2007/06/14: 強迫性障害のオリジナリティー

強迫性障害のオリジナリティーについて考察してみた

強迫性障害は強迫観念(強迫念慮)、強迫行為、不快感(汚い感じ、不安、イライラなど)、回避から説明されることが多い。それに加えてトリガーと呼ばれる強迫観念が湧くきっかけがある。

まずトリガーですが、これは何でも良いです。今まで色々な強迫性障害の患者さんと接しましたが、本当にそれぞれ多彩なトリガーを持っています。
たとえば、トイレ、便、地面などは不潔恐怖に多いトリガー。窓やドア、ガスの元栓などは確認恐怖に多いトリガーです。
珍しいところでは、消火栓、電信柱、自転車、爪楊枝、赤ん坊、などをトリガーにしている患者さんに会ったことがあります。何でもOK。
実際のところ、モノそのものがトリガーなのか、シチュエーション(トイレに行く、外出する)がトリガーなのか、微妙なところですが、汎化しててどっちもあるかな。
それゆえ時々シチュエーションを外したモノだけにエクスポーズしてもらうこともある。
例えば、便器が怖い人に、電化製品コーナーのウォシュレットに触りに行ってもらうとかがそれです。便器の怖さは便の怖さに由来するので、一度も用を足されたことのない便器なら大丈夫かというと、ちゃんと不快感が上昇します。
多くの患者さんはこのトリガーそのものをコントロールしようとして、汚いと思うものを全部捨てたり、外出時に最後に出なかったり(回避)しますが、それがすごく生活を不便にさせる。
治療的にいえばトリガーコントロールは強迫性障害を悪化させることはあっても、マシにすることはない。
時々家族にトリガーのコントロールを代執行してもらう人がいるけど、それはもう一段病気を複雑なものにして、結果的に治りを悪くする。

さて強迫観念(強迫念慮)とは繰り返し湧きあがってくる自分を不快な気分にさせる考えの事です。
まあ我々は四六時中あれやこれや雑念が湧いてきているわけですが、ある日それが結構特定のことばかり考えるようになり、かつその考えから特定の不快感が湧きあがってくるようであれば、それが強迫観念です。強迫観念と書いたけど、「特定の事ばかり考えて、特定の不快感が湧く」だけであれば、ウツであれ、パニックであれ、統合失調であれ、それはほとんど全ての精神疾患のことですね。この共通ポイントを「侵入思考」と呼ぼうというムーブメントもあったりする。

じゃあ強迫性障害における「特定の考え」の特徴ってなんだろう・・・?って考えると、「自ら湧いた考えをあほらしいと思う(自我違和感)」ところかな?
いやしかし、これは強迫性障害の人の中でも、微妙。重症の人だと湧いた考えを信じている割合が高いというか、信じている割合が高い人ほど重症だというか、他の病気の人でも自我違和感を持つ人もいれば、持たない人もいるし、これぞ強迫という特徴ではなさそうです。この辺りには強迫性障害のオリジナリティーはないかもしれません。

むしろ特徴は湧きあがった不快感を何とかするためにすること(考えること)であるところの強迫行為の方にあるかな。
繰り返し湧きあがる観念からくる不快感に対して、繰り返し不快でなくすような対抗手段を取り続ける病気が、強迫性障害のオリジナリティーだろうか?

例示すればトイレが汚いという観念に対して手を洗うという行為をひたすらつづけたり、泥棒が怖いという不快感に対してドアを何回も開け閉めすることで対抗手段を取り続ける。頭の中だけでもこれは起こりうる。火事になるイメージがわいた時に、何度もホースで水をかけるイメージをぶつけたり、不吉な数字が思い浮かんだ時に聖なる数字を思い浮かべたり・・・。
こういった「積極的な不快感低減行動」を多く取る事がオリジナリティーかと思ってみたが、それも絶対的なものとは言えない。
まずは強迫性障害の方々も結構な回避行動、つまり「消極的な不安低減行動」をとっている。次に他の疾患の方も結構な「積極的な不快感低減行動」を取っている。
しかしやはり強迫性障害の方々は積極的な不安低減行動の頻度が半端でない。一日に手を300回も洗ったり、鍵を閉めて外出するのに2時間かかったり、となってしまう。極端に多いというところはオリジナルなところだろうと思う。

ということは、この「極端に多くなってしまう」という部分に関連したところが強迫性障害のオリジナリティーの中心に近いところじゃないかなぁ。そのあたりをもう少し発掘してみよう。
極端に多くなってしまう一つの理由は、トリガーが激増することにあると思う。おそらく強迫性障害の人たちはほかの障害の人たちに比べて、似ているトリガーを同じだとみなすクセ(汎化)が強い。
よく汚いものが気になる強迫の人が言うのは、「Aという汚いものに触った手で触ったBというものがあり、そのBに触った手で触ったCというものも汚い」みたいなトリガーの伝染だ。
もちろんうつ病でも、あるいは病気でなくても、そのようなトリガーの伝染はあって、いわゆる「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ではないけれど、嫌な上司のいる部署そのものが嫌になり、会社が嫌になるみたいなことはある。しかしその伝染力には圧倒的な違いがある。

しかし、まてよ?確認強迫においてもそんなにトリガーが増えるだろうか?
うーん、・・・・・・・・・・・・・・
いや、他の疾患に比べてトリガーの増える具合が違うとは思えないな。伝染していくという感じが多いわけでもない。増えていくにせよむしろ全般性不安障害のように、すこしランダムにトリガーが増えていく様な気がする。

洗浄強迫の人はある特定の観念(**が汚い)から出発して、同心円状にトリガーが増えていくような、ある程度統一感のある増え方をしているが、確認強迫の人はそれに比べると症状全体の統一感が薄い。
この辺の違いが治療にも表れているような気がするなぁ・・・。
別の言い方をすれば、トリガーの増え方に関連性の強い強迫症状と、弱い強迫症状があり、関連性が強ければ悪化に際しても治療に際しても汎化しやすく、弱ければしにくい。

だからなんだって話ですね。すみません。
取り立てて結論があるわけでもないです。
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投稿者: 西川公平
2007-06-14 17:36
カテゴリー: 強迫性障害

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