2016/10/13: 日本認知・行動療法学会2016 参加記 別司

2016年10月8日〜10日、徳島県で開催された日本認知・行動療法学会、第42回大会に参加してきました。

<1日目>
●自主シンポ1 「多施設開業カウンセリングルームにおける、認知行動療法のアウトカム比較-認知行動療法におけるアウトカム開示−」
 個人的に1番印象深かったのは、太田先滋春生(こころsofa)の発表で、アウトカムを出して何を学んだか&今後の展望を、ぽわわんと佇みながらもクリアに話されました。
 指定討論者には井出草平先生(大阪大学)、指標の1つに使った社会的機能尺度思春期・青年期版SFS-AYの制作者を招聘。これが算出するのはSOFASのスコアで、「GAFは精神症状と社会的機能のどちらかより重篤なほうを採用するもので、その社会的機能だけを抽出したのがSOFAS」らしい。で、そろそろ指定討論者的コメントをと思ったら…お話終了。あらん。


●ワークショップ12 「発達障害児の保護者・教師のための行動療法」
 講師は嶋崎まゆみ先生(兵庫教育大学)、北海道医療大学の院生さんも参加していました。先生はペアトレを長年実施されているとのことで、ABAを平易な日本語で翻訳くださり、この資料は宝です。また、療育で目指したいのは1対1対応のパターン化した反応ではなく、ドロドロした部分も残した人間らしい育ち、と。示してくださった事例がまた絶品でした。福井で研修をお願いしたいです。


●行動療法士のみ参加可の行動療法士限定研修
 「言語の構造と機能を理解することで、何が可能になるか?」、講師は上地明彦先生(関西外語大学、専門は言語学)でした。言語学の講義は難解でさっぱりでしたが、体を使った自動詞「私は立っている」と他動詞「私は大地に立たされている」のワークを試すと、その違いが歴然で驚きました。これは使える!


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<2日目>
●ケーススタディ2 「習慣化した過食嘔吐への行動療法−“マイルール”への挑戦と調整ー」
発表者は木内彩乃(CBTセンター)、座長兼司会は原井宏明先生(なごやメンタルクリニック)。朝一なのに、後ろまで寿司詰め状態で辛い。。原井先生がよければ前のほうへ〜と丁寧にアナウンスしてくださり、お言葉に甘えてズカズカ進む。
お陰さまで場が安定し、質問トップバッター岡本さん(長浜日赤)、横光さん(北海道医療大院生?)、近藤さん(岐阜医大)と、次々質問が出て盛り上がりました。私は中庸がないCLとその特徴をコメントしたものの、結局何をコントロールしようとしているケースか最後まで分からずいたら…、最後に原井先生が座長としてズバリコメントされて眼から鱗。大事な視点をもらいました。


 会場を抜けて、神村先生、鈴木先生、宮秋先生と昼食へ。川辺の小さなラーメン屋「一福」を探し当て、徳島ラーメンのあっさり系を堪能しました。昼からは拝聴したいものばかりでしたが、嶋崎先生の講義を受けて自分のスライドの文言を編集したくなり、休憩所へこもる。


●自主シンポ6、不安症のエクスポージャー療法−安全確保行動に対するアプローチに焦点をあてて-社交不安(症)に対する認知行動療法の実際
 荒井先生(同志社大学大学院博士課程)が企画者で、伊藤理沙先生(早稲田大学大学院博士課程)が実験研究、金井嘉宏先生(東北学院大学)が調査研究、私が臨床の立場から報告し、指定討論は坂井先生(中京大学)。
 私の順が来て演題に立つと…私の身長ではスポットライトが目に直撃してステージの一寸先は闇と化し、じーと耳を澄まして自分の声と対話していました。司会の伊藤先生がフロアーに質問を振るのを見て、“誰と話してんの?”と面白かったです。さらに全体の質疑応答ては、全体に伝えなきゃといつもの安全確保で過剰に詰め込んでしまった。誤解されること・サービス漏れの回避の機能か。終わる数分前になってようやく暗闇に眼が慣れました。もしや、ずっと解離していたのか。。他の先生も前全く見えんと言ってたようだけど。とにかく、これからは1つ聞かれたら1つだけ応えることにします。


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<3日目>
●ケーススタディ5「コミュニケーションを苦手とする20代男性に対する認知行動療法ー積極的回避に焦点を当てた介入ー」
 発表者は栗原愛(CBTセンター)、座長兼司会は大野裕史先生(兵庫教育大学)、朝からこちらも満員御礼。大野先生が冒頭、発表者と会場を繋ぐ、繊細かつしっかりしたブリッジをかけて場を設えておられました。そこに、大野先生の臨床の腕を見ました。発表者も必要な情報を丁寧に抽出していたので、次々質問が出て素敵なディスカッションが展開していました。私は、ケースには主訴の扱い方とアセスメントについてコメントさせてもらいました。こういうケースはよくありますね。そういえば、質問者はいずれも見慣れた顔ばかり、私前に出過ぎたなぁと反省です。


●自主シンポ12「思春期から成人期の神経発達症に対する認知行動療法における支援ターゲット」
少し遅れて入るとこちらも満員御礼で、企画兼発表者の金澤潤一郎先生(北海道医療大学)が話題提供されていて、事例では開始数分の観察と返しが絶妙で、問題の整理と対処の視覚化も勉強になりました。大学の先生で臨床がうまい先生ってどれだけいるんだろう。
次は、広野ゆい先生(NPO法人DDAC 発達障害をもつ大人の会)のお話で、最近は[発達の凸凹+その後の適応障害=発達障害]と診断されるケースが多いとのこと。ふむ。それなら、[A基準を満たさないトラウマ+その後の適応障害=PTSD]と診断されるケースも昔より増えているのかな。指定討論は、進化論の切り口からお話しされるという哲学者・森元先生(北海道医療大学)。後ろ髪ひかれましたが、約束もあり同じ時間帯のシンポにダッシュ=3


●自主シンポ10「“集団”認知行動療法の貢献と課題ー集団CBTが個人CBTと同時あるいはそれ以上の効果を生み出すためにー」
お世話になっている野村先生(千葉大学、大石クリニック)のお話終盤と、杉山雅彦先生(福島学院大学)の指定討論に間に合いました。杉山先生が鋭いコメントを次々お話され、私は耳も頭も追いつかず悔しい。ボイスレコーダーを持ってくるべきでした。


●行動療法士会企画シンポジウム「日常臨床におけるケースフォーミュレーションと介入の整合性ーさまざまな認知・行動的視点からの検討ー」
事例提供は岡村優希(CBTセンター)で、相当緊張しているだろうに声が前に出ていてすごいなぁと思いました。ちゃんと自分の外側の人とちゃんと話しているなー、私は内なる自分とばかり話しているなーと気づきを得ました。
で、事例の冒頭、Drの薬物療法は多剤併用めちゃくちゃで、発表者の薬の提示もぐちゃぐちゃで、指定討論の先生方は薬にノーコメントで、“このまま議論を進めていいんだろうか”と、とても不思議な気持ちになりました。また、司会の先生の質問はどれも同じ行動クラスで、ディスカッションが統合も展開もせず…。誰か流れを変えてくださいと考えイライラしました。長い時間イライラに曝されていたらいくらか馴化したようで、1人行動療法を堪能していました。最後にようやくフロアーと対話する時間が設けられたので、投薬について質問してみました。
このディスカッションが、誰も流れを変えられないというスキル不足から成っていたならまだしも、偉い先生への遠慮や政治的な理由から誰も流れを変えなかったのであれば、学びの場としても事例提出を許可してくれたクライアントに対しても、いかがなものかと思います。と、ここまで書き出してみると、そもそも学会とは大学の先生方を中心とした政治的な場所であり、会場全体は適応的な反応だったのかもしれないと反証できました。この場をお借りして、1人認知療法で落ち着きを得ました。


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<4日目>
来年の某学会の打合せに愛媛県へ移動しました。3時間ディスカッションし、学会最終日の未消化な部分を充分埋めるだけのものを得て、無事帰路につけました。


仕事に戻り、新規ケースさんの主訴を丁寧に展開させてみました。思考と感情の回避が中心で、解離もあるクライアントさんでしたが、当てるべきところに当たり、ぐっと進みました。
あと、体を使った自動詞・他動詞のワークを、身体的・精神的被虐待を満たす体験と身体表現性障害を持つクライアントさんと一緒にやってみました。体験重視のはずですから、回避として機能しないように教示は「ちょっとやってみましょう」以外、一切しませんでした。感想を教えてもらうと、いい感じでした。

どちらも、アセスメント→介入→結果→結果検証/アセスメント→介入→結果…が私の中にありますが、行動の定義を満たさないものも少なくなく、行動療法として認められるか怪しい展開です。録画させてもらうと良かったです。新たな技術と成果を得たものの、このままいっていいのか不安なので、どこかでコメント得る場を持たないといけないなと思いました。


最後に、学会をオーガナイズしてくださった先生方、ありがとうございました。
9年前は、“行動療法=ネズミさんに電気をあてる=野蛮な療法”と、本気で思っていました。申し訳なかったです。
今では、多くの学びや気づきを得る場になりました。来年は新潟開催、楽しみです。
その前には、コロキウム2016が福井県小浜市で開催されます(準備委員長、嶺南こころの病院の岡本章宏先生)。変な遠慮や政なしに、楽しく学べたらいいなぁと思います。いろんな先生方とお会い出来ますこと、楽しみにしております。
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投稿者: 別司ちさと
2016-10-13 22:10

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