2015/10/14: 日本認知・行動療法学会 第41回大会参加記 西川

些かタイミングを外した感もありますが、仙台で開催された日本認知・行動療法学会 第41回大会に参加してきましたので、備忘録など。

今回の学会は、大会シンポの指定討論が1本、自主シンポの企画司会が1本、連名のケーススタディーが2本、ワークショップ講師が1本と、なかなかのスケジュールで、実のところ他所を観て回る余裕が無かったというのが正直な所。
少なくとも時間と会場を間違えないようにするのに、当日の自分の90%の力を使っていたように思う。残り10%は美味しい牛タン屋の探索に使っていた。

そんなわけで、報告が手前味噌になってしまう事、申し訳ありません。

初日の朝は、スタッフ岡村のケーススタディー。いつもギリギリまでいろいろ危ぶまれるが、当日の発表はそれなりに堂々としており、開き直るまでにずいぶんスロースタートな事が思われる。まあでも発表も、質疑もそれなりに答えており、一安心。
しかし、質疑の時間もそこそこに、自主シンポのために別棟の会場に向かう。

自主シンポは「認知行動療法のアウトカム」ということで、CBTセンターのこれまでの全ケースについて、4人のスタッフが4つの角度からあれこれ分析したものが提出された。
この日までのデータ入力作業は正直言って中々に大変だったが、その後の分析も念入りな予演の甲斐あって、ギリギリそれなりの体裁を整えていた。
指定討論の原井先生は、発表の論としての体をなしていない所には、敢えて目をつぶっておられるようで、「そーゆー風にまとめて発表する事、しかもスタッフがそうする事って、大事だよね」という緩コメントをされる。ついでにご自身で訳された本の宣伝もされる。
参考文献
医師は最善を尽くしているか―― 医療現場の常識を変えた11のエピソード
アトゥール・ガワンデ
みすず書房
売り上げランキング: 174,875


上記の本にも書いてあるし、原井先生にも「手前味噌じゃなく、競えよ」とご示唆を頂いたので、今回のアウトカムの出し方をレクチャーするミーティングをSkype上で行います。
お暇な方はぜひ来てください
公開アウトカムミーティングhttp://cbtcenter.jp/blog/?itemid=1820


しかしまあ、分析の角度がいろいろあって、90分のシンポにしては盛りだくさん過ぎた気もしなくはないけれど、”今まとめないと結局まとめないし”という事で、やりきっちゃった。老若男女、困りごとの大小を問わずやっていると言えば、それはそうなんだけど。

学会で発表する事や、アウトカムを出す事は、開業カウンセリングルームにとってどんな意味があるのだろうと、しばしば思う事もあるが、実際やってみると私も含めてスタッフのブラッシュアップにつながっているような気が無きにしも非ずなので、継続しています。
臨床とはあいまいで、目に見えにくいクローズなものなので、どこかで詳らかにすることは、一つの倫理観だと思う。とりあえず、もう少しデータを見やすいように整理して、ホームページ上にも治療成績をアップしたい。
まあでも、データ入力はお疲れ様でした。データを元に10本ぐらい論文書ける気がします。論文になって届くとなれば、編集委員の原井先生も、ピリッとした苦言を呈してくれるものと期待。

いずれ私が学位を取ったあかつきには認知行動療法研究所(CBTらぼ)を開所するのも良いなーって思ってますが、いつになるのやらです。

シンポの趣旨は、こんな感じでした。認知行動療法はエビデンスがあるとか無いとか言われてますが、それは大抵海外のデータであって、日本のデータではありません。日本人が日本人に認知行動療法をやってどれほど効果があるのかというのはほとんど不明です。 
しかし、認知行動療法はとりあえずデータを取って、それに基づいた介入を行うという療法ですから、基本的にアセスメントを取っています。
CBTセンターでも来た人全員にデータを取っていますので、「さあ、まとめようか」と思い立ったときにはレトロスペクティブに研究ができるわけです。

一方で、一般的に精神科やカウンセリングルームではほとんどデータを取っていません。状態が良いとか悪いとか、良くなったとか悪くなったとかは、治療者の純粋な勘と経験に拠るわけです。
思い切って言えば、全員にデータを取っていないところは、全員に認知行動療法をやっていません。コラムを使ったり、それっぽい事はしているかもしれませんが、それは認知行動療法の枝葉末節です。データを取る事は、認知行動療法にとって、技法の前の前提なのです。

クライアントさんにとって願わくば、すべてのこころの治療機関が治療成績を開示することが望ましいのだと思いますが、なかなか難しいのかと思います。なぜなら、色々聞き及んだところによると、そんなデータが好きな認知行動療法の学会員でさえ、論文書くとき以外はデータを取らないようなのですから。

アセスメントは、クライアントさんのために取るのはもちろんの事、スタッフが自己研鑽のために取るというのが一つの在り方じゃないかと思う。論文の為とかではなくってね。

ま、それはさておき、こぼれ話としては、スタッフの一人は生後6か月の乳飲み子を抱えての発表とあって、一番ヒマな私が、結構抱かせてもらう機会を得ました。
発表途中で会場係の方が、「可愛いですねー」なんて言うものだから、短い私の出番の合間についつい抱っこしてもらったりしていたところ、どんどん会場スタッフが集まってきて、注意されるのかと思いきや、「俺にも抱かせろ、私にも」と押し合いへし合いになってきて、出番が終わって赤子を回収しようとしても、「まだ、大丈夫です。遠慮なく」と突っぱねられて、後半私の元に赤子が帰って来る事は無く、いつの間にか会場後方に簡易ベッドが作られるなどして、大変なモテっぷりでした。

それはそれでまあ、大変にありがたかったのですが、しかし2,000人を超える所帯の学会になったわけだから、託児ぐらいは作って欲しいなあと強く思います。
ここ2年間要請しているが、いつも返事は「次年度の検討課題とします」で終わってます。実際託児をするとなると色々艱難辛苦はあるのだろうけど、それはそれで乗り越えて欲しい。心理士は女性が多い職種だし、いつまでも少子化促進学会ではいかんと思う。
 そのスタッフがシンポ終わって即とんぼ帰りするというので、「それはいかん。せめて牛タンを」、と一緒に食べに行きました。太助の牛タンは美味かったです。


戻ってくると、連名発表者の岡本さんのケーススタディーが始まっていた。まあでも、事前に4回ぐらいSVしてるので、インテーク情報は判ってるし、と言い訳しつつ遅れて会場入り。
学会初発表とは思えないぐらい堂々とした発表ぷりで、質疑にもしっかり答えていて、危なげなく終わって良かった。ちょっと質疑が少なかったかもしれないのが残念。
もうちょっとアレコレ詰めてディスカッションしてもらえるような地域の勉強会で再度出すのがいいかもしれない。


終わって大会企画の「認知行動療法の工夫が生まれる瞬間(とき)」というシンポの打ち合わせ。大ホールで大層な感じ。私は何分喋るのか、喋る順番は何番目かがようやく決定する。打ち合わせは重要だなー。
私が事前に準備したのは有名な2chのスレッド「嫁の飯がマズイ」http://matome.naver.jp/odai/2125400979701369703のタイトルを収集しておいたぐらいで、あとはシンポジストの発表を聴きながらスライドを作成。

まあ、私の指定討論の趣旨は、「臨床とは目の前の人に合わせて工夫をする事なので、『臨床の工夫』とは、『小さいミニカー』のような剰余語に聞こえる。」ということと、「あえて工夫と言えば、工夫とはクライアントからのレスポンスの随伴によって強化/弱化されてきた臨床家のヒストリーなのであって、あえて『工夫をする』などという必要は無い。工夫は起こるもの。」ということと、「**障害の人には##する、みたいなルールに支配されて目の前のクライアントを観ない限り、工夫という名の余計な事ばかり生じて、迷惑」ぐらいなものです。
工夫=良い事みたいな前提って論理が逆転しててなんか変ですよね。

司会の伊藤先生がお好きな感じの”フロアと一体となってディスカッション”の時間がしーんとしてるので、盛り上げようと「スベった工夫」曝露大会をシンポジストに振ってみるも、大して盛り上がらずに終わる。

なぜか前提クラッシャーとか言われました。


終わって懇親会。テキトウにおしゃべりしつつ、若い人らに「固まってないで、今日聞いた発表者の所に言って名刺をもらってきて、最後に皆で名刺じゃんけんをしなさい」とおっさん臭いアドバイス。
名刺じゃんけんは集めた名刺をいっせーのーで!で出して、どっちが強いか決めるという遊びで、若いころはよくやりました。最近は強い名刺が集まらないので、やってないけど。


2日目は1日目と違って、一応末尾に名前の載っている事例報告と、ワークショップしかないので、結構余裕。
ワークショップの準備として、故ジョニー久保田を思って、ネタを仕込みにLOFTをうろつく。マジック品の所であれこれ観てみたけれど、クロースアップマジックのものが多く、ワークショップの場のようなステージで映える品が見つからない。
グーグル先生に聞いて、仙台のマジックショップにあちこち電話をかけてみるものの、遠いか、地味すぎるか、派手すぎるかで、なかなか良い品に巡り合えない。電動で会場を飛び回る鳩とか、ちょっとやり過ぎだろう。
仕方がないので、とりあえずLOFTにて、Trick or Treatと書かれた小さなくじ引き用カバンと、ハロウィン仕様のクマのぬいぐるみを買う。“このクマさんがくじを引く”というていでどうだろうと、ぬいぐるみの手に粘着テープを貼って、みたものの・・・・んー、上手く紙がくっついてくれない。

結局クマの出番全くなし。ワークショップの準備って、難しいなあ・・・。


そんなこんなでグダグダしながら会場に行って、しばし本屋さんと談笑する。違う棟にある事もあって、びっくりするぐらい人が来ないらしい。可哀想に。
遠見書房では先日の割引チケットを使った人が3人ぐらい居たらしい。「御蔭さまで」とか言われたけど、何がお蔭か判らないけど、とにかくチケット使ってSVに来た人が一人もいないのは確か。
SVもSkypeでできるようにしないとなーと思いつつ、結構経ってしまった。まあ、また、今度で。


行動療法士の研修会では鶴先生が動作法の話をされていた。けっこうグダグダした話だったので後ろでワークショップの準備などをしながら話を聴く。ところが、じゃあ実演を、となるや否や、途端にシャキッとされる。「動作法って言葉じゃないんだな」と思う。

その後はスタッフ栗原の発表。なんでか判らないけどよくなって良かったという事例。そんなにディスカッションは盛り上がらずに終わる。途中で岡嶋先生が「強迫の治療に認知療法を入れると却ってダメになる」みたいなことを言うんだけれど、誰も拾ってくれずにスルーされる。そこを聴衆がディスカッションしないんなら、資格の意味ないなー。


その後ワークショップの会場に向かうも、前の講師が長引いているのか会場に入れない。音声チェックしたいんだけどなあ・・・困ったなあ。
ようやく会場が空いてみると、頼んでいた机といすの配置がなされていない。自分でやって原状復帰しろとか言われる。仕方がないので参加者に手伝ってもらいつつ、配置を終えて、ちょうど時間だ、さあ始めようかと思ったら、今度は受付が終わりきっていない・・・

困ったなあ×2と思ってると、会場係の人が「人数が多くて受付が終わりませんでした」とか言ってきたので、「そんなん前の研修が押しているのが分かった時点で、会場の外で早めに受付開始しておけば済んだことだろう」と言い返す。そんなこんなで受付が終わったのは開始時刻10分後。出足の悪いスタートとなった。

聴衆に色々聞いてみると、どうも認知行動療法をほとんど全く知らない人が結構入っているらしい。
うーん、対象を誰でもOKってしてたっけな?してたかもしれない。
ということで、ごく簡単に認知療法と行動療法の基本についてレクチャーする。

前説を終え、じゃあロールプレイしようとなった時には、既に開始30分後ぐらいになっていた。
おかしいなあ。1時間1ロールプレイの予定で三回できるはずだったのに。まあ、10分は伸びるの仕方ないにせよ、どこで詰めていこうかと悩みながらあれこれする。

その後1回目の模擬面接では長浜赤十字の岡本さんが、真に迫った強迫のクライアント役を演じ、くじで引かれたセラピストたちは次々と敗退する。冗談で中京の首藤さんにも振ってみたりもするが、奮戦むなしく敗退する。

しかし私にとっては特にピンチではない。なぜなら最後尾に岡嶋先生が控えていたから。「先生、お願いします」と、どこかの悪代官のようなセリフで、セラピスト役を演じてもらう。さすがにそれなりに収めるなあとみんな納得してた。
私的にはちょっと生煮えな感じが嫌だったから、その続きがやりたかったけど、皆がイイならまあ良いかと放置。

続いてロールプレイの2回目。みんな必死でロールプレイをしている。私もみんなの間をすり抜けながら、必死で働いている振りをする。

2回目の模擬面接は、疼痛のクライアントさんをくじで引かれた二人目のセラピストがそれなりに展開させる。まあ、模擬1ほど手ひどい感じじゃないし、後誰がやってもそこそこになるはずだから、これで終ろうか悩む。時間もないので、(私が)模擬の続きをやって終わらせるか、ロールプレイ3に移るか聴衆に聞いてみると、ロールプレイに行きたいと多くの人が言うので、まあいいかと終わる。
でも後々飲み会でアンケート観たら、結構な数「西川も模擬をやれ」とあったので、やっても良かったなと反省した。あそこから2,3分で終れたぐらいだと思う。

まあ、そんなわけでロールプレイ3。みんな頑張ってロールしているなー。ちょっと抜けてタバコを吸いに行くも、上手くバレずに帰って来れる。「5分経過」とか、「あと1分です」とか、全くでたらめな時間で告げるなど、結構カツカツの時間でロールプレイしてたけど、皆さんそれなりに展開している風に見える。練習の成果だろうか?

最終的には講師が特に何も教えるというほどの事は無く、参加者それぞれがワークをして学びを得た感じに終われたのでよかった。
講師が能書き垂れて・・・というワークショップは実際なんら技術を伸ばさない。誰かから何かイイ事聞いて臨床が上手くなったなんてことないしね。結局自分なりにあれこれ練習するしかないと思う。
そして、このワークショップで練習したことは、実際の自分の臨床の場面で、必ず顔を出してきて何かの示唆を与えてくれるだろうと思う。その示唆は参加者それぞれに違うので、私にはそれがなんだか分かんないですが。

ともあれ、ワークショップは終わり、参加していた何人かと懇親会に行く。回収したアンケートを読むと、架空の事例より自分の困っている事例でロールした方が、クライアントさんの気持ちも良く判って、リアルで、良かったと結構書いてある。「クライアントさんはあの時苛立っていたんだとはっきり判った」とか(笑)。
でもまあ、疲れていたので、一次会でドロンさせてもらう。

そう言えば、日本・認知行動療法学会でワークショップするの初めてな気がする。まあでも、ここ1,2年神村先生に引っ張ってもらってサブをやらせてもらってたから、そういう実地で学ぶ場を提供してもらっていたおかげとも言える。


一夜明けて、もう何も出番がなく、ワークショップに参加するだけなので、とりあえず午前中は仙台を観光する。けっこう暑くて、荷物を引きながら歩いて疲れた。午後からはさくら新潟の小林さんの初級ワークショップに参加。それなりに嫌な顔されるものの、大人しく話を聴いてた。小林さんの話は接遇の話が多いなー。

ワークショップが終わって三々五々とはけてくるところ、金澤観光の添乗員さんと合流。お任せで帰り道で、食事ってほどではないけれど、ちょっといい感じの所に案内してもらうと、正しくそんな感じの所に案内してくれる。さすがプロは仕事が違うと感心。

そんな感じで認知・行動療法学会でした。来年は徳島らしいけど、行くかなー、どうかなー・・・。
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投稿者: 西川公平
2015-10-14 16:56

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