こころのお薬が効かないということについて

「私お薬が効かないんです」という方がカウンセリングにいらっしゃる事が良くあります。
可能性としては、

  1. 本当に効かない
  2. 効く薬に出会えていない
  3. 効いているが効果を上手く把握できない
  4. 効果を誤解している
  5. 効果が心理社会的に打ち消されている

のどれかです。
そもそも薬物療法とは何をもって「効いた」もしくは「効いていない」というのでしょうか。ここに記してみます。

1、向精神薬が本当に効かない場合

お薬が効かない方は不運です。おそらく脳の神経細胞のレセプターやネットワークの個人的なユニークさの都合上、効かないのだと思います。
色々な精神疾患において人口の十数%の方にはお薬が効き目を持たない事は現象学的な事実です。
一方で生化学的な事実としてお薬を飲めばその薬剤成分の血中濃度は上がります。しかし我々は薬剤成分の血中濃度を上げるために薬を飲むのではなく、生活を改善するために飲むのですから、それは無意味な事実だと言えます。

ただし「私は薬が効かない!」と言っておられる方の中には、下に書いたような誤解や困ったパターンなどがあります。
それらでは無いということが明らかになり、『真に薬が効かない人』であることが判明するためには、2年ぐらいかかるのではないでしょうか?

2、効く薬に出会えていない

向精神薬の種類は非常に多く、例えば抗ウツ薬でもかなりの種類があります。またそれらの薬をカクテルして効果を出すやり方もあります。
スタンダードなお薬で、スタンダードな戦略を試して効かなかったとしても、さらに色々工夫する方法はあるのです。
そのさじ加減は”患者さんを診断しお薬を選択する”精神科医の技量にかかっています。個人的な技量にはかなりの差があるといってよいでしょう。

しかし患者さんとしても主治医の先生が薬物療法の調節をしやすくするように、生活や気持の中における自分の変化を上手に主治医の先生に伝えて下さい。たいていのドクターは忙しいのですが、きちんと自分の状態を伝えることが、Fitした投薬につながるので、言うべき必要のあることは主張しましょう。

カウンセリングにおいても来談されている人の生活の変化などで、これは主治医に伝える必要があると思ったことは、「その変化は主治医の先生にお伝えください」とアドバイスすることがあります。中でも伝えるべきは、躁転やActingOutなどと、食事睡眠などのライフラインの変化です。

3、効いているが効果を上手く把握できない

こころの困り事は良くなった/悪くなったが目に見えるわけではなく、日々を過ごしていると効いているのかいないのか判別付かない事が多いです。それは薬物療法だけではなく、心理療法においても同じです。
よく「薬はどうせ効いていないと思って、勝手にやめたら悪くなったので、やっぱり効いているんだと思ってちゃんと飲むようにした」と言う方がいますが、確かにそういう可能性はあります(ただしそれは効果の証拠ではなく、急な断薬が離脱症状=悪化を招いただけかもしれません)。

認知行動療法に基づくカウンセリングにおいては初回~2回目ぐらいの段階で心理検査を行い、しばらくしてから同じ心理検査で効果の度合いを確かめながら進みます。そして、そもそも認知行動療法は効いたか効かないか明白な治療法なのです。しかし、薬物療法において同様のチェックをしている良心的な病院は少なく、効果のほどが把握しづらいのです。

なるべく自分で、日記やメモをとるなりして、数カ月単位の自分の変化を記すことで、「効いていますor効いていません。なぜなら飲む前と比べても**や**について改善がないからです」とはっきり言えるようにしましょう。

4、効果を誤解している

向精神薬の効果は、「飲みました⇒ウツ気分が消えてさっぱりしました」の様なものではありません。世の中が便利になってきて、性急になってきたのもあるかもしれませんが「飲めばたちまち解決」のような万金丹の効果を期待していると、そもそもじわじわと効くものなので「この薬は効かない」と誤解してしまいます。

たとえばSRI(神経伝達物質のセロトニンの再取り込みを阻害する薬、いわゆる抗ウツ薬)には「作用遅延」という現象が起こります。
これは飲んでもしばらくの期間(2週間~1ヵ月)何の変化もないという現象です。気の利いた病院ではこの作用遅延についてもインフォームドコンセントしますが、忙しい場合省かれることがあります。この時も「何の変化もない=効かない」という事になって、せっかくの薬物療法を中断することが多いです。

また、薬は気分の乱昇降や考えが切り替えづらいことや眠れない事などなど色々な効果がありますが、主たる作用は『よく眠れ、普通に食べられ、ゆっくり休めて、自分の本来の回復力が高まる』に近いものです。
人間関係が良くなったり、自分の将来の目標がうまれたり、何かの経験や知識や技術を増やすようなことはありません。
「自分の困っている何もかもが薬を飲めば解決する」という期待もまた、大きすぎると言えるでしょう。

5、効果が心理・社会的に打ち消されている

あるサラリーマンが「この頭痛と吐き気を止めてくれたら、もっともっと仕事ができるのに」と言ったそうですが、その方は毎月100時間以上残業していて明らかにオーバーワーク気味でした。薬で作られたかりそめの余裕を、全て”より頑張る”方向に付け足した時、それは効果を心理・社会的に打ち消していることになります。
こころの病気とは「現在の自分と環境の関係において、心身の健康をキープするようふるまうことができない」証拠とも言えますから、薬や休職やカウンセリングを使ってできた余裕は、少し生活を見直し自ら調整を行うことに使って頂けると、困り事は解決に向かいます。

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