2009/06/15: 続 ツレがウツになりまして

じゃあ、実際のところツレがウツになったとしたら、どうするかについて

原田泰三の演技力はなかなかなものだという評判を聞いたけど、結局のところドラマは全然見られていない。残念なことです。

しかし職業柄か、何かの折に「ツレがウツなんだけど・・・どうしたらいいでしょうか?」などと言う相談を受ける事がままあります。

例えば研修・講演の後で、コソコソっと前に来て相談されたり、会社の人事の人に個人的に相談されたり、仕事と関係ない知り合いに相談されたりetc.

そんな時には、時間があればこんな風にお伝えしています。

その前に2つの質問があります。
「そのウツというのは専門医に診断されている話?」
「ツレとあなたの関係は?」

もし、「ウツだと素人判断している」ということであれば、専門医にかかってくださいと伝えています。

「じゃあ、どういう状態になったら専門医を薦めたらよいのか?」
などと質問を重ねられますが、それは「そうかもしれないと疑ったら、即」なので、私に質問をしている時点で既に薦めて良い事になります。


次にツレとあなたの関係ですが、・・・
これが家族や恋人なのか、あるいは友達や同僚なのかで結構対応は変わります。
対人関係療法における「重要な他者」と「そうでもない他者」の違いです。

いずれにせよ大切な事は、その他人を構う時間を確保することと、限界設定する事です。
そういう意味では重要・重要でないいずれにせよコンセプトは同じなんだけど、量的/質的に違うと言った方が良さそうです。

もしそのウツになったツレが重要な他者の場合、それなりに時間や気持ちやお金をかけて、それでいてクールに対応するように勧めています。

その人がしていた家事分担や収入を稼ぐことなどをある程度肩代わりする覚悟も必要です。
それも2〜3年ぐらいの長期戦で考えておいた方が無難なところでしょう。

単純に考えて、他の身体疾患などでダウンしているのと同じなんですけどね。

それでいてクールに、という逆の事をしなければならないのです。

ウツの家族の話を延々と聞き続けたり、気持ちによりそったり、etc.そういった無限の介助はやめましょう。
どこかにリミットセッティングしなければならないのです。前述のように少なくとも2〜3年ぐらい継続可能な事でなければなりません。
例をあげれば、毎晩2時間グチを聴き続ける事は、2〜3年継続可能ではありません。

一つの線引きは、
「そのようにツレをかまったとしても何とか自分の健康をキープできるぐらい」
です。

なぜならウツのツレの生活を支えられるのは、自身の健全な社会機能(稼いだり、家事したり)であって、それが損なわれてしまえばミイラ取りがミイラになるからです。

もしそのウツになったツレがそんなに重要でない他者の場合、できるだけクールに対応するように勧めています。

その人に”たくさん関わったから良くなる”とか、”あまり関わらないから良くならない”とか、自分の対応と相手の病状の間に関係性を見出さないように割り切ることが大切です。

基本的には他人なので、自分にとって苦痛になったり重荷になったりしない関係作りが重要です。

逆にいえば最初のうち一生懸命関わり過ぎて、結局回復しないから「もう勝手にしろ!」と切り捨てるのが、もっとも最悪のパターンです。
そんな事をするぐらいなら最初からかかわらない方がいいでしょう。

結局、こちらの場合も関わりの限界設定が必要です。
例えば
「返事が返ってこようがこまいが、週一回水曜の晩にメールを5行ぐらい送る」
とか、
「毎日少なくとも行き帰りにあいさつする」
とか、どんなものでも構いません。そのような関わりを細々と続けておくと、治療などで本人の病気が良くなり出したときに、また関係を増やせるかもしれません。
長期のウツでツレとの関係が失われるという事は結構あるのです。
そしてその切ない断絶で、せっかく病状が回復してきても、再発を防いでくれるかもしれないソーシャルネットワークが枯渇してて、残念な感じなのです。

いずれにせよ「友人がたくさん関わることで、うつ病が良くなる」ことは基本的にありません。
これはBeFriendingと呼ばれるウツへの関わり方がそれほど効果を持っていないというエビデンスからそう言えます。

逆に関わり過ぎて、抱え込みすぎることで、害が出てきます。

それはきちんとした専門家にかかって治療を受ける機会を失うことです。
友人が支え過ぎている人ほど、正規の治療の機会が失われてしまいます。

「すごく面倒を見過ぎ」ていて、「夜中でもなんでも駆けつけ」て、「3時間ぐらい愚痴を聴いて」て・・・etc.

それでいて
「本人に病院に行ってみたら?と薦めるんだけど、なかなか行こうとしないんです。本当に困っています」
という人がいたら、残念な事にまさにその人が医者にかかる邪魔をしているのです。
「そうやって面倒を見過ぎるから病院に行く必要性が発生しないんだろうな」という事になってしまいます。
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投稿者: 西川公平
2009-06-15 08:42
カテゴリー: 雑談

Comments

こぼり on 2009/06/17 2009-06-17 03:31

ヒマなことが多いので、「ツレがウツになりまして」欠かさず(ネットで)見ています。医療監修は野村総一郎先生のようです。初診から患者にタメ口の(敬語を使わない)精神科医が登場してましたが、そういうのって珍しくないんでしょうかね。

ツレといえば、OCDのツレ(carer)を対象とした研究も進めています。特に、どのくらい/どうして再保証を与えてしまうのかという点について調べています。日英比較もできそうなので、楽しみです。

gestaltgeseltz on 2009/06/17 2009-06-17 12:53

>こぼりさん
ネットで見られるんですね。私も探してみてみます。

OCDの方のパートナーの方がどうして再保証してしまうのかというのは難しい話ですが、皆さん意外とすんなり保証を与えるというよりは、
「もうそんな事はわかってるだろう」、「いい加減にしないか」などと散々ケチってから保証している雰囲気があって、それがますます変動比率の強化になっているのではないかと思います。

まあでも、強迫の場合ほとんど必ず家族教育を入れますので、その内容でも記事を書いてみたいと思います。

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