2007/06/14: 治療か害か①

電話相談の話

昔々あるところに電話相談機関がありました。そこで働いていた頃の話を書いてみます。

電話相談には年間1000件ほどの電話がかかってきています。電話の向こう側には様々な物語があり、色々驚かされました。

ところがある日、相談の内訳を調べてみると、年間の総電話件数の25%は、毎日かけてくる特定の3名の方からでした。
後で知ったのですが電話相談界には「頻回通話者」と呼ばれる毎日長時間かけてくる人がいて、その人たちは朝ごはんのメニューから自分で考え付いた哲学まで、様々な事を喋るのが生活の一部になっている人です。困っていようが、いまいが、毎日電話をかける事が日課です。最も長い方は資料で判別できる限り、5年間で1170時間電話をかけていました。

これはなんだろう?と経験の浅い私にはわかりませんでした。電話相談という名目で、誰かの生活時間を1170時間も奪い、その通話料金を奪う事が果たして許されるのか?それはサポートなのか、はたまた害を与えているのか?電話依存を電話相談が解決できるのか?

そこでそれらの数値データを相談機関の上部組織の会議にかけ、「サポートなのか害なのか」検討してもらいました。
会議の結果、「電話相談はあらゆる相談の窓口として広く浅く機能するべきであって、数人の毎日の生活をとても深く受け止めるには向いていない」という結論になりました。このあたりは難しいところではあるんですが、どうやらその方が他の専門機関(精神科)にもかかっているということで、そちらのサポートを期待できそうというのもありました。
そこで、それらの方の電話時間を月に1時間とし、それ以上に関しては面接相談に切り替えるという決定がなされました。

各人にそのように伝えて、規定の時間を過ぎたら電話を切る事は、電話相談員にとってとてもハードな事でした。電話相談員とは基本的に全面的な受け入れを旨とし、電話を切る事には全く不慣れな立場なのです。
ある人は怒ってたくさん怒鳴られ、ある人は終了間際に必ず死にたいとつぶやき、ある人は別の相談電話に鞍替えしました。しかし必ず月に1時間を越えるようであれば面接という枠を守り続けました。

その年の電話相談件数は毎年と同じく約1000件でしたが、相談者の内訳は全く違っていました。つまり継続相談の方が25%減り、新規相談の方が30%増えていました。今まで頻回にかけてこられる方が塞いでいた回線を、多くの人が利用するようになりました。
まあ、そんなことは良いのです。

今でも、毎日電話をかけてくる人の電話を受けない事が本当に良い対応だったか自信がありません。しかしそのまま電話を受け続けていた事が本当に良い対応だとも思いません。
やはり、その電話相談の理念が「広範囲の人に対する一時情報の提供」を目標としていたので、その理念に従うと面接を促して切るしかなかったと思います。

CBTセンターでは電話やメールによる相談は受け付けていません。センターの理念では面接によってのみ相談に乗る事ができるとなっています。
したがって電話やメールは予約にだけ利用できる枠になっています。
相談を求めて電話やメールをかけてこられる方には申し訳無いですが、「相談を受け付けていない」と返事する事にしています。

いずれにせよ「相談に乗るからサポートだ」という事が簡単に言えるわけではなく、むしろ相談に乗り続ける事によって人を害する事もあると、時々感じさせられます。
面接回数500回とか、そういった心理カウンセリングのケースを耳にはさむこともありますが、それは治療しているのか邪魔しているのか、判断に苦しむ回数だと思います。
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投稿者: 西川公平
2007-06-14 15:37
カテゴリー: 雑談

Comments

錦鯉 on 2009/11/11 2009-11-11 19:22

頻回の電話相談は一種のプロセス依存ではないでしょうか。電話から完全に離れるべきでしょうが、問題は相談員に共依存的性格を持つ者が大勢いることです。

gestaltgeseltz on 2010/02/12 2010-02-12 17:49

トートロジックですね

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