敵なの?味方なの?」という問いはものすごく重要。それでANの病識が分かる。本人が病気を必要としているのか、病気が本人に何を与え、何を奪っているのか、機能を明らかにしていく。
ANが本人を乗っ取っていくというベン図について何回か話をした。そこには、徐々にそうなるという発達(悪化)のサイクルがある。そのサイクルにおける、今のクライアントのポジション(立ち位置)や、どうANが発達してきたのかについて、インタビューしておくと便利。
① 最初は、ANは小さな声から、友達の振りをして「ちょっと痩せてみたら?」みたいな内言として、あたかもあなたを助けてくれるかのような形で、出現する。クラスメートの「ちょっと太った?」みたいな言葉から来ていることもある。
② そうこうしていると、その内なる声は、どんどん大きくなって、とても魅力的な約束をしてくる。ANの誘惑が何だったのか、「痩せればモテるよ」とか、「馬鹿にされずに済むよ」とか、具体的に知らないといけない。
③ いずれ、誘惑というよりは、プレッシャーをかけてくるようになる。「**しないと、##になっちゃうぞ」みたいな。「友達に相手にされなくなるぞ」とか「彼氏が愛想つかすぞ」とか。
④ さらに進めば、ルールや要求がひどくなり虐待的になる。「絶対に炭水化物をとるな!」「おやつを喰うのは、豚と一緒だ!」
⑤ 最終的にはそれに圧倒的になり、乗っ取られて脳細胞がコントロールされ、「病気なしでは生きていられない」と洗脳される。それが自分自身の考えだと思いこまされる。「病気にこそ守ってもらえているのだ」と思いこまされる。
5まで来ていると、自分の考えとANの考えとの区別はつかない。だからこそFBTでは両親の助けが必要だとしているのだ。
でも、一方で、本人がそこから抜けだしたいと思っているかも、確認しなければならない。

【ここから病気の発達度合いを探るやりとりの模擬面接】
Thは「私が自分でANを選んだんだ、と言われたけれど、それについて確かめたいので、色々教えてね」「あなたの中のANの声は、この図で言えばいまどこなの?」「あなたのANが始まった時、どんな声が聞こえた?」「何をきっかけにしていたの」「いまは、このポジションにいて、少し問題だなって思っているのね」などと尋ねている。
面接中クライアントは一か所について深く話したがったり、多岐にわたって話したがるかもしれないが、ここでは現状の立ち位置や発達プロセスを明らかにするところに焦点を当てて話をそらさない。「その前はどう?」とか「その後どういう風に誘惑してくるようになった?」とか。「『痩せたらもっと魅力的になって、もっと友達が触れるよ?」というのがANの誘惑だったの?」とか。
模擬面接を見て、クライアントとANと同化して、分離できない感じが分かってもらえるだろうか?「病気はあなたにルールを押し付けてきてるんじゃない?」「こんなことしなきゃとか、食べ物に限らず、色々なルールね」「あなたの病気があなたに押し付けているルールを全部明らかにしていきたいと思っているの」「でも、病気がとにかくすごくプレッシャーをかけてきているのね、何をやっても十分じゃない、何をやっても、ダメだ」みたいな質問で、本人と病気の切り分けを試みる。
でもANは手ごわく隠れて、「何の困りごとも無い」などと言ってきたりする。「病気があなたから奪っていることは何?」「眠りはどう?悪い夢ばかり見ていると言ってなかった?」「今の話を聞くと、さっき言ってたポジションより、さらに先のポジションに進んでない?」「その病気をどうしたいと思ってるの?手放したいの?キープしたいの?変えたいの?」などと、質問を重ねて種まきする。
別のチャートではANがもたらしているメリットとデメリットなんかの表もある。これはCBTでもやるやつ。自分と病気を本人が分離できて、外在化できるようになるようになること、切り離して捉えられるようになることが、ワークの重要なポイント。

【模擬面接終わって感想戦】
AN模擬患者の感想:「自分が自分を絶対的にコントロールしている感じ」を大事にしていた。だからこそ、Thの「ANコントロール感を奪われて、支配されているんでしょう?」という話は嬉しくなかった。でも、AN発達の図を見ると、「確かにそうだな」とは思った。でもでも、それは認めたくないし、それを認めていることをセラピストに悟られたくもない、だから平気なふりをしたりしていた。
セラピストの感想:急がず、「何かおかしいことが起こってるよね」という違和感を抱いてもらう種まきをした。あるいは、寂しさや、独りぼっちであること、孤独感についても振り返ってもらいたかった。不安や恐怖の気持ちにも触れたかった。
1時間ぐらい話せば、そういった不安な気持ちや辛さを、誰に話しているのとか、そういうサポートについても話しすることができる。

病気と本人を分けて考える外在化について。ANという病気がもたらしてくれるメリットや、社会からの隔絶で守られている感じを手放したくないみたいな話。そこで感じている孤立感についても話しできる。そういった話をしながら、病気がどういう機能を持っているのかを明らかにしていく。

Q&A
Q.日本人のAN患者はなかなか自分のことを話したがらないが、何か工夫はあるのか
A.ラポールが築けていること。治療者の早めの段階で出来ていることが望ましい。
A.(フロアから)鬼とか妖怪とかそういったものを使ってヴィジュアルを使ってタイムラインで説明する。どうであれ、患者さんの中で何が起こっているのかを治療者が把握して、心理教育につなげていく。
病気は敵か味方か?と問うと、それは“まさしく私の”考えなの!、と外在化して切り離されるのをとても嫌がる患者さんもいる。病気と判って本来の自分とは違っていると切り離せる患者もいる。その場合は治療がスムーズ。
ANと自分を切り離す⇒ANを手放す⇒ANを置き換える。という回復のステップを踏む。
病気と自分の区別がついていないような患者さんには、押し問答にならないように、真っ向から否定したりしない。あなたがどう考えているかはさておき、Thが考えていることを話ししてもいい?などという。
例えば、風邪をひいても、あなたはあなたよね。でも風邪をひいているあなたは、元通り100%のあなたではないよね。咳したり、鼻水が出たりと、前とはちょっと違っているよね。風邪をひいてもあなただけれど、本来のあなたからちょっと変わっているという事は、判るよね?そんな言い方をすれば、「違う、そんなことはない!」などと抵抗される事は少ない。
そのようなたとえに載せて、「ANでも同じことが起こるのよ。あなたはあなただけれど、ANの文、それに影響されて、あなたが普段考えることと違う事を考えたり、違う事をしたりするようになるの。だからこそ、あなたは今ここで治療者である私の前に座っているのよね。風邪の時みたいに、体がちゃんと機能していないからね。そのことについて考えて欲しいの。」などと伝える。
決して喧嘩はせずに、考えるきっかけ、異なる思考が生まれる種をまいておきたい。治療者がやりたいことは、説得するとか、喧嘩するとか、押し付けるとかいう事ではなく、現実に起こっていることを本人に振り返って欲しいという事だ。
自分と戦うことができる人なんて誰もいない。だから、病気と自分が一緒だと、なかなか戦いづらい。この病気が「自分そのものではない」という所が見えてこないと、なかなか戦いづらい。この「Seeding:種を植え付ける」というゆっくりなプロセスが分かってもらえますでしょうか?

もう1つは、この病気がこの人に何をもたらし、奪っているのか、を明らかにする。CBTであるメリットデメリット表を使う。
「あなたにとって、どんなメリットがあった?何をもたらしてくれた?」同時に「何を奪われた?」「どんな不都合が起こった?」「やりたいことの邪魔になっている?」
この表はつまりコーピングの手段なのだ。患者さんには何かが起こっていて、それに対処するための方法がANなんだという事がわかる。不安や恐怖への対処かも知れない。身体は高い感情状態を抱えたままではおれないので、それを緩和するための感情調節手段として病気というFunctionが必要となっている。
モーズレーのトレジャー先生は、患者さんにとってANが持つ意味についての研究をして、以下のような役目があるとしている。
・病気になることで、安心感やコントロールが得られる。
・不安(対人不安、役割期待への不安)からの回避。
・自分の意志の強さや深い知識を感じられ、周りに比べて優越だという感覚を得られ、自信を持てる
・人から賞賛されるような何者かになれる。ANというアイデンティティーが得られる。
・周りから心配してもらえるとか。あるいは、辛さを伝えるSOSの手段だったりもする。若い人は上手く自分の事を表現できない。
・ANになる前からある希死念慮が、飢え死にしたいという形で出ている
並存疾患があるとかで、例えば繊維筋痛症で,どうなってもええわとなって、ANだったりもする。

【自分日記をつけることについて】
自分日記についてはこちら
Letting Go of ED - Embracing Me: A Journal of Self-Discovery (English Edition)
日記を書くことについては、患者さんたちは「何から書き始めたらいいか」「どういう事を書けばいいか」「きれいにかけているか」「キチンと書けているか」そういった些末なことが気になって書けなかったりもするので、構造化された形でお渡しできた方が、混乱や不安が少ない。
心理的な分類としてのなにがANのきっかけになるかは、成熟恐怖・自立欲求、怒りやコントロールの関係、抑うつ、無能さの感覚などがある。
ANに成熟恐怖はとても多い。大人になる事への恐怖、セクシュアリティの恐怖、家族から分離することの恐怖、大人になって試練やプレッシャーと向き合う事からの恐怖、子供のままでいたい願望などだ。そういったものが背景に、結構プロアスリート(ダンスとか、ホッケーとかで国体出るような人)で、今の成功を保つためには、現状の身体を保って、小さいままでいなければいけないとか思っている人がいる。
ANがその恐怖から来てることをきちんと理解することが大事。親自体の不安から子離れさせられないという事もある。「自分が子供でいるからこそ、親が幸せでいられるし、自分が大人になってしまったら、親が不幸になる」とANの子が思っている場合もある。自立を見せると親が潰しにかかるような家族だと、自立に対する罪悪感を覚えたりもする。
そういうことが問題となっている場合は「大人になる。自立する」という事を、本人がどう認知しているか、大人になることの予期不安がどうなっているか、だから何を回避しているのか、それがゆえにANになっているのだ、、、という流れを把握する必要がある。そういった意味では、親の側も子供が自立するという事に対して理解をしていく必要がある。
自分の中のコントロール感の欠如に対する隠れた怒り、内的自分と環境をうまくコントロールできないという無力感がある時、コントロールを得る手段として完璧主義なANとなることがある。(ここでいうコントロールとは「自分の感情を制御下に置き、心の秩序を保つこと」を意味しており、「他人を意のままに操る」ことを意味しない)。
そういった時に、それらの見たくない感情を意識できるようになること、コントロール可能なもの不可能なものの区別がつけられること、などをサポートする。

【コントロールの円】
・私がコントロールできるもの(外側のサークル)
ソーシャルメディア、友人、他人の言動や考え、自分の生物学的な身体、外的な出来事
・私がコントロールできるもの(内側のサークル)
自分の感じ方、価値観、決断、意見

3つ目の心理的要因となりうるものは抑うつ的特徴「喪失と悲嘆」
この場合は、自分の喪失や悲嘆によって、自分を罰するためや、その痛みから逃れるため(消える手段としても)にANが出てきている。何かしらの友人関係にまつわる喪失の場合も結構ある。
こういった方のワークでは、喪失を確認し、それにまつわる痛みを意識して表現する手伝いをする。喪失がどんな意味があったかについても話し、その中で、誰が社会的サポートになってくれるか、無くしてしまったサポートの代わりに誰が代わりになれるかについて話をする。
昔あった例だが、母親を亡くしたANの子で、FBTそのものは上手くいって、体重も元通りになった。しかしセラピー中に母親の話は一切出てこなかった。そうして最後に本人が「誰も母親のことを聞いてくれなかったし、とりあげてくれなかったよね」と述べた。今振り返っても、FBTをしたことに問題はなかったと思っているけど、もうちょっと母親の事を取り上げるという選択肢もありだったとも思う。

無能さの感覚はほとんどの思春期に観られる。自分は成功できない、うまく出来ないダメ人間だという感覚。自分は本当のところ無能だから、新しいことにも及び腰である。しかしその場合にANがコーピングの手段として、一時的な自己効力感や成功感、コントロール感をもたらして、自分には価値があるという気にさせてくれることがある。それあるときは、その無能感がどこから来ているのかについて、背景を探って、扱っていく。

AN患者の5大性格特性としては、特性不安、損害回避、強迫性、柔軟性の無さ、完璧主義、がある。他にも禁欲主義、まじめな良い子などがある。

ANの子は神経認知科学において、セットシフティング(ある課題から別の課題に移ること)、認知的柔軟性(上手くいかない時に、問題解決的に別の方法を試すこと)、こころの理論(自分ではない他者の視点を取ること。社会的な能力。自分が何を考え感じているかの把握)の領域において困難があると示唆されている。それらの能力の困難で、問題解決が阻害されたり、回避的なコーピングスタイルが慢性化したりにつながる。

ストレス体験がトラウマ化するかどうかにコーピングスタイルが関わっている。接近的コーピングスタイルの人に比べて、回避的コーピングスタイルの人は、何事も上手くやれず、自罰的態度をとる。
AN患者さんのコーピングスタイルを調査して、そんなに生活に役立ってないよねと理解できるようにしていくと良い。本人は安全地帯から一歩も踏み出さないことで恐怖や不安を回避しているかもしれないが、本当は安全地帯の向こう側にこそ本人の夢や可能性が広がっていることを理解してもらう。そして、安全地帯から踏み出すよう手助け・後押しできるようにサポートする。
本人に構造化された、安心できる形で、新たなチャレンジにスモールステップで取り組んでもらう。スモールといっても、不安に圧倒され過ぎずに、本人が耐えられるギリギリのラインに合わせて設定する。恐怖の形が、失敗なのか、拒絶なのか、悪いことが起こるのか、それらを確認したうえで、実行してもらう。
会食恐怖(外で食べる。他人と食べる)もこのモデルを使う事ができる。けっこうANには会食恐怖があるので、スモールステップでやっていく。これはつまり問題解決スキルなので、そのスキルトレーニングである。
まあ、これらの方法はあくまでFBTに付け加える形のものなので、これらについて理解しておくことでよりFBTが上手く回せるようになるという事である。

Q.FBTにおいては親御さんにやり方を考えてもらうが、子供への直接の介入ではあれこれ示唆するのか?
A.子供の場合は具体的な構造を必要とするので、より直接的に設定をする必要がある。

Q.FBTする人と、個別セラピーする人を分けることはできるか?
A.やってみたことはないが、やってみてもいいかもしれない。

Q.「成熟不安」に関する、対人関係療法との共通点は?
A.成熟不安が問題だとしても、本人が「成熟不安だ」認められる子供はいない。両親は認めても、本人は認めない。だから成熟不安はあくまでThのケースフォーミュレーション内のものだ。取り組む領域をここだと定めて取り組んでいくスタイルはIPTと共通している。ANの40%は他者とのやり取りに困難を示す事からも、対人関係を扱っていくことは重要。

Q.これは、精神分析のような、やっていって問題化が起こったりもするのか?
A.これは、精神分析のように深くいくわけではない。治療というよりは、心理教育のような、問題解決のようなもので、スキルを授けるためのワークだと考えてもらった方が近い。

Q.心理教育を本人に始めるうえで、体重や体の回復の目安はありますか?
A.医学的、身体的安定が得られている状態であること。エネルギーが取れていれば、体重回復途上であっても大丈夫。病識や洞察力は無くても良いが、低体重過ぎるときは特にゆっくり始める。今取れているエネルギーが十分でないと、やっても効果が無い。オーストラリアではANは若いうち、病態が重くないうちに、学校から勧められるなどして、すぐに病院に来るので、日本ほどヘビーではない。日本のFBT経験者によれば、同意で入院できる人であればOK。拘束しないとチューブを引き抜く人には無理。あまり治療者が抵抗を恐れ過ぎない方がいい。きちんと親が再栄養できているのであれば、一見本人の様子が準備まだまだのように見えても、試してみる価値がある。病院によっては再栄養途上から、心理教育を始めている場合もある。

Q.オーストラリアFBTにおいて栄養士の役割は?
A.栄養士は治療者のコンサルタントの仕事であって、患者さんと直接会う事はない。FBTは両親のエンパワーメント治療だから、「子供が本当に必要なものを、両親は判っているはずだ」という理念がある。そこに管理栄養士という「正しいことを言う人」が入ってくると、エンパワーメントにならない。しかしそうは言っても、たまに何一つ分かってない親もいるから、家族心理教育で一定のミールプランを見せたりもする。

Q. 回避・制限性食物摂取症/回避・制限性食物摂食障害Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder (ARFID)の治療はどうしてる?
A.CBTにはジェニファートマスのARFID治療プログラムがある。避けていた食べ物を少しずつ取り入れていくアプローチで、栄養士さんがすることもできる。今やってるRCTは、ARFIDの人に体重80%になるまでFBT使うって奴で、まだ結論は出てない。80%に到達するまで、本人が食べられるものをひたすら食べさせて、とにかく体重を80%まで回復させるやりかたで、80%達成後で不安を扱うプロトコルや、問題行動を扱うプロトコルを用いる。ARFIDに何が上手くいくのかは実はあまり分かっていないので、色々やっている最中。このグループには治療が難しい。なぜなら、そもそも生まれた時からそうだったりする、改めて両親の不安を上げて動機づけを高めるのが難しいからだ。ARFIDのケースをやっていて難しく感じるのは、生まれた時からのケースで、母親との感情調節がとても難しいと思う。だから、ARFIDに関するデータはあまりない。

Q.長期化している大人のANに利用する上での示唆をください。
A.それにはMANTRA(Maudsley Model of Anorexia Nervosa Treatment for Adults)のアプローチが良い。MANTRAの中で、患者の中のANの声を「DV加害者と被害者の声」みたいに置き換えて、病気と離婚しないとどうにもならない、みたいに説明している。だから、大人のANにはとてもいいと思う。とにかくジャネットトレジャーは天才だという事で、一致している。我々の本の帯も書いてくれた。

というわけで午前の部終了。

顔の広い鈴木先生に先生を何人か紹介してもらってカレー喰った。美味かったけれど、出てくるのが遅く、ギリギリになった。

午後の研修がスタート。

【ANの性格特性について】
患者さん自身に自分の性格特性がANに与えている影響を理解するために利用可能な、セラピーカードを作ってみた。良かったら活用して欲しい。ANの患者さんには特性不安がある。患者さんにカードを見せながら説明すると「まさに私だ」となる。カードはもうしばらくしたらアマゾンで買えるようになる。特性不安を元々持っていると、それを橋頭保にして、ANなどの病気が乗り込んでくることになる。
ANに関して言えば、外からはぱっと見不安に見えなく、むしろ落ち着いているようにすら見える。でも、静かなる、外に見せない不安があって、内側では火の車だったりもするという事を、両親にも判ってもらう必要がある。
損害回避ついては、起こりうるあらゆる悪いことが起こらないように気をつけようと用心深くなりすぎるような不安だ。他の人から悪く思われることにも過敏だ。これも親が気が付いていないこともある。損害回避傾向は、友達を家に呼びたがらなかったりする。もし家に呼んで、「つまんない」って思われたらどうしようとか思うからだ。これもANと組み合わさって、食べ物や病気を避けることがオーバーになってしまったりする。
強迫性という性格は、思考がリピートモードになって止まらない状態だ。ほとんどのANは強迫性を持つ。病気の前では学校の宿題なんかを強迫的にやっていたなんて方向にいってたこともある。そこから、体の部位とか、見た目とか、カロリーとか、そういった細部にこだわるようになる。
柔軟性の無さ、という性格特性がある場合、かなり厳しいルールを沢山作ってしまう。患者さんが「あまりにルールが多くて疲れ果ててしまう」などと言ったりもする。
性格特性の話をすると、「ああ、だから辛い気持ちなんだ」と自分の事が理解できてほっとする方が結構いる。これらの性格特性からくる一般ルールが、食行動に関するルールにシフトしていくことがある。運動についてもこんなルーチンで、何千歩歩いて、などと厳しくなったり、選ぶ食物もあれとこれはダメ、これだけしかダメなどと厳しくなる。
完璧主義も、多く見られる性格傾向だ。多くの患者は自分の期待値が高すぎる事に理解はあるんだけれど、どうやって変えたらいいか分からない。多くの患者さんは「こんなにも辛いことを頑張ったんだから、すごく見返りが多いはず」という信念を持っていて、自罰的になってしまっている。この病気になる前は、上手く完璧主義を使って、学校での生活に役立てていたこともあるだろうが、ANと重なってくると、「いかにパーフェクトなAN患者になるか」に使われてしまう。自分がパーフェクトなAN患者であることを写真に撮ってインスタグラムに上げたりもする。それら完璧主義も、結局はコントロール感の話だ。あるいは、恥のような嫌な感情を感じずに済む手段だったりもある。
これらの性格特性カードを使って、患者さんのそれらの感情や性格特性が、ANにどう関わってるか、話し合う事ができる。ANを通じて表現されたそれらの性格特性をしる。それらを病気から取り戻して、自分の生活に役立てていく方向に向けていく。
カードを並べて「どれがあてはまる?」と聞くと、あれもこれもと10枚ぐらい取られる。「一番苦労しているのはどれ?」と聞くと、最も選ばれるのは「強迫性」だ。カロリー計算が辞められないの、と。目の前に食べ物が置かれると、カロリーを計算せずにはおれない。それはつらいですよね。強迫的なカロリー計算をどうやったら停められるだろうかと相談していく。
カードの裏には「賢者からのヒント」が書いてあり、それらが停め方のヒントになる。たとえば、その繰り返しをオフにするスイッチはどこにあるのか、みたいなことが書いてある。その子が大好きな応援ソングを選んでもらって、それを大音量で流してもらって、強迫的な思考のつぶやきを音楽で聞こえない様にしたりもする。人気が高いのはKaty Perry の Roarって曲だ。部屋にある曲から選んでもらったりもする。若い子と曲の好みが違うのは判ってる!w
もちろん本人に選曲してもらうこともある。そういった曲でかき消すこともあれば、別の所にエネルギーを向けたりもする。文章を書くのが好きな人は、次のストーリーの構想を練ったり、一章かいてもらったりもする。
性格特性は変えたり無くしたりが難しいので、違う方に向けるのが得策。違う利用法を示すという事。
別のカードの裏には、「自由の賢者」がいたりする。不安特性については、何か別のものに気持ちを向け直す。
中には共感のカードなど、ポジティブなカードなんかもある。それを携帯で写真撮って、不安な時に観てもらったりもする。性格特性を変えるのではなく、ポジティブな形に利用する。

【発達について】
思春期の真っただ中にいるAN患者は、同じANでも個々の発達段階は異なっているということを考慮に入れたサポートが必要。親も12歳の子の親なのか、16歳の子の親なのかで、サポートの仕方が異なる。両親は子供の発達段階に応じてマネジメントする必要がある。患者さんがその発達段階にとって、年齢相応にふるまえているか見ていくべき。
芋虫が、蝶に向かって「あなた変わったわね」と言っている絵
芋虫が、蝶に向かって「どうやったら蝶になれるの」と言って、蝶が「青虫を辞めたいぐらいに、どうなりたいのか考える事よ」と答えている絵
ビジュアルは、1分で大事なことを伝えるぐらいに、パワフル。
たとえば、長崎病院小児心療科の錦井友美先生による摂食障害の心理教育資料「アノレッキー」など

ANの患者さんは感情を弁別する能力が乏しい。RO-DBTでは、他者の顔の表情から他者の感情を読み取るトレーニングを積む。また、情動調節も難しかったりする。特に調整し過ぎ問題がある。ちなみにBNの人はむしろ調節が足りない。
だから、感情を識別し、認め、受け入れられるような手助けをする。感情は、自分が今どういう状況か示す羅針盤で、役に立つ事を学んでもらう。感情は体のセンスなので、どの部位でどう感じているか同定する。体の緊張は抱え続けておれないので、何らかの方法で外に放出される必要があり、したがって感情も外に出される必要がある。
また、感情は避けられず、生起をコントロールできないものだと学ぶ。食べ物をお腹に入れて、唾液や胃液の分泌をコントロールできないのと同じだ。我々にできる唯一の事は、感情が生起した際にどうするか、どう表現するかということ。怒った時に、「怒らない」ということはできない。でも怒った時にその感情をどうコントロールするのかは、自分で工夫できる。殴るのか、「怒っている」と伝えるのか、いつまでも抱え込むのか。それらはそれぞれのやり方だ。感情は合理的なものではないので、論理や理性は効かない。感情は体にインパクトを与え、時に消耗させたり、興奮させたり、蘇らせてくれたり、勇気づけられたりもする。
AN患者さんが、感情と食べ物をどう絡めてしまっているか話し合う。食べ物をコントロールすることで、感情をコントロールしようとしているのだという事を理解してもらう。患者さんにとっては、あまりにごっちゃになっていて、感情と食べ物の区別もつかなくなっている。それって、生まれた時からだれしも感情と食べ物は結び付いているものだよね、とノーマライズしている。
病気と関係なく、我々感情と食べ物を絡める事って、日常よくある。誕生日ケーキとか、ご褒美のアメとか。そもそも感情と食べ物はしばしば絡まっているものなのだ。でも、それだけが常に絡まっているのは具合悪いわけだから、食べ物以外のものを通じて感情を表現することができないかトライしてもらう。

・・・Thought Action Fusion(思考と行為の混同)というタームが流行ったことあるけど、摂食障害の患者さんたちに起こっているのは、Food Emotion Fusion(食物と情動の混同)だという発想は、面白いな。講師曰く、「そもそもFood とEmotion はセットなことって、ノーマルよね」と。 誕生日にはケーキ、ご褒美のチョコレート、お祝いのビール。 逆に、すごくおいしい/まずいモノを食べれば情動が喚起される。 そもそも赤ちゃんにとっては、Food とEmotionは不可分だ。分かちがたい所からのスタート。・・・

感情調節はOver Control(過剰調節)とUnder Control(調節不足)がある。それらをビデオで学んでいく。以前日本のAN治療では感情コントロールについてそんなに扱わないと聞いたんだけれど、この辺りを使っていくのか、使っていかない方がいいのか、日本人の意見はどうだろう?
A.(フロアから)感情の話はインサイドヘッドという映画を使って話をしたりするとイイ。

A.(フロアから)家族に関わっていくと、そもそも家族全体が感情表現に制限かかっている場合などもある。
A.(フロアから)対人関係療法では、感情表現の奨励というものがあり、感情のボキャブラリーをリストアップしてもらって、それぞれの機能を書いてもらったりもする。


【摂食障害を手放して、自分を取り戻す日記?】の話
ジャーナルオブセルフディスカバリーを使って、自分の脳の中のネットワークを再構築する。脳には可塑性があるから、神経回路を再構築して、自分が受け入れられるようにするのだ。ANの人たちは脳の話を好ましく受け入れがちで、自分の脳を守りたい、脳は大切な自分の一部だと思っていることが多くて、熱心に聞いてもらえる。脳の可塑性が促進される条件は、『注意の集中、感情の覚醒、繰り返しと練習、モチベーション、新規性、喜びや報酬など』が必要。何かを思い出してもらって、「それって、すごく覚醒度合いが高かった時の事じゃない?」などと聞く。覚醒するためには、安全地帯のギリギリまで踏み込む必要があるのよ、と励ます。ANの患者さんはあまり遊ばないが、遊びというのはこういった要素がたくさん詰まっている。治療に遊びをどう取り入れるかが重要。
「統合された自分」という感覚を育むため日記を活用する。自己感覚を高めるため、『感謝、セルフコンパッション、つながり、自己肯定、感情認識、価値観、日課としてのワーク(自己啓発や柔軟な考え方)』などをいれて繰り返し毎日書き込んでいく。
「毎日3分書いてね」と頼む。いきなり書くのが難しい時は、セッションの中で段階的に書く練習をしてもらったり、書いたことについて話し合いながら、また来週も書いてきてねと伝える。それぞれの年齢、発達段階に合わせて内容を考える。
セッションでの話し合いで自分を表現するのが苦手だという患者さんにとっては、日記が一つの表現の場になる。また、日記は本当にアセスメントになる。感情の幅の狭さや種類の少なさ、活動レパートリーの貧しさや、生活の単調さなども日記から読み取れる。破られたページや、ホワイトで消されたページなどから、完璧主義の強さなんかも日記に現れる。特に慢性的な、病歴の長いANの人からこそ、日記を書いて良かったというフィードバックがあったりもする。日記から、周りとのつながりが断絶されていることが分かることがある。毎週毎週「つながり」というセクションで、母とセラピストしか書かれていなかったりする。
日記には、食べ物の事はできるだけ書かないよう勧めている。最初は日記もテストの回答かってほど簡潔に書いてあったりもする。そこから、嬉しかったとか、楽しかったとか、広がってゆく。セッションの中で、嬉しかったとか、何がどう?などと、表現を拡張していく。 
日記の振り返りは、AN患者さんにとってはとても難しい。テストの成績は良かったり、他人の希望を叶えるのにはすごく熱心だけれど、本人の中身は空っぽだったりする。
こういった、日々の日記の振り返りを使って、コアな部分を空っぽさを埋めていく。

10分の休み時間に、講師に「日本で今日みたいな話は受け入れられるの?」と聞かれたので、「おそらく今日のような話の方が受け入れられる。FBTのような食べさせる・リフィーディングの話の方が受け入れられない」と答えておいた。そしたら、講師はオーストラリアでは、むしろFBTの方が受け入れられてて、もう、FBTFBTFBT、リフィーディングリフィーディングリフィーディング・・・と、そればっかりだ。オーストラリアでは精神力動の立場は、弱い。だから、その部分を補うために、今日のセッションがある。オーストラリアでは今日のような話は受け入れられないらしい。日本でもフィジシャンは身体ばっかりだから、一緒なのかもなあ?FBTにおいて、ちょっと精神科医の立場ってオマケ的に弱そうだしなあ・・・。

思春期の患者さんにとって最も大事なのは、身体の健康を取り戻すという事だ。十分な栄養が取れていないと、成長・発達が止まってしまうからだ。
三日間を使って伝えたかったのは、全てが大事という事。身体も大事、栄養も大事、本人も大事。家族も大事。すべてを使って乗り越えていく。

講義は終わって、後は質疑応答

Q.入院治療はANを治さないの?
A.日本のようにAN治療が長引けば長引くほど、そして入院が長引けば長引くほど、親が「病院がAN治してくれるんでしょ」と他力本願になってしまい、却って悪い。とりわけANは本人が“まずは回復を望まない”病気なので、親が愛情を持って関わってあげる必要がある。医療者にはその子にそそぐ愛情や労力を、親ほどには持っていない。親が分かっていない、何もできるようになっていない、子供に食べさせる自信がついていないのに、体重だけ増やして退院させて何の意味もない。親が自信をもって食べさせることができないといけない。食べさせることに成功すればするほど、親が子供と関わる自信を回復させていく。入院中から食事の全てをマネージメントしていくという病院もある。


Q.日記をなかなか書いてくれない。感情教育は全例にやっているのか?やれば感情は戻ってくるのか。
A.われわれも初期の試みでは、白いノートに「書いて」と頼んでいた。でもAN患者さんはどう書いていいか本当に分からなくて、よく白いままで帰ってきてた。だから次に「感情について書いてきて」と頼んだ。しかし、なお「感情」という概念が分からなかったりもした。だから、現在の形はそういったプロセスを経て、少しずつ構築されてったものだ。色々なデータやエビデンスに基づいて、現在の日記の形がある。基本的にそれぞれの項目すべてに、意味や効果があるものだ。AN患者さんはびっちりと書いてくれる。紙すらテキトウに折れない。「テキトウに折ってよ」と頼んで、ようやく折れても、面接中その折り目が気になって、ずっとソワソワしちゃう。でもそういった行動実験を通じて、フレキシビリティーを学んでいってもらう。FBTの時間にも少し余裕があれば、感情の話をする。でも病院で感情の話をするには、ほぼ余裕がない。FBTの後で、個人開業のセラピストにやってもらう。FBTで良くなるにつれて、ANに感情の問題は大事だなと思う。そして、ANの両親にとっても感情の話は大事だと本当に思う。家族全員いるときにこそ、感情について話をする必要を多く感じる。大体家族全員が感情を過剰に制限していることが多い。次のプロトコルに試みとして8週目に二回目の家族教室を入れ込んでスタートする時は、この感情の話を入れ込みたいと思ってて、そうすることが上手くいくんじゃないかと思っている。また別に、患者さんのグループワークで感情の話をやってよというオファーもあり、グループだとみんなでインタラクションができるから、これも上手くいくかもと思う。ただANでグループすると、「だれが真のANか!」みたいなw張り合いが起こる可能性はある。

Q. ファミリーミールが怖くてうまくいかない。セラピストとして恐怖に打ち勝てるところまでいかない。
A.ファミリーミールはとても怖いので、みんなやりたがらない。われわれも何回もファミリーミールで大惨事を招いたことがある。そんな経験をしながら、段々何とかできるように、惨事を招きかけても回避できるようになってくる。最初はミールじゃなくて、ビスケットからやっても良い。でも、治療者もギリギリを責めていくことで成長できる。とにかく両親もカフェで自分の子供に食べさせるのが怖い。そんな時にすぐ、「じゃあ下のカフェでみんなで食べましょう」と言うと、両親は目を白黒させる。本人には「みんなが見るって言ってたから、実際の所何人があなたの事を見ているのか、ちゃんと数えておいてね」と伝える。そして、行動実験する。FBTは両親が抵抗することも多い。だからこそ、ふぁみりーみーるやこういう行動実験は親に対するモデリングになる。親に「セラピストがやったようにやればいいんだ」と思ってもらえるお手本となるようにする。家族教室の中で両親が自信を持つ話をするんだけど「隣の部屋で火事が起こったとします。家事で消防士が駆けつけて「ヤバイ、火事だ、どうしよう、どうしたらいい?困った。あわわわわ!!どうすれば?」なんて言ってたらどう感じますか?などと聞く。その後でまた、別の消防士が駆けつけて「『落ちついてください。大丈夫ですよ。今から安全な場所に移動しますよ』と言ってくれたら、どう思います?」などと伝え、まさに後者の消防士のように落ち着いた親の姿を子供に見せる必要があるのだと伝える。FBTは大事なことで、親として自信や確信をもってやっている、姿を見せて欲しい。我々講師してるけど最初やった時はすごく怖かったから、この2人でペアでやった。あなた方の職場にもそんなリソースがあればそうすると良いが、ずっとペアでしてると、AN患者はセラピストをスプリットし始めたりするから、上手くいかない。だから、ペアを解消した(マリアが嫌われがちだったのよねwうっさいw)。両親でもやり方を統一しないと、どっちのやり方が、と選ばれたりして、うまくいかない。だから、セラピストは一人で、全てを仕切らないといけない。

Q.FBTをしようとすると、めっちゃ嫌がられるんですが?
A.我々はスーパーバイザーに「もし両親に好かれているという事は、セラピストとしてやるべき仕事ができてないってことですよ」と言われていた。だから、嫌がられるので合っている。


Q.両親から工夫を引き出すコツは?
A.両親にアイデアを出してもらわないといけない。でも、両親の口から、私たちセラピストのアイデアが出てくるように仕向けて誘導していかないといけない。セラピストがやって欲しいことを、両親があたかも自分で思いついたかのようにしていく。

Q.治療をしていくと過食に転じてくる子が居る。UnderControlに転じてくる問題をどう扱うか。
A.余りにも多いペースで体重が増えていると、そういった問題がある。1週間に500gを目指すわけだけど、2㎏も太ってしまうと、それはマズい。3割のANはBNに転じると言われているが、なぜか良く分かっていない。最初に言った非定型ANの人たちはBNに転じるリスクが高い。
ファミリーミールでは結構食べてるのに、体重が増えていかないANで、昼食を見られていないことがあった。
親が食事を管理しきれば、過食に転じることも減る。「食べ出したら止まらないのではないか」というのは、まさしくANの不安であったりもするので、過食を心配しすぎる子には「両親が食事をコントロールすれば、過食に転じないよ」と伝えて安心させることもある。

Q.FBTを行っていく上でのコツは?
A.我々の病院では、「FBTしたいなら、これは譲れない」という項目がある。そこに、「親子は2週間仕事を休むこと。その間運動無し」と書いてある。このままじゃ学校に行けないんだという事で、子供もモチベーションを高めて頑張ろうとなる。体重が戻るまでは、体育ダメとか、遠足ダメとか、禁足事項が多い。だからそういった行動制限をうまく使ったりする。

Q.治療のアジェンダは明確にする?
A.これをやります。これが目標です、とアジェンダはめっちゃ明確にする。多くの両親はアジェンダを守ってくれるが、そうでない場合もある。メルボルンは多国籍なので、外国籍の人たちは、中々乗ってくれなかったりして、違う文化でやっていくことの難しさを感じる。例えば、メルボルンにはベトナム人は多いが、ベトナム人にもFBTが適応しにくい。

Q.ダイエットリバウンドの人と、否定形ANのちがいは
A.本人の内側にANの声があるかどうかという認知の問題。体重以外はANの診断基準に当てはまるのが非定型AN。非定型ANでは標準体重なのに生理が停まったりもする。

Q.(私)「私はここ10年FBTの研修をずっと受けたかったが、日本語で受けられるものがなく、今日ようやく夢が叶った。ありがとう。
でもFBTに関する日本の情報量が、本当に少ないから、もし良かったらこの三日間で教わった事をブログやSNSでシェアしてもいいかな?」
A.講師×2「すばらしい!もちろんOKだよ!」

Q.元々痩せてる人、例えばANになる前から標準体重の80%ぐらいだった人がANになった時、どこまで回復したら食事のマネージメントを自分に取り戻せるのか
A.小児科医が、その人の状態を考えて標準体重を設定するので、個々人のずれはある。そのような体重が本当に健康なのかは、考えなければと思うけれど、アーフィッドからANに転じたんじゃないの?。
A.(フロアから)日本人の標準体重は日本小児内分泌学会にある「日本人小児の体格の評価」を参照するとイイ。。痩せの基準が80%以下になっているので、成長曲線引いて、ずっとそうで落ちて来ないんだったらいいかもだけど、年齢身長から求められる程度を目標体重にしたらいい。成長曲線のバンドから零れ落ちてくるとどこかおかしい。

今回の研修で学んだことをより一層深めていく機会として、向こう三ヶ月間、月に2回、計6回ぐらいグループスーパービジョンを提供するので、是非トライしてもらいたい。FBTを行う過程で直面する色々な問題に、我々もトライしたい。日曜日の午後の1時間ぐらいをつかってZOOMでやれればいいかと思う。詳しい日時は追って連絡する。
何年か前に日本で研修した時よりも、格段に皆さんの意欲が強くなっているのを感じながら研修をしていた。ありがとう

皆さんお疲れ様でした。

とりあえず、今後滋賀県でうちがFBTを行っていくために、足りないものはFBTについて理解してくれているサポーターだな、ということが分かったので、小児科医や精神科医で協力してくれそうな人材を募るべく、滋賀でFBTの研修会を開くことにする。
ということで、何人かの先生に講師に来ていただくことを依頼して、快諾いただいた。めでたしめでたし。

まあ、その前にできたら、私も数人FBTをしないとだけど・・・鶏が先か、卵が先か。。。
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投稿者: 西川公平
2020-02-25 01:19
カテゴリー: テクニック

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