12/15: 対人関係療法研修(第13回滋賀CBT研修会)参加記 西川

この度、縁あって、対人関係療法の臨床実践家である生野信弘先生にはるばる滋賀までお越しいただき、対人関係療法の臨床の実際についてお話しいただいたので、その感想を書いてみます。
CBT研修会なのに、対人関係療法の話とは、こはいかにって感じですよね。

生野先生は、某NHKの「うつと躁うつを知る」というシンポジウム&パネルディスカッションでご一緒して、その他色々となぜか縁ができてきた先生です。最近では狛江のCBTセンターがそれなりに近いので、実際やり取りさせてもらっています。

そもそも対人関係療法とは、精神分析に端を発した短期力動的精神療法の一つで、海外では認知行動療法と双璧をなしてエビデンスを出している介入法です。
対人関係療法は日本においてそれほど人口が多い療法とは言えず、学会もないのでたまに他の学会(認知行動療法の学会でも)においてワークショップがなされたりしています。実際私も一回受けたことがある気がします。

まあでも、しかし、対人関係療法の臨床現場で何が起きているのかは、どの対人関係療法の研修を受けてもよく分からないというのが、実際のところです。
活き活きとした臨床が見えてこないというか・・・。

そんな中で、生野先生に「臨床現場で実際に起こっていることに重点を置いて、お話し下さい」とご無理をお願いして、今回の研修が成り立ったのでした。
そっちに重点を置いてもらう事で、基礎の話が減っちゃったけど、そこは出入りの本屋さんが会場に水島先生の本を山積みしておいてくれたので、それ読んで勉強してくださいという体でした。(けっこう売れたって言ってました)

対人関係療法も認知行動療法と同じく“エビデンスがある”という部類の心理療法ではありますが、「エビデンス」という言葉に必死にぶら下がって薄っぺらい話をされると、「お前の治療にはマシなアウトカムが無いから、他人の成果を強調してるんだろ」って勘ぐりたくなっちゃいますよね。


さて、研修の感想を正直に書くと、「対人関係療法は、私にはまだよく分かっていない。まだ理解できていない」という事になります。
何だそりゃって感じですが、誤解の無いように言えば、講師の生野先生自体は、おそらくこれまでにないぐらい丁寧に、対人関係療法の基礎から応用までご説明頂きましたし、門外漢の私が聴いていても、その臨床実践は素晴らしいものでした。
しかし、それを聴く私の方に、対人関係療法のエトスとして奥底に流れている『精神分析』を理解するための素養というか、素地というかが全く持って存在しない事に起因していると思います。それは言い換えれば、『対話のもつ力動』を理解し、利用する素地が無いのかもしれません。

会場に来ていた、どちらかと言えば精神分析がルーツの先生に「どうですか?」と話を伺ってみると、「非常に分かりやすく、理解しやすい。講師の言っていることがスーッと自分の中に入ってきて、とても馴染む」とおっしゃってましたから、これは本当にそうだろうと思います。

もちろん、幾らか認知行動療法をかじってきた身であるので、対人関係療法でなされていることを、認知行動療法の視点から見て、あれこれ思う事は可能です。
実際そうやってアレコレ思いを巡らせていたところ、生野先生から、「西川さんに認知行動療法から見て対人関係療法はどうか、その違いは?」などとキラーパスが飛んで来たりしました。

私がその時、急遽応えたのは
・認知行動療法、対人関係療法共に、クライアントさんに起こる外的/内的な出来事同士を結び付ける関係性のあり方を、治療仮説の枠組みの中に乗せて、再構築していくことを目指すという点において同じである。
・クライアントさんが発した言葉は何だったのかを聴くこと、それはどのような意図や期待に基づいての事だったのかも聴くことを対提示していくことで、却ってそれら二つ、つまり「発した言葉とそれにまつわる思い」が違うものだということを明白にしている。これはいわば、認知療法における出来事と認知を分けることに相当すると思う。
・しかし、認知行動療法では、クライアントさんとその家族がどのような会話をしているのかある程度尋ねるにせよ、対人関係療法でやるような「それが治療の柱」であるような聴き方ではなく、あくまで関連する不都合な認知や行動を明らかにしていくための「手段としての聴き方」であって、丁寧さに欠ける。
・家族に実際何かを言ってみることと、その反応について客観的に見つめること。これは行動療法と同じ仕組みである。すなわち、そのレスポンスによって言った事が強化されたり、弱化されたりする。いずれにせよ、発言と反応に注意を集中させるように促すことで、良きにつけ悪しきにつけ、自分の発言が自分の環境に対して影響を与えうるという事を学ぶことができる。すなわちこれは機能を発見するという事であり、別の言い方をすれば自己効力感を高めることになる。

もう、なんというか、完全に認知行動療法の考え方ですね。

しかし、じゃあ、対人関係療法とは、対人関係に対する本人の認知や行動を扱っているだけの亜流の認知行動療法なのかと言えば、おそらく全くそうではないでしょう。

その理由は、一つには、対人関係療法における診断、すなわち、この人の対人関係課題は、役割の変化なのか、不和なのか、欠如なのか、・・・etc.を行って、それに基づいてヒストリーをまとめあげ、一緒に対人関係課題に取り組んでいくという一連のプロセスが、認知行動療法とは非なるものであるからです。
どのような治療においても、治療者が行う示唆(治療的介入)が似たり寄ったりになる事はあり得ます。しかし、なぜそのような示唆がおこり、そしてその結果どうなると予期しているかにおいて違うのであれば、それは違う療法です。
ある療法と別の療法を分けるのは、この診断と介入の独自性にあると思います。


もう一つの理由は、対人関係療法の治療における作用機序が認知行動療法的に理解不能だからです。
なされた会話の一つ一つの会話について、前述のように認知行動療法の視点から「ああかな?こうかな?」と思う事はもちろん不可能ではないですが、それらを束ねるマクロな作用機序について、認知行動療法の枠組みからはうまく把握することができませんでした。
セラピストとクライアントのやりとりについて、「認知行動療法だとこうするな、そうはしないな」というところはいっぱいあるが、それはあくまで認知療法的、もしくは行動療法的な作用機序を満たしたいがためであって、対人関係療法の理解につながらないかと思います。
逆に言えば、そういったミクロな理解もどこかしら的が外れており、認知行動療法の視点で考える限り、対人関係療法は理解できないのだろうと思います。

そんなわけで、今回の研修の一つの感動は、「対人関係療法と認知行動療法は、なんて違うんだろう」という点にありました。



さて、研修で取り扱われた問題は、長く続く抑うつ(気分変調性)の困りごと、過食や拒食の困りごと、解離の困りごと、PTSD?の困りごとなど、多彩でしたし、どちらかと言えばだれが何をやっても難しい部類の困りごとでもありました。
今回の研修ではそれらクライアントさんとのやり取りの逐語が提示され、読みあわせされることがたくさんありましたが、そもそも逐語というのが凄い。
対人関係療法では対話が重んじられるため、セラピスト-クライアントの会話も逐語で書かれ、クライアント-家族との会話も逐語に類するように丁寧に、その場が描きだせるように聴きだすことになっているんだそうです。

翻って見て、認知行動療法は、そんなにも対話というものを大事にしてきたでしょうか?んー、わたしもたまには逐語とかするけど・・・、手間だし・・・自信ないなあ。

その「対話を大事にする姿勢」は、すなわちクライアントさんにとって安心できる、抱えてもらえる環境そのものを作り出すのだろうと思います。
事実研修会では、聴衆からとてもたくさんの質問がなされ、講師はそれに気さくに、正直に、かつ丁寧に答え、という対話がなされていました。
そのやりとりを観ていると、正しくこのように、面接室がクライアントさんにとって安心して聴きたい事をやりとりできる空間となっているのだろうなと類推できました。
まあそれは、対人関係療法治療者が皆そうしていることなのか、生野先生個人の力量なのかは、ちょっと判りませんでした。

判らないついでに言えば、生野先生はご自身の来歴において精神病理学からユンギヤンとしての背景を持ちつつ、対人関係療法家として確立されているHybrid(Contamination?!)だそうなので、そのようなバックボーンが臨床家としての厚みを増して含蓄のある治療になっているのかとも思いました。

その分厚い抱え込める力の中で、クライアントさんとの対話を通じて対人関係を作りつつ、またクライアントさんの重要な他者との対話に影響を及ぼしていくことができる。それを治療として成立することができるのだという姿勢そのものに、実に感動しました。
そういったものは認知行動療法、というより私の臨床には少し(いやかなり?)不足しているなあと思いました。私のやってるのは、対話っていうより会話ですね。

しかしこういった、「認知行動療法と対人関係療法の対話をめぐる対話」って、企画としては面白いと思います。
私ではなかなかに役者が不足しているので、ここは一つ原田誠一先生ぐらいにどーんと登場してもらって、企画シンポとかで対話について対話してもらうと非常に面白かろうと思います。


最後になりますが、本当にこちらがご無理を言ったことで、紆余曲折を経ながら遥々滋賀まで来ていただいた生野先生には御礼申し上げます。
大変勉強になりましたし、アンケート的にも絶賛の研修会となり、とてもよかったです。
北は北海道から南は熊本からまで、はるばるお越しいただいた先生方も満足されたことと思います。
投稿者: 西川公平
2015-12-15 19:15

Comments

コメントはまだありません。

Add Comment

TrackBack

トラックバック

トラックバッックはありません。