2012/09/07: 休職しているのに、休まらない気持ち

MDD(大うつ病性障害)で休職を余儀なくされたものの、なかなか「じゃあ、休むか」と割り切れないものですよね。
今日はそんなお話。

うつ病という病気は、十分な休職と、服薬と、それなりのリハビリがどうしても必要になってくる。
「気晴らし」や「励まし」でごまかしているうちに発見が遅れてしまうと休職を余儀なくされる。

産業カウンセリングをやっていると、段々担当者が鋭くなってきて、休職前にうつ病の人を発見して、通院服薬だけで休まずに乗り切れる「休職の予防」が成り立つこともあるが、やはり後手後手に回って休職に至ってしまう事も往々にしてある。

「いっそ休職した方が回復も早いわ」と判断されるときは、その旨紹介状に遠まわしに書いて、それなりに連携して休んでもらっている。

さて、じゃあ、ただ休めばいいかと言われると、もちろんそれだけではない。
そもそも大うつ病という障害がただ休むことですら難しくさせてしまう。
そもそもうつ病は、「いろいろ動けなくなる病気」と見なされがちだが、動けなくなるのは幾分二次的な困りごとであって、その背景には「あれこれ考えちゃう」、「考えが止められない止まらない」という困りごとがある。

あま余りに考えすぎることは、大抵拮抗して人の手(動き)を止めることになり、動けなくなっているように見える。
極端な例が「うつ病性混迷」で、ピクリとも動かない割に、頭の中ではものすごい勢いで考えが巡っている。まあ、つまりそれは同じことだ。

逆に、ある程度手を動かした方が、アタマの中が休まることがある。
編み物をしたり、さやえんどうの蔓を取ったりしている時は、余り何も考えずに作業できる。
作業療法なんかを用いるのも、何かさせているように見えて、頭の中をさせないようにさせているともいえる。

時々休職した方がいいのに休まず踏ん張っているうつ病の患者さんが

「今なんとか自分を保っているのは仕事があるからです。這ってでも仕事に出かけているからギリギリおれるのであって、休んだらいっぺんに悪くなります」

みたいなことをおっしゃる方がいるけど、それも仕事という目の前のやる事が頭の中を多少なりともマシにさせるからだろう。

しかし、根本的にそれではジリ貧なので、さっさと休んでもらい、いったん悪くなってもらってから、良くなってもらう。大抵その方が早い。

さて、表題の「休んでるのに休めない」というのは、書いてきたように結局「頭の中が休めない」という事に他ならない。
せっかく休職して仕事は休んでいるのに頭の中は仕事の事とでいっぱいだ。ONとOFFなんてあったもんじゃない。

この間来た患者さんも、まさしくそんな感じだった。休んでひと月になるが未だに頭の中では仕事の事を考えっぱなしで、ひたすら布団の中で寝て動けない。
そこで、休職を「部署異動」になぞらえてメタファってみた。

”我々は部署を移動しても、すぐに前の部署の事を忘れるわけではない。
「あの仕事どうなってるかな?」とか、「あの取引先の件、上手くいってるかな?」とか、アレコレ前の部署の事を引きずってしまう。ともすれば今の部署の仕事が手につかないほどに。

休職しているあなたは「病人」という部署に配置転換がなされて、目の前の主な仕事は「自分を治す事」に他ならない。
さしあたっての仕事は24時間ベッドに居る状態を、それなりにベッドから出て起きてなんかする事だ。”

小耳にはさんだ話、対人関係療法では、けっこう「病人」というSTATEをしっかりと築きあげると聞いたけど、まあそんな感じにやってみた。

ついでに心理教育として
”健康な状態では今の時点から考えて、せいぜい前後12時間ぐらいのことしか考えない。
うつ病という状態では、過去の事「あの時ああしてたら、この時こうしてたら」と遠くを考えたり、
未来の事「この先どうなっちゃうんだろう」、「ひょっとしたらこうなるかも」と遠くを考えたりして、結局のところ目の前の事から気が逸れている。
そして考え出すと止まらないので、目の前の事に取り組めないまま時間が過ぎる”

とお伝えして、

”従って、前の部署のことや前後12時間を越えることを考えだしたら、その状態であることに気づき、今の現実に戻ってきて今の仕事「治す事」につながる、「ベッドから起きて何かする事」をしてください”
という方向性を伝えた。
思考の渦巻き(泥沼?)からちょっとでも距離が取れると良いな。

まあそんなこんなで、それなりに納得されたご様子で、良かった。ようやく休息が開始されそうだ。

なかなか休むってのも、難しいもんですよね
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投稿者: 西川公平
2012-09-07 08:38
カテゴリー: うつ・躁うつ病

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