2017/02/02: うつ病治療における流暢性と反応潜時

うつ病が良くなってきても、割と回復はまだらなことがあります。例えば、頭は回るようになっても、体がついてこないことがあったり、気分は上々だが何をしていいかアイデアが案出できないことがあったり。

認知行動療法がうつ病のリハビリとして優れているのは、そういった一部弱い部分をサポートする感じに課題を出せることで、要するに松葉杖みたいなものです。

さて、今回は、流暢性や反応潜時の話。
どこかに似たようなこと書いたかもしれないけど忘れました。





「流暢性や反応潜時」って、あんまり耳慣れない言葉でしょうが、要するにできている(する意欲があるし、する技術があるし、実際できている)けど、”スムーズに”できないとか、”やたらと時間がかかる”とか、そういう件に関してです。

うつ病になると、その病気の症状として、日常生活や業務における行動や言動の流暢性が損なわれるし、反応潜時は延長する。それはまあ当然のことです。我々治療者はうつ病から回復において、他の部分の回復と併せて、流暢性も回復してくることを楽天的に期待してます。
もっとありていに言えば、億劫でなかなか取り組めなかったのが、すっと取り組めるようになれば、うつから回復してきたんだなあと思います。

しかし、まあ、前述のとおり回復が均一だという保証もないので、たまたまこの流暢性の部分が足並みを乱しちゃっているという事はあります。しばしばあるわけではないが、たまにある程度。

そんな時は、流暢性トレーニングというか、反応潜時短縮トレーニングというか、そういうリハビリを行うことになります。

ここで出てくるのは、Guthrieという古き新行動主義者の唱えた、「近接性(contiguity)の法則」という、もうホコリ被って一周してる概念。
色々大事なところを略すと、「学習ってのは、近けりゃ成り立つんだよ」っていう法則。

例えばここに、母親が「朝だよ」と言っても、なかなか起きない(つまり流暢でない/起床行動の反応潜時が長い)学生がいるとします。
ここで作りたいのは、母「朝だよ」←限りなく即時→子「起きる」という一連の行動連鎖です。

練習は超シンプルで、家に帰って、子供に布団に入ってもらい、母親に「朝だよ」と言ってもらい、その言葉が終わるや否や子供に飛び起きてもらいます。それだけ。
まあ、Guthrienからすれば、「学習なんて一発で成立するし、繰り返し練習も不要」となるのでしょうが、私は念のために「4,5回練習するように」ともっともらしく親子に言ってみました。

ちなみにSkinnerianがアホなのは、この飛び起き訓練の後で母からの報酬(「起きたね、えらいね、はいチョコ」など)が学習成立に必要とかのたまう所であって、そんなの要る訳がない。こちとらGuthrie上等ですよ。

指示を受けた親子は家に帰って、飛び起き訓練をした。ふざけて3回はしたらしい。

その翌朝から起床における反応潜時の平均は、約半分(70分→36分)ですよ。Guthrie上等ですよ。近接万歳。

あの、誤解がないように書くと、鬱で起きれない人には猫も杓子もそうしろって話じゃないですよ。他は割と回復しているにもかかわらず、そこだけポッコリ回復が遅れてたので、そこだけサクッと回復促したって話です。

まあそんなのはさておき、要するに言いたかったことは、うつ病で一時的に損なわれる能力の中には、流暢性もあって、その回復が遅れてるとなれば、リハビリも辞さずってことなのです。

CBTセンターには、こういった反応潜時系トラブルに対するコラムが、まあ、ちょこっとだけあり、んー、たまに・・・使うかなーって感じです。WEBにupするにはマイナーすぎるコラムだと思います。


どこかで似たような話書いたと思って探したら、昔の学会参加記の一番下の方で、津川先生のブリーフセラピーの症例に関する連合形成における時空間的接近で書いてました。
意外とまあまあ昔からのGuthrienファンだったという事で。
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投稿者: 西川公平
2017-02-02 20:38
カテゴリー: うつ・躁うつ病

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