2009/08/26: 認知行動療法家、or not

[小堀さんのブログ 私が受けているのは認知行動療法? セラピストを吟味する]のオマージュです。(元記事は無くなりました)

ずいぶん前から「こころの時代」と毎年言われていますが、そう言ったメンタルヘルスや発達障害に関わる言説の流行などで、認知行動療法が結構もてはやされています。

しかし、皆さんご存じのとおり「うちでは認知行動療法をやっています」とホームページに書いているところが実際にやっていることは稀です。
「研修/ワークショップに一回出た事があります。だから集団認知行動療法をやってます」というところは非常に多いです。そういう”にわか”CBTは雨後の筍といった増殖中です。

そういう意味では小堀さんの記事にインスパイアされたので、あれこれ書いてみたいと思います。
記事の定義を解釈するに、胡散臭い人が胡散臭くCBTを名乗る事についての問題提起なのかなと思いましたので、そんな風に書いてみます。

そもそも「認知療法学会」や「行動療法学会」に所属しているかという前提があります。まあ「行動分析学会」や「論理療法学会」も含めて、それらに所属していない人は認知行動療法をまともに習っていない≒していないと考えて問題ないです。

簡単にいえば「前回の学会発表は何学会で演題は何でしたか?」と訊けば、おおよその事は判るかもしれません。
ちなみに私は直近、不安障害学会で「メイド喫茶によるパニック障害治療」というタイトルで発表しているので、訊かれるとちょっと誤解を与えかねないですね。

次に、認知行動療法をすることを証明する資格は日本にないが、行動療法士はある(おそらく論理療法士も)という事ですが、行動療法士を持っているにこしたことはないと思います。

いちおう私も行動療法士です。周りの人にも「取っておくにこしたことはないよ」と伝えています。

日本一有名な民間心理資格に「臨床心理士」というのがありますが、これは認知行動療法とは全く無縁の資格です。
臨床心理士の中で認知行動療法をしている人は、ほぼ居ないと考えて良いでしょう。

ついで小堀先生はこのような設定をされています
1. 専門分野は?(「全ての分野でエキスパート」は存在するのか?)
2. 過去にどのようなトレーニングを受けたか?
3. 現在どのような研修やスーパービジョンを受けているか?

1について言えば、バルセロナで行われたWCBCTでの会話を思い出します。
仲良くなったポーランドの心理士に
「壇上の先生らって**が専門とか言っとるけど、何が専門とかそーゆーのってあるの?」
って聞いたら
「いやー、無いなー。臨床屋さんやし、来た症例皆せんとあかんから、まあどれかに絞れるシステムとかはうちの病院にはないよ〜」
ってな答えが返ってきました。

ぶっちゃけて言えば、認知療法や行動療法に「病名」は存在しません。「認知」と「行動」の定義があるだけです。

よく書籍などにある「**病の認知療法」といううたい文句はただの宣伝であって、本質的な意味はありません。
ゆえに、専門分野として”認知再構成”とか、”曝露反応妨害法”のような、得意なテクニック単位としてはあり得るでしょうが、うつ病が専門とか発達障害が専門とか言われると正直引きます。
それは、「ああ、この人にかかったら普通のパニックとかも発達障害とラベリングされちゃうんだろうな」という偏見的な引き方です。

しかし、専門分野という言い方そのものが認知行動療法らしくないのかなという事も一方で思います。
最近の医療でなされているように、そもそも個別のアウトカムを出せばよいだけの話じゃないでしょうか。

患者さんたちが知りたいのは、「うつ病はCBTで何%治ると言われています」という一般論ではなく「うちでは何%治っています」という話だろうから。
「心筋梗塞は冠動脈バイパスで**%治る」という一般的な治療統計(エビデンス)より、「うちの病院でで冠動脈バイパス手術した場合**%は6年再発せずだけど、**%は死亡する」という個別の治療統計のほうが、情報としてリアルじゃないかな。もちろん一般論(エビデンス)すらないのは厳しいけど。

ちなみにCBTセンターには強迫性障害の患者さんが病院から紹介されて良くいらっしゃいます。企業からはうつ病や適応障害の患者さんが紹介されて良くいらっしゃいます。
いちおう疾患別のアウトカムを出してはいるので、どれぐらいの回数/割合で治ってますか?どれぐらいの患者さんに施術していますか?という疑問には答えられますが、結局どれぐらい意味があるのか・・・。

つまり、50%の強迫性障害の患者さんが4回から15回までの間に寛改していて、70%の強迫性障害の患者さんが4回から37回までの間に寛改している、という回答が、「あなたが治ります」という意味ではないのですから。

2、3、の過去にどのようなトレーニング・研修・スーパービジョンを受けたかについては、やはりそのトレーニング内容を聴いてそれがまともなのかまともでないのかは、患者さんに判断しかねるのではないでしょうか。
例えば産業カウンセラーのトレーニングは100%ロジャース式カウンセリングを学びますが、そこではロジャース式のカウンセリングが基礎であり極意であるという教え方なので、ロジャース式としてはまともなトレーニングである可能性があるものの、ロジャース式ではないカウンセリングからしてはまともなトレーニングにはなりません。
それがカウンセリングを受ける人にとって、判断可能な事でしょうか?

また、小堀先生は
「若い/経験が少ないことは、必ずしも大きな問題ではないことを指摘しています。資格をとったばかりのセラピストは、熱心で、最新の情報に通じており、スーパービジョンを受ける頻度が高い可能性があるからです。」
と書いておられますが、このことは少し疑問です。というより認知行動療法的ではないです。
なぜなら、認知行動療法的に言えば、若い/経験が少ないCBTセラピストと、年いった/経験を積んだCBTセラピストのアウトカムに差が無いという事が証明されていなければいけないからです。

ちなみに、私がやった独自の研究では、残念な事に経年によってアウトカムが良くなる傾向が示唆されました。それは”ドロップアウトの減少”という形で現れていましたし、その結果は妥当なところだと思います。
まあでも、若いという事が最大の問題かと言われると、それほどの問題でもないかな。セッションが多少増えたり、紆余曲折が多少増えたりするものの、おおよそ認知行動療法であれば良くなったかならないかの判断は他の治療法よりマシに判りやすいです。

もう少し言えば、若かろうが年いっていようが、そもそもCBTを施術する人が少なすぎて、選んでいる余地が無いというのも日本の現状かもしれません。

続いて
4. セッションを開始するときに、アジェンダを設定しようとする
5. 取り組みやすい宿題が出る
6. セッションを録音するよう勧めてくる/家族の陪席を勧めてくる
7. 問題がどう維持されているか、図を書いて説明してくれる
とあるが、これらは必要条件のうちのひとつであったりなかったりするものの、十分条件ではないかなと思います。
つまり、「もしアジェンダの設定/判りやすい宿題が無かったらそれは決してCBTと言わない」ほどのものではない。

最後に
8. セラピストを理解・尊敬・信頼できる
9. セラピストから理解・尊敬・信頼されている
とあるが、このあたりの話はCBTでは扱いづらい。むしろ精神分析の方が詳しいと思う。

もっと端的にいえば、カウンセリングの初回で
「こういうセッションに意味があるのかどうか少しピンと来ないけれど、まだ私の方が分かっていないからかもしれないから、とりあえず何回か来て様子を見よう」
と患者さんが思ったとしたら、残念な事にそのカウンセリングは外れです。
もちろん「こんなカウンセリングに意味はないな」と思ったら、アウトなわけですが。

意味があるかどうかわからない事にお金や時間を使うのはもったいない事です。たいていの患者さんはものすごく我慢強いけど。

ついでに、かのロジャース先生は「このカウンセリングは意味が無いと思う」という事を患者さんに直接正直におっしゃったという逸話があるが、そのように自己一致するのはなかなか難しいことだと思います。
投稿者: 西川公平
2009-08-26 08:58
カテゴリー: 開業カウンセラー

Comments

横山 on 2009/08/27 2009-08-27 17:45

ご無沙汰しております。産業カウンセラー、精神保健福祉士の横山です。

非常に興味深く拝見しました。さすが説得力があるなぁと感心しました。
EAPカウンセラーの私としては、まだまだ研鑽が足りないと改めて自覚した次第です。

あと、小堀先生の設定(1〜7)について、これは小堀先生の考えなのか、サルコフスキス教授の説なのか、小堀先生のブログを読んでも私にはちょっとわからなかったので、少し気になりました。

また、勉強会に参加させていただきたいと思いますので、よろしくお願い致します。

gestaltgeseltz on 2009/08/28 2009-08-28 01:12

>横山さん
ご無沙汰しています。EAPのカウンセラーは会社の組織に介入するという、それはそれでCBTに無い技術を研鑽されているでしょうから、謙遜される事はないと思います。

サルコフスキス教授の説か小堀さんの説かはわかりませんが、セラピストが熟達者であるかどうかについて二人が興味を持って研究対象としている事は事実です。

また勉強会にいらしてください

takashi on 2009/08/29 2009-08-29 02:15

文献ははっきりと示せないですが----ある研究では、
経年別性別の治療効果に関して、ベテランの男性
カウンセラーよりも新人の女性カウンセラーの方が
高いという結果が出たそうです。

gestaltgeseltz on 2009/08/29 2009-08-29 09:52

>takashiさん
わたしも適当な事を書きましたが、まあいずれにせよ個別のアウトカムが出てなさすぎで、十分に治療者を選択できる余地はないですね

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