2016/10/24: 旧行動療法学会2016参加記 西川


今年も旧行動療法学会に参加してきました。徳島は古巣でもあるので、行くのが楽しみでもありました。

幾つか想定できてなかったことの一つに、来年2月に福井県で開催される旧行動療法コロキウムのホームページ&チラシ作りがあった。これは、たまたま近所に住んでいるし、主催の嶺南こころの病院の皆さんにも日ごろ大層お世話になっているし、まーしゃーないで引き受けたのだ。

私はホームページやチラシを作るとなると、それなりに凝ってしまう器用貧乏なところがあるので、思いの外たくさんの時間を食った。まあでも、なんとか無事に学会までに完成できてよかった。

アウトカムの学会発表をここしばらくの学会発表のネタとしている私としては、すごくたくさんのデータ入力&処理が発生していたが、それらも全てこの制作作業の完成まで後回しにされており、実際の処理が完遂したのは発表前日ということになった。まあ前日までバタバタなのはいつものことのように思うけれど、ちょっと程度がひどかった。


もう一つは私事で学会三日間の中二日に抜けなければいけないということだった。せっかく自主シンポを頼まれる栄誉をいただいたのに、スタッフに代行を頼む羽目になり、残念だった。


そんな二つの想定外などなどがあり、今年度はスタッフの学会発表に対するいつものマイクロマネジメントを辞めてみた。つまりスタッフの発表に事前ケチをつける行動を、去年までに比べて1/100ぐらいしかしなかった。なので、今回のスタッフの発表は、まあまあ自力と言える。


さて、迎えた学会当日。土曜朝一9:20からアウトカム自主シンポ発表で、裏番組は全部ワークショップというこれまでにない陣容だった。朝の9時ごろ到着すると、受付に長蛇の列。これは、ワークショップ参加者も間に合わなければ、私も間に合わないな・・・と思っていると、大会事務局の先生が来て、バックドアから通してくれるという、朝一発表の意外な役得があった。

ちなみに、今大会のワークショップは、ワークショップに申し込んでから、ずいぶん後でプログラムとかぶっていることが判明するという中々鬼畜な仕様になっているので、私も一つ申し込んでいたプログラムに参加できなかった。

そんなわけで、アウトカム自主シンポ。予想外に朝から結構な人が集まってきてくれている。幾らか立ち見が出るほどと言いたいが、空いている席もそれなりにあるぐらい。

アウトカムの自主シンポは今年で2回目で、去年はCBTセンターだけでやったけど、今年は開業三施設(CBTセンターと、さくら新潟、北海道のこころsofa)で合同開催した。三施設集まると、そこそこのNが稼げるので、前年度はできなかったような分析も可能なのだ。  

まあこれだと仲良しシンポジウムと言われかねないので、全然関係ない社会学者で、社会機能尺度を作成した作者でもある大阪大学の井出先生にも指定討論いただくという布陣だった。

第一シンポジストは北海道の太田先生。不登校児童・生徒の再登校についてのアウトカムについて発表される。個人的には関係有り無しの「反復測定二要因分散分析」がクールだった。
結論の一つとして「来談までの日数が長いと、復学までの回数は多い」という、まあ妥当なところが示されていた。

精神病未治療期間(Duration of Untreated Psychosis: DUP)という概念は、おそらく精神疾患に対する薬物療法の話なんだろうけど、もう少し普遍的に頑健な話だと思う。
もう一つ書かれていた結論「小中学生の来談までは長い」というのは、まあ前もってSCが長引かせてるしねと思ったけど、それは仕方のないことだ。


第二シンポジストはさくら新潟の小林先生、関根先生。さくら新潟は来年の学会の片棒を担ぐということで、宣伝にも余念がない。
「強迫症の治療についてのアウトカムを発表される。CBTの開業ともなれば強迫はたくさん来るだろうとやってみたが、意外と施設差あるんだねとビックリした、そういや。
分析の結果からも、それぞれの施設に来ている強迫の方々の重症度なんかにも若干の差がありそうで、同じ強迫でも地域差あるなーと思った。
まあ、いずれにしても、強迫の重症度も、社会機能も回復しているということでめでたい事でした。


第三はCBTセンターで私が「復職支援」に関するアウトカム発表でした。手前味噌で言えば、Coxハザード回帰分析をやってみいという夢がかなったのが良かったです。
認知行動療法の学会ではあまりお目にかからない分析だけど、生存曲線は直感的でわかりやすいので、描けて良かったです。
主だった結論を書くと「60%-80%ぐらいの方が復職に成功していた」、「うつ症状の重症度、社会機能ともに改善していた」「76%の人が1年以内に復職しており、それには初回の社会機能がわずかに寄与していた。」というのがチャームポイントでした。

まあ、限界を書くと、ここではDUPを「休職してからCBTにかかるまでの期間」と無理定義しているけど、本当は「発病してからCBTまでの期間」を取らないと、れっきとしたDUPと言えない (薬物療法はなかったことにして) 。
でもよく考えるとCBTセンターでは発病時期についても尋ねているので、いつかちゃんとしたDUPでデータを書き出しなおすのもいいかもしれない。

アウトカムの入力は、結構大変というか、正規の仕事外にしなければいけないわけで、つまり残業なわけで、つまり睡眠時間が削られちゃうわけで、いやー死ねるわって感じ。

でもまあ、なんというか、我々臨床家は他人の論文の、下手したら孫引きみたいなデータしか持ってないから、「これ我々のデータなのです」と言えるものがあるというのは結構貴重かもしれない。

それぞれのアウトカムデータは、各施設でも載ると思うけれど、うちでもホームページに開示することになっているので、しばしお待ちを。
さらに遠い未来の話、気が向いたら論文にするっていう話も無きにしも非ずなんで、首をキリンにしていてください。

指定討論は社会学の見知らぬ先生を呼んで話してもらったんだけど、うーん・・・自分の尺度の説明して終わった。指定討論というのは、社会学では自分の尺度の説明をする役割らしい。ところ変われば品変わるもんだ。


それが終わって、ちょっと休憩したのち、次は3時間ワークショップ講師。今回は滋賀県精神医療センターの稲垣先生とタッグで「ロールプレイで学ぶ、認知行動療法における見立てと手立ての橋渡し」というワークショップを行った。

本当は違うタイトルの違うワークショップになる筈だったんだけど、中継ぎしたアンポンタンの連絡ミスでその実こうなりました。でもまあ、ロールプレイだし、事前に準備する資料も少なかったので、それは過密スケジュールに楽だったと言える。

部屋に入ると、事前に指示していた通り、三人一組の椅子席になっている・・・ただし背中合わせに!
これは、少人数で椅子取りゲームをさせるという?まさか!
フロアの人に「ないわー」って言ったら、「ですよねー」って急ぎ変更してくれた。

さらに、皆さんに配る事後アンケートを作成するのもすっかり忘れていたので、アシスタント経由で事務局に頼むと、きびきび用意してくれる。
いやー、働き者だなー、助かるわー。
稲垣先生と事前に相談して、「配布資料はお互い6枚(表紙含む)」としていたので、このワークショップはA4にして1枚裏表という、かつてない薄いお土産になる筈だったのだが、なんか見てみたらノートとかついてて、結局A3裏表ぐらいの分量になってた。事務局は多分「マジで?薄くね?」とか思って、水増ししたに違いない。


それはさておき、いよいよスタート。おー、結構人が集まってるなー。知ってる人もいるけど、知らん人もいる。知っている人は当てるなどしてイジ(め)ることにしよう。

ワークショップ開始して、まずは、稲垣先生がいつものようにしゃべりたいことを喋る。私も負けじとしゃべりたいことを喋る。これは前座なので、あとのロールプレイとは別に関係あるような、無いような、どうでもいいような、そうでもないような、内容。

その後は、事前に集めていた質問について回答するってコーナー。
質問に回答コーナーだから油断してそうな知り合いに、ビシバシ当てて、いい感じに回答してもらう。講師に事前に投げたはずの質問を、まさかフロアが答えさせられるという鬼展開に、私はホクホクする。
しかしこれが意外と曲者で、今回はいつになく事前質問が集まってしまい、結構なボリュームで時間を取られた。お楽しみもそこそこに、後半はサクサクと巻きで講師が回答して処理。私も稲垣先生もぶった切るのは苦手じゃないので。


さて、皆さんお待ちかねのロールプレイコーナー。三人一組が真価を発揮する時が来た。
いやー、皆熱心にロールプレイしているなー。
あそこの模擬患者上手そうだな〜臨床も上手そうだな〜(ちなみに講師はそんなに忙しくない、むしろ暇です)


そんな時を経て、皆さんお待ちかねの模擬面接コーナー。
このコーナーでは前でやってもいいよという方に患者さんをやってもらいます。
前でセラピストをするのは、もちろんフロアの皆さん。くじ引きです。

こーゆー時、セラピストやってくれる人を選ぼうとか当てようとかすると、皆が一斉に床の模様に興味を掻き立てられだすのだが、くじ引きは違う。
くじを一心に見つめて皆の心はひとつと言える。

「どこどこからお越しの—・・・・・(間)・・・・誰誰さん!」と宣言すると、皆うれしそうに?前に出てきてセラピスト役をしてくれる。
そして、流れが悪いと「チェンジ!」という掛け声で解放される。

もうみんな、「チェンジ」が欲しくて流し目を送ってくるぐらいの勢いですが、私って非言語に詳しくないので、時々見逃しちゃう。
何というリフレイミング。


何番目かに選ばれた誰かが、上手く収束させれば、おめでとう、そこで終了です。


むむむ、なかなか収束しない。そんなときは、出番だ「稲垣先生よろしくお願いします」
おお、なんて普通の心理教育だろう、と無事終息したりもした。
終わった後、「普通や」と思わず言ってしまったぐらい。いやー、見せ場も作れたし、最初に述べていた能書きとも自己一致するし、バッチリだなー。

そんなわけで、全力で遊びぬけたワークショップでしたが、時間の都合で最後ちょろっと私が模擬面接するシーンもあった。
むむむ、無念。
だいたい全部ボトムアップでやっちゃおうと思ってたのになー。
まあでも、そんなに全部は上手くいかないのが定めってものさー。


ふう、終了。


講師というのはどちらかというと陽な感じなので、普段陰気で無口な私が無理にテンションを上げると、どっと疲れる。


適当に休憩して、行動療法士限定の研修会に参加。
上地明彦先生という、どちらかと言えばブリーフ、催眠、NLP寄りの言語心理学・心身言語論を専門とされる先生の講義とワークショップ。講義はそんなでもないけど、ワークはなかなか面白い。
言語やイメージが身体に与える影響についてあれこれと示唆に富んだ研修でした。

事例報告があって、質疑応答があっての際に、フロアがしーんとしている。こういう時にしーんとするのって、「我々の流儀でないから分かりませんし意見もありません」みたいな、せっかくわざわざアウェイに来て話してもらっている先生に対して失礼に思う。
そんなわけで、予定調和的にバリっとディスる。

研修を終えて、上地先生たちとの飲み会に行って言語的変態話をしたかったけれど、自主シンポ&ワークショップの打ち上げを主催しているので無理だった。残念。

まあしかし、打ち上げは大いに盛り上がる。アウトカムの入力地獄が熱かった分、打ち上げもひとしおだ。
ワークショップで配った感想を講師と読み合う。おおむね好意的な感じの感想。
私の最後10分でやった模擬面接への言及が多いが、最後の10分でそれまでの2時間50分が払拭されてしまうってのも、ドラマティックと言えばそうかもしれないが、ワークショップとしてはどうなんだろうと思う。次こそはフロアで全部を締めくくってもらいたい。


仲良い人たちでのんびり飲み食いしながら、社会機能の対人関係とはすなわち「リア充度合い」のことだということになり、それぞれの非リア充度合いを暴露し合う。しかし、疲れ果てたな、ということで岐路に足が向かないまま、時が過ぎ、24時手前ぐらいで解散して、滋賀に帰る。

帰りがやばいぐらいに大雨で、高速道路におけるhydroplaning現象がなかなかヒヤッとした。

さて、所用を終えて、再び徳島へ戻り、懇親会に参加と思いきや、スタッフの発表の手直しに手間取る。
まあ何とか終えて懇親会。徳島大学電気電子の連が来てくれて、阿波踊りを踊ってくれる。
徳島ゆかりの先生方が舞台のそでにいるので、踊りに乱入するのを今か今かと待っているが、入らずに終わってがっかり。

懇親会ではコロキウムin小浜の宣伝などして過ごす。
懇親会の二次会には、思いもかけず絶滅危惧種パブロビアンの澤先生が来ていたので、うざく絡みに行く。澤先生がアウェイである臨床(応用)学会に飛び込むようになった経緯などを聞き、我々の臨床活動を連合学習というタームで説明することが可能かどうかについてディスカッションする。まあ説明なんかは祖先の祟りででも狐憑きででも説明できるけど、それが何か役に立ちようがあるのかが難しい所ですね。

臨床家の臨床行動にあらゆるセンサーを付けて、Good Therapistとそうでないものとのギャップを取る研究についても言及されていたが、その差が出たところで特にそれをどうするということもできない気がする。
例えば私がクライアントさんの発話リズムとトーンに合わせて発話を合わせたりズラしたり、意味に応じて適宜調節していたとして、そんなことが別の誰かにも参考になって意図的に可能かどうかも良く判らない。


そんなこんなで2日目の夜が終わり、3日目の学会。
朝からスタッフのケーススタディーに参加。ちょっと遅れていったら、立ち見でビッシリという状態で、本当に開いている席がない。
いや、本当にないか探してみたところ、一つだけ、座長の隣が開いていたので、スススっと一番前まで行ってちゃっかり座ることにする。
私は幾らかコロキウムのホームページの手直しをしない内職があるから、立ち見は厳しいのだ。

栗原さんはそれなりに落ち着いて発表されて、質疑の時間。
コメントしていたけれどまるで直っていなかったので、理解できなかったのであろう「違和感」の扱いについて質問する。
違和感は「感」ってついてるけど感覚や感情ではなく、認知に過ぎない。それなりにウケてよかった。


さて、続いて自主シンポ11「連合学習理論の展開と臨床との接点 国里愛彦・澤幸祐」に参加。連合学習理論の発展と展開や行動分析の限界について、基礎心理学の立場からの提言を聞く。なかなか勉強になって面白い。
学ぶことは確かにFunnyだが、連合学習について学ぶことが、果たして何らか臨床家にとってメリットがあるだろうか?
それは実験してみるしかない。
幸いにして臨床家は連合学習理論についての知識は皆無に等しい。
100人の臨床家を集めて50人に連合学習理論の授業を聴かせ、もう50人には桂枝雀の落語を聴かせる。
それぞれ10時間聴かせたところで、それ以前に比べてアウトカムが向上したかどうかを調べる。
んー、向上しないだろうなあ。

その後は、行動療法士企画シンポジウム「日常臨床におけるケースフォーミュレーションと介入の整合性―さまざまな認知・行動的視点からの検討―」というものに参加してみる。ここでもスタッフの岡村が発表をしている。
このシンポに出すにあたって、西川は岡村にコメントすることを禁じられていたので、何というか、どうなることなんだろうと思っていた。

まあ、特に何ということもなく、発表者と司会の力量が掛け合わされる形で、子供のお遊びみたいな時間が過ぎる。内容が薄すぎて退屈だけれども、幸いにして仕事はいっぱいある。
司会者から「岡村さんが傷つかない程度の」という付帯条件付きで、フロアとのディスカッションがあるが、そんな条件のコメントを一つも思いつかないので、静かに仕事を続ける。

いやはや、仕事が進んで有意義だったなーと思っていると、後ろの方の席の若い心理士さんたちが「岡島先生の名司会っぷりがスゴイ。コメンテーターのそれぞれ先生方の理論を理解してさらに的確に降っている。なんて、カッコイイんだ」という憧れと尊敬の感想が述べられていて、なかなかに驚きもしたし、人間の感情を作るのは状況そのものではなく認知なんだなぁと感心もした。

また私がコメントをしようがしまいが、このようなモノな発表やディスカッションとして学会で受け入れられているからには、もう別に何も意見を述べる必要がない気がしたので、来年の新潟の学会は行かないことにしようと思った。

全てのプログラムが終わったので、後は北海道の人々と来年のCBTケースキャンプについての打ち合わせを行い、のんびり徳島を観光して帰りました。

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投稿者: 西川公平
2016-10-24 15:15

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