なんだかんだと、ついついやっちゃう行動ってありますよね。そういうのを専門用語で「行動嗜癖」と呼んだります。衝動制御障害と呼ばれることもあるのかな。
行動嗜癖についてはwikiとか観てください(丸投げ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%8C%E5%8B%95%E5%97%9C%E7%99%96
嗜癖性ありとされている過剰行動には、ギャンブル、摂食、性交、ポルノ、パソコン、ビデオゲーム、インターネット、エクササイズ、買い物がある(wikiより抜粋
まあ、この行動嗜癖というものは大して薬が効かないので、巡り巡って我々心理士の所に来ることも割とあるのですが、あんまり治療について具体的に書いてあるところもなかったし、誤解や間違いも多いようなので、いっちょ書いてみます。
2019/04/03「レスポンスコスト」と表記していたものはどこかで誰かが曲げちゃったことが分かったので、以後「ホイールへビヤー」と訂正しました
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そもそも、行動療法の世界では、「多すぎて困ってるのか、少なすぎて困ってるのか、どっちだ?」という基本的な問いがあるけれど、行動嗜癖は一見多すぎて困っているように見える。
でも、「その嗜癖行動を取らなかったとしたら、その時間に何をするのか?」という問いかけを重ねれば、何が少なすぎて困っているのかについても、輪郭が見えてくる。
「誤った行動を減らすより、正しい行動を増やせ」ともよく言われることなので、その辺はキチンと抑えておきたい。
さて、認知行動療法は「何にせよ数えましょう」という文化なので、そのような嗜癖行動を、いつ、どこで、どの程度、誰と一緒に、どんな感情や身体感覚とともに、何を考えてしているのかについて、セルフ・モニタリングしてもらうことになる。
このセルフモニタリングというのは、案外強力な介入技法で、要するに”自分の世界だけでやっていた多すぎる行動”の情報を、セラピストという他人と分け合うことになるのですが、”他人の目”があると、それだけで「ちょっと控えめにしておこうかな?」なんてことを思う人も居て、勝手に量が減っちゃうことさえある。
セラピーでは1回目に色々話を聞いた上で、その人にあった形でモニタリング用紙を渡すんだけど、「きいてた話よりもずいぶん少ないですね~」「ちょっと、意識して減らすようにしました」とかいう会話がなされることも、一度や二度ではない。
そして、なにより、その後介入していって、それらの本人が減らしたいと思っている行動が、実際に減ったのかどうかを確認していく上でとても大事。
でも、わりと最近認知行動療法って、本とかネットとかでも書いてあるし、自称オリエンテーションはCBTみたいな人が増えてきてるから、モニタリングまではやっていると思うんよね(モニタリングをやってないとしたら、それは本当になんちゃってCBTの人だと思う)。
で、とりあえずは言われたとおり数えました。さてどうするの?ってところを今日は書いてみたい。
まず、嗜癖行動のTPOデータを観察してみると、結構ダマになっているというか、頻出場所とか、頻出時間帯とか、そーゆーのが見えてくる。これは、2週間分の記録表などの縦横に数字を足すとわかりやすい。
仮に、その嗜癖行動が、“20時に・自室で”起こりやすいとする。
だとすれば、20時に自室でできる、嗜癖行動以外の行動を増やすか、その時間に自室に入らないか、そういった手立てを試みてみることになる。
その際も、モニタリングしていたことは役に立って、いつもなら嗜癖行動に耽っていたはずの時間なのに、あまりしていなかったときは何をしていたのかで、嗜癖に対抗できるような行動のレパートリーが発見できるかもしれない。
さて、次に取り組むことは、嗜癖行動の連鎖を考えること。
どんな行動も、それに先立った行動、更にそれに先立った行動・・・と一連のチェーンのようにつながっている。
メインの困った嗜癖行動のいくつか前に、その嗜癖行動を取るための準備的行動がないでしょうか?探してみましょう。
例えばある人は、顔のニキビを潰しまくるという困った行動を持っていて、よくよくさかのぼって訊いてみると、それらの一連の行動は、「部屋の机の引き出しから手鏡を取り出す」という行動に端を発していた。
一方で、洗面所など別の鏡の前でニキビつぶし行動が出現することはなかった。
そこで、その手鏡を取り去ってしまったところ、そのままニキビつぶし行動は出現しなくなった。
上記に観られるように、行動は連鎖していますし、連鎖の頭を削ると生起しないこともしばしばあります。
過食は買い物に行かないと生起しなかったり、パチンコはATMでお金をおろすこと無く生起しなかったり・・・。
今目の前に食べ物が!パチンコ台が!というまさにその時に制御が効く効かないはさておき、そうでもない時・所で制御不能になるお膳 立てをしてしまっている行動こそを制御できると楽なのだ。
それらは総じて言えば、「アクセスを悪くする≒行動を値上げする」という方法で、私は「ホイールヘビヤー(車輪を重くしていく)」と呼ぶことにした。ちょっと重くしてって回転しにくいぞ!みたいな
その行動を取るコストを値上げするルールを作るのだ。
このアクセスを悪くする方法は、嗜癖行動をなんとかしていくために、頻繁に用いられる。
特に、ある種の嗜癖行動には「快楽」「不快の減少」が伴いますので、それらと釣り合いを取れるほどに車輪を重くしていく≒アクセスを悪くしていく事が必要だ。
例えば、タバコを吸いすぎる行動では、タバコやライターを家中に置いていたりする。
台所にも、ベランダにも、車の中にも、カバンの中にも、ポケットの中にも・・・。
およそ「嗜癖行動を取りたい」と思ったときに、即座にその場で取れるような配置が出来上がっている。
そこで、タバコを置く場所をベランダ1箇所に固定し、その他の場所では吸わないようなセッティングにする。
お菓子を食べすぎちゃうという行動であれば、やはり家中にお菓子が散らばってることがあるので、家中のお菓子を一箇所に集めて、蓋の硬い缶缶に入れ、袋度の中に締まっちゃう。
お菓子を食べたいときは、戸袋から缶を出し、中から1つだけ取り出して、缶の蓋を締め、戸袋に戻し、所定の位置で食べる。
もう1つ食べたくなったら、また同じ動作を繰り返します。
すぐ昼寝しちゃう行動なら、ちゃんとパジャマから着替えて、布団やこたつをきっちりしまう(もしくは布団を干しちゃう)ということになる。
その他何でも、誘惑となる刺激を遠ざけることはできる。
とかく我々は眼の前の誘惑にかられやすいから、そういった誘惑をかけてくるモノを遠ざけることで、「気がついたらお菓子の包み紙がいっぱい」みたいな状態をなくしてくのだ。
また、タバコで言えば1カートンずつ買っていたのも、1箱ずつにし、1箱ずつも最後の1本が無くなるまで買えないセッティングにしたり、買いに行くのを1番近いコンビニではなく、2km離れたタバコ屋さんにしたりと、徐々に車輪を重くしていく。
運動をせずお酒をたくさん飲む困りごとであれば、3000歩あたり1本のビールを飲んでも良いことにしたり、過食をする困りごとであれば、1日分の買い物をレジに通して車に戻って荷物をおいてから、別で過食分を買いに行ってもらったり。
つまり「容易に即時の嗜癖行動が可能」という状態から、「嗜癖行動を行うには、所定のちょっとめんどくさい手続きを踏む必要がある」という状態にセッティングを変える方法なのだ。
新たな連鎖を形成しているとも言えるし、プレマックの法則とも言える。
幾らか面倒な手続きさえ踏めば、本人は自由に嗜癖行動を取れるので、どちらかと言えば流行りのハームリダクションに近い、害を減じようというノリの技法だ。(ハームリダクションが流行ってる自信はない)
「ホイールへビヤー」は、罰を与えるような手続きではない。おやつを奪うとか、トークンを取り去るとか、そういうことはしない。
そういう行為が倫理的に許されるのは、そうでない行為が全て試された後のことであって、かつそれらの与える害より効果が上回ると明らかな時だが、そんなことは滅多にない。
もちろんここに書いたのは、数ある方法のほんの一部に過ぎず、実際のクライアントさんにはアレヤコレヤと工夫をこらすことになる。
それら一連の方法でついやっちゃう行動を減らすことと同時に、それにも増して本人が自分の時間を自分にとっていい方法で使えるようになることを援助していくのが、認知行動療法なのだ。
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関係ないけど、最近は嗜癖行動に「条件反射制御法」とかいう、何度もおまじないを唱えたりする技法を使うと聞きました。
これは従来の行動療法の技法ではないので、なんとも言えないのですが、自己教示による他行動分化強化とでもいうのか、人海戦術みたいなやり方で連合学習を消去しようとしているのか、不思議なやり方ですね。
まあでも、いろんなやり方があっての行動療法なので、良いんじゃないかと思います。
【ゲーム依存について】
http://cbtcenter.jp/blog/?itemid=2178
【性犯罪と認知行動療法】http://cbtcenter.jp/blog/?itemid=804